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25 新能力:監視触手

 墓で死体がよみがえったかのように地面から姿を現すという事件。それの解決を引き受けた俺達だが……ライアの男関係については聞き出せなかった。無念。



「重要な事だったのによ~」


「やかましい。さて、どうするかな……」


「と、とりあえずここ離れませんか? 不気味ですよ……」


「非推奨。現場の調査を提案」


「ニック、人前で喋れたらいいのにね」


「必要以上に当機の能力を開示することは不要なリスクを産むと考えます」


「ここを調べなきゃならんのは確かだ。で、こういうのはお前得意だろニック」


「お任せください」



 ニックは墓の前に立つと、穴や飛び出した腕、掘り返された土に目から光を投げかける。



「うわ、何あれ」


「目から光がでて……!」


「なんか、ああやって物を透かして見れるらしいぜ」


「へえ~、ニックって耳が良いだけじゃないんだ」


「はい。当機は様々な機能を有し、適切な使用により最大限の効果を発揮するよう設計されています」



抑揚のない声がどこか誇らしげに聞こえる。そのまま少し周囲を歩き回ったころ、ライアがスコップを持った男を数人連れて戻ってきた。



「どうでしょう、何かわかりましたか?」


「そんなすぐにはわからないよ。色々調べてるところだから待ってて」


「ええ……お願いします」


「ニャォン」



 ニックが鳴いて、俺達を呼ぶ。そちらに行こうとしたとき、後ろから男たちの声が聞こえてきた。



「まただよ……」


「いっそ潰しちまった方が良いんじゃねえか? 古い墓が殆どだろ」


「女に墓守なんて無理なんだよ」



 その横でいたたまれなさそうにするライアの肩を抱いて……とも思ったが。まずはきっちりと事件を解決してからだ。人気のない所までいってから、ニックは高めの墓石に飛び乗り、こちらを向く。



「分析結果をお伝えします」


「呼ぶってことは何かわかったんだよね?」


「や、やっぱり死者がよみがえったとか……?」


「状況から見て、その可能性は低いと考えます」


「だがよ、いかにもそんな感じで手や首が突き出てたぜ?」


「土壌を透過分析した結果、比較的深い部分に原形をとどめた植物の葉を確認しました。これは土が上から掘り起こされたことを意味します」


「そっか、下から這い出てきたなら、上に持ち上がるだけだもんね」


「じゃあ、やっぱり墓荒らしが掘り起こして……遺体を細工して、また埋め戻したってことですよね? 一体何のために?」


「なんかの儀式って線もあるか? それか……」


「考えたって仕方ないよ、誰かがやったんでしょ? じゃあその誰かをとっ捕まえればいいじゃん」


「現場に追跡可能な犯人の痕跡は残されていませんでした。現地での要撃を提案します」


「つまり張り込みか……墓場で」


「ええぇ……」


「他に手は無いでしょうが。ほら、宿から荷物もってくるよ。武器もね」



 こうして俺達は死体を掘り返す謎の相手を墓地で待ち受けることになった。人目をはばかることをやるのは夜だと決まっている。俺達は準備をし、日暮れと共に墓地に戻ってきた。



「待つのは中央で良いとして……この墓場結構広いよね。気づけるかな」


「当機の音響検知機能は優秀ですが、万能ではありません。さらなる手段を講じることは有用であると考えます」


「見回りをしますか……?」


「見回りしてたら相手が来ないかもしれないじゃん。う~ん……」



 ストラは腕組みし……はたと俺を見た。そしてムンズと掴み……



「グエー!? なんでー!?」


「ちょっと試したいことがあるんだ、よっ!」



 ちぎった俺をベチャ、とその辺の木に張り付けた!



「お前な~、もうちょっと思いやりのある扱いしろよ~」


「はいはい。前に分裂したの操れたでしょ? で、最近長持ちもするようになった。あとは、いくつ出せるかなんだけど……」



 ストラは俺をちぎってはつけちぎってはつけ……20本を越えたあたりで、俺の頭がこんがらがってきた……!



「まて、まてまてストラ! そろそろきつい!」


「20本ってとこか。じゃあこれであっちこっち貼り付けて行こう」


「監視網の構築。大変有効であると考えます」


「触手さん、その……頑張ってください」


「リオ~、慰めてくれ~」


「え、ええと……ナデナデくらいなら!」


「しゃーねえ、それでいっか……」



 俺は墓場を囲うように、目立たないところに張り付けられた。墓場中の音と光景が一緒くたになって感じられ、本体である俺は墓場の中央でストラ、リオ、ニックと共に身を隠し、誰か来ないか見張ることになった……暖かい季節だから待つのはさほど苦ではないものの、無数の目と耳を持ったような感覚はどうにも混乱する。



「触手さ、20本も分身が居るってどんな感じなの?」


「ん~……お前らも指は全部で20本あんだろ? そんな感じ」


「じゃあ案外楽なんだ」


「楽なもんかよ、音も聞こえりゃ物も見えるんだぞ。リオ~、ナデナデ頼む……鎧は外して」


「ちょっと待ってくださいね……はい、よしよし」


「あ~、癒される……」



 鎧を脱いだリオの手は指先までインナーに包まれているが、ストラの手荒い扱いに比べりゃ天地の差……思えばこの姿になってから、やっとまともに女と触れ合えた気がする。



「あんまり甘やかさないでよね」


「いいじゃないですか、頑張ってるんですし……」


「そうそう。あ、親指を下の方に回して添えるようにして……」


「? こうですか?」


「警告。一般にその行為は男性器に対する卑猥な行為とされています」


「えっ」


「でかしたニック。ふんっ」


「ぴぎゃー!」



 俺はリオの手から離れてストラに踏みつけられた。ニックめいらんことを言う……!



