26 夜は墓場で大捕り物
墓場に現れた侵入者が土に何かをした瞬間、大きな塊となって盛り上がり、動き出した! 少なくともこんな時間に緊急の埋葬ってわけじゃあないのは確かだろう。
「な、何だありゃ……なんかで見たような……」
「ゴーレムだよね、あれ。でも形が変……?」
道を歩いているのを見た人型のゴーレムと違って、それは昆虫めいた複数の足がある。それは、自分ができたことで出来た穴から這い出ると、大きな2本の前足を使って、近くにある墓を掘り返し始めた……
「工事用ゴーレムでしょうか……?」
「……そうだ、ケラだ。土の中に住むコオロギの一種だ。それを模してるんだなあれは」
「豆知識は良いよ。とにかくあいつが犯人で間違いなし! 触手、こっそり近づいてふん縛っちゃえ」
「へいへい……」
俺は蛇の如く地面を這い、その人影の方へ近づく。背中側に回り込み、首を狙ってとびかかる!
「うわっ!?」
巻き付かれた巻き付かれたそいつ……50代くらいの男は引きはがそうとするが、力じゃこっちの方が上! 苦しげな息を吐いたそいつの耳元に口を追加し勝利宣言!
「おらっ、観念しろ! とっととそのゴーレムを止め……」
……しようとした時。ゴーレムが重たい足音と共にこちらを向いて巨大な腕を振り上げる!
「ぐえっ!?」
そのまま振り下ろされた腕に、俺は叩き潰されてストラの所に戻った……
「やっぱ素直に捕まりゃしねえか!」
「あのゴーレムどうにかしないと! リオ!」
「や、やっぱり私ですか!?」
「他に誰が居るのさ! ほら行って!」
「は、はいぃ!」
背中を叩かれたリオが前に出て、ゴーレムと対峙する。その後ろにいる暫定犯人を逃がさないようストラは回り込むが……
「くそぅ、何だお前らは!」
「そっちこそ何さ。泥んこ遊びするにはちょっと年取り過ぎでしょ」
「ええい、見られたからには、お前らも墓に埋めてやる!」
「掘り返してるのに? そっちがその気ならさ、こっちが埋めたって文句言わないってことだよね?」
ストラはナイフを構えて腰を低くし、獲物にとびかかる寸前の猫といった様子。だがまだ早え。
「まだゴーレムが近い、下手に手ぇだすと潰されるぞ!」
「投げナイフとか持っとけばよかったかな……!」
「ええい、こんな小娘に邪魔されてたまるかよ!」
犯人がゴーレムによじ登った。背中に掴まると、ゴーレムが前足を掲げて暴れ出す!
「わわ……!」
後ろに跳んだストラが居た場所に巨大な農機具のような前足を振り下ろされれば、一撃で地面が抉られ、飛び散る! だがデカいだけあってトロい!
「な、何とかなりそう、です……!」
リオは大戦棍を構えゴーレムへにじり寄る。背後のリオへ回転しながら前足を横薙ぎに振るゴーレム、リオは棍を地面へ逆さに突き立て、受けた! 耳障りな金属音、足が土に沈むリオ……だが、止めた!
「たああっ!」
リオの反撃が頭に命中したゴーレムはぐらつく。土の塊のくせに頑丈だが、勝てない相手じゃあなさそうだ!
「うおおっ!?」
「諦めなオッサン! うちの騎士はつえーぞ!」
「ええい、くそっ!」
犯人はゴーレムの背中にしがみついた。同時にゴーレムの背中に畳まれていた羽根が伸びていく……!
「まさか、飛べんのか!? あの図体で!?」
「逃がすか、このぉ!」
ストラが駆け出し、ゴーレムに飛び乗る! 直後ゴーレムの羽ばたき、身体を屈めて、跳んだ! たちまち地面が遠くなり、俺達は空中に投げ出され……!
「うおおおおっ!?」
「うわやばっ……! 触手!」
「わーってる!」
ストラの伸ばした左腕に巻き付くように体を伸ばし、その先にあるゴーレムへ更に巻き付く! ストラは空中ブランコよろしく弧を描き、ゴーレムの背中に乗った!
「ひっ!?」
「もらったあ!」
そのままナイフ一閃、浅いが犯人の顔を斜めに切る! 更にのけ反ったところへ蹴りの一撃! 犯人はゴーレムの背中から落ち、木に茂った葉に突っ込む!
「やったぁ!」
「おい待て、このゴーレム、今落としたあいつが操ってたんじゃねえのか?」
「……あ」
俺達は一瞬固まって……
『あーーーーー!?』
「ス、ストラさーん!?」
体勢を崩したゴーレムと共に俺達は落下していくのだった……
「だ、大丈夫ですか!?」
「何とか~……」
「次からもっと考えて動けよな……」
前転の途中のように、上下逆さになって体を折り曲げたストラ。怪我がないようクッションになって受け止めた俺に感謝の言葉くらいあっても良いもんだが。
「(……いや、これはこれで眼福……)」
逆さのストラは服が捲れ、その奥にあるささやかな
「視線」
「ほぎゃっ!?」
久々のビリビリを食らった。もうちょっと角度を付けて奥まで覗いておけばよかった……
「で、あいつは?」
「あそこに引っかかってますけど……」
「よし、取ってこい触手」
「俺は犬か」
ストラが立ち上がって土を払い、俺は枝に引っかかって伸びている犯人を引っ張って下ろす。ゴーレムは頭から墓地の壁に突っ込んで沈黙しているし、もう大丈夫と見ていいだろうが……
「背部に、犯人が刺していたものがあります。調査を提言」
ニックがそう言うので、見ておくことにした。ゴーレムの背中には二の腕ほどの長さの鉄杭が刺さっていて、それが淡く光を放っている。
「魔法道具ですね……即席でゴーレムを作れるものかと」
「よーし、貰っとこう」
「資料の確保を確認しました。詳細な解析を要求します」
ストラがそれを引き抜くと、ゴーレムはボロボロと崩れて土の塊に戻る。これでもう暴れることも無い、何気にニックも興味を示している……で、だ。
「こんなもん使ってまで何がしたかったんだ? あいつは」
「さあねえ。それは本人に聞けばいいんじゃない?」
「あ、丁度ライアさんも戻ってきました……!」
松明やランタンを手にした男たちが、こちらに向かってきた。その先頭に居るのはライア……墓地の惨状に驚いたようだが、それ以上にそれをやった奴に驚いていた。
「ガヴィーノさん……!?」
「ガヴィーノ? なんか聞いた名前だな」
「この墓地の地主です……」
「なんだかよくわかんないけど……とりあえずこいつが墓荒らしの犯人なのは間違いないよ。やい、起きろ!」
ストラが犯人改めガヴィーノに蹴りを入れて起こす。目を開いたそいつは、自分が置かれている状況を見て、観念したようだ。
「ライア、これはお前の差し金か? 余計なことを……!」
「どうしてこんなことを……」
「あ、私帰るね」
「ストラさぁん!? 今大事な話をしてるところですよ!?」
「だって仕事は終わったもん。眠いし」
「男の話とかきょーみねーしな」
と、立ち去ろうとしたストラの肩がガシッ、と掴まれた。
「すいません、事情をお聞きしたいので来てもらえますか」
髭を生やしたいかつい衛兵がしっかりとストラを捕まえている……結局俺達はそのまま連れて行かれ、朝方になるまで聴取を受けることになってしまったのだった……