「ご褒美は終わり! ちゃんと見張れ!」


「くっそ~……」



 ストラの靴にふまれたまま、俺は分かれた俺達に意識を集中させる。だが……結局その夜は何もないまま日が昇ってしまった。



「ぐへ~……疲れた……」


「ふぁ~……う……今日は空振りかあ。まあ、そんな毎日来ないよね」


「一旦宿で休みましょう……」



 俺達はヘロヘロになりながら一度戻り……そして再び、夕刻に墓場にやってきた。分体をくっつけて回りながら、再び張り込みの準備をする。ライアは2,3日おきと言っていたから今日は来てもおかしくないはずだが……暗くなった墓地の中、ただ待つばかりとなれば口数も少なくなる。ストラは焦れているのかそわそわと体をゆすっているが……そこに灯りとバスケットを持ったライアがやってきた。



「お疲れさまです……どうぞ、簡単なものですが」


「わ、差し入れ!」


「まじか、ありがてえ……っと、灯りは隠さねえとな」



 パンと果物の簡単な夜食だがその心遣いが身に染みる。バスケットを囲んでそれらを口にしながら、俺はライアに気になっていたことを訊いてみた。



「なあライアさんよ、誰かに恨まれるとかそんな覚えはねえのか?」


「恨み……ですか?」


「まあ、こういうことされるようなだよ。ここは人が少ないとはいえ街中だ、何かやりゃバレる確率は高い。なのにあえてここをってことは、ここじゃなきゃいけねえ理由があるんじゃねえかって思ってな」



 現場での張り込みの方針を取っている以上、心当たりを聞いても仕方ないかもしれないが、まあ時間つぶしの雑談にはなる。美人との会話は心の癒しだ。



「……実は、無いわけでもないのです」


「え、そうなんですか……?」


「はい、私は墓の管理を行うのですが、その中には賃料を払わない墓の処分もありま

して」


「え、お墓ってお金出して借りるの?」


「土地は有限ですから……ですので、古い墓や料金を払わない所は掘り返して共同納骨堂に入れ、土地を開けないといけないんです」


「知りませんでした……じゃあ、ライアさんって大家さんみたいなものなんですね」


「雇われですけどね……墓場そのものは地主のガヴィーノさんが持っていて。少しでも儲けを出せってせっついてくる人で……お墓はそういう所じゃない、と言っても聞いてもらえないんです」


「となると、まあその過程で恨みを持たれることもあるわな」



 俺も墓場の運営に興味を持った記憶はない、そう言う仕組みなのは初めて知った。だが、なんかしっくりこない気もする……



「わざわざ恨まれるような仕事をするなんて、嫌じゃないの?」


「親から継いだ仕事ですので。それに……」



 俺が頭を悩ませている間に、シャリシャリと果物をかじっているストラが口にした疑問にライアは小さく笑った。



「昨日そちらの……そちらの……?」


「これ? 触手で良いよ」


「触手さん……が言われたように、墓地は死者が眠る場所ではありますが、実の所生きている人たちのためにあるんです。大きな悲しみに向き合い、心の折り合いをつけ、大切な人の絆を確認する場所。人が生きていくのに必要な場所なんです」



 静かだが、それは本心から語っている声だった。



「ですので、そこを守るこの仕事を嫌と思ったことは……無いでもないですけど。それでも辞めようと思ったことは無いんですよ」


「一族の責務を引き継ぎ、誇りをもって務める……素敵ですねぇ、格好いいですライアさん」


「……お墓、か。私には縁のない所かな……」


「あたりめーだ。墓に入るようなことになったら困るんだ……ん?」



 夜の語り合いなんぞ始まりそうになっていたその時。いくつも重なった視界のうち一つで、誰かが墓地の壁を乗り越えた。それに意識を集中する……



「誰か来たぞ。墓参りって感じじゃねえな……東側の壁辺りか?」


「どんな奴?」


「そこまではわからん。暗いし物陰もあるしな」


「とにかく、行ってみよう」


「ライアさんは念のため、衛兵を呼んできてくれますか?」


「わかりました、気を付けてください」



 俺達は足音を忍ばせながら、その謎の人物の方へ向かう。そいつは月明かりが青白く照らす墓場の中でかがみ込み、何かをしているようだ……



「絶対怪しいよ、もうやっちゃおう」


「いや、言い逃れできない状態になるのを待とうぜ」


「でも……掘り返すような道具を持っているようには……」



 少し離れた場所で身を伏せ様子をうかがっていると、そいつは誰かの墓の前で蹲り……何かを地面に刺す。その瞬間、土が盛り上がり、大型馬車並みの大きさの塊が姿を現した!




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