24 墓場の美人管理人
街の片隅にある、塀で囲まれた敷地の入り口にある礼拝所。そこが張り紙に書かれていた住所だった。軋む音を響かせて玄関を開けると、冥界の神を祀ったよくある形式の祭壇がある。蝋燭の火は点いているが誰も居ねえ……
「留守かな?」
「昼間だしお仕事中なのでは? 墓地を見てみましょう」
「結構広いぜ? まあニックが居ればなんとかなるか」
「了解しました。墓地内に管理者が居ないか捜索します」
「じゃ、行こうか」
横合いの扉から墓地に踏み入る。普段は静かな所なんだろうが、この近くは工事中の建物が多く、工具の音が響いてきている。敷地はかなり広そうだが、雑草や蔦も無く丁寧に管理されているのがうかがえる。サクサクと土の音をさせながら歩くと、一組の親子が墓石の前に居た。
「……ありゃ時計屋親子じゃねえか。何してんだ?」
「ああ、皆さん……」
「昨日の今日だけど、子供は大丈夫なの?」
「はい、あの後医者に連れて行きましたが、問題ないと」
「それは良かったです。それで、こちらには……?」
「今日は妻の命日でして……ですが、こんなことでは妻に叱られてしまいますね」
「墓参りか、殊勝なこった。まあ、男手一つで大変だろうが精々気張りな」
「ええ……ところで、皆さんはなぜここに?」
「なんかこの墓の異常を調査してほしいとかなんとか。管理人見なかった?」
「管理人ですか? この時間でしたら、あちらの方で掃除をしているかと」
「わかった、ありがと」
言われた方に行く。墓石は大小さまざまだが、時計屋と会って以降人気がない。墓地だからそんなもんだと言われればそうだが。
「前方左手、人間の反応があります」
ニックの声に視線を送ると、黒いフード付きのケープを纏った女が、枯れた花を墓から取り除いていた。少し俯いた姿勢が陰気そうな気配を醸し出しているが……
「ねえ、あなたがライア? 張り紙を見てきたんだけど」
後ろからかけられたストラの声に、その女は振り向いた。フードから見える目と髪は栗色、顔立ちの整った三十路手前くらいの美人!
「はい、私がライアです。異常調査の依頼を請けて下さるのでしょうか?」
「よっしゃ、よっしゃ! すべて俺たちに任せとクブッ」
「変なこと言ったら切って埋めるから。それじゃあ、とりあえず話を聞かせてもらっていい?」
「は、はい……では、どうぞこちらへ」
根っこを掴まれたまま、俺達は墓守ライアの後に続く。歩きながら、ライアは話を始めた。
「この墓地は古くからあり、多くの人々が眠る場所です。帝国時代から、私たちはここで死者を偲び、悲しみと折り合いをつけてきました」
「前置きはモガ」
「そうだな、墓地ってのは死人のためだと思われるが実際今生きてる人間のためアダダ!?」
身もふたもないことを言いだそうとしたストラの口を塞いだが噛まれた。物事は最初が肝心だってのがわからんのかこいつめ。
「あ、あの……?」
「だ、大丈夫です。よくあるやり取りですので……それで、異常というのは?」
「……墓荒らし、なのです」
「墓荒らし?」
噛んでいた俺をペッ、と吐き出したストラの呟きには疑問符が混ざっている。墓守からすれば確かに墓荒らしは放っておけねえだろう……が。
「通報すりゃ、対応してくれるんじゃねえのか?」
「それが……」
「してないの?」
「……ただの墓荒らしではないのです。それで手をこまねいていて……」
「どういうこと?」
「見ていただいた方が早いでしょう……もうすぐです」
ライアの言葉に、俺達は三人揃って首をかしげる。だが現場を見て、俺は思わずつぶやいた。
「なんじゃあ、こりゃ……」
墓が掘り返され、棺が開けられているのは墓荒らしらしい光景と言えるんだろうが、その周りが問題だ。土を盛り上げて地面から突き出す腕や首、どれも墓石の下から出てきている。
「あわわわ……こ、これ、死者がよみがえって……?」
「そんなわけ……いや無いとも言えねえのか今の世の中」
「普通の墓荒らしじゃないってのは確かだよね」
「このところ、2,3日おきに……元に戻すのも人を雇わねばいけなくて大変なのですが、なによりもこの光景を見た人たちが……」
「ま、墓参りに来てこんなんなってたら、よろしくないわな」
妖しい力で死人が蘇って夜に動き回り、人を襲う。昔からある怪談話ではあるが。実際にこの光景を見たらそれを思い浮かべるのは無理もない。
「この墓は呪われているという声も出ているとか……しかし、私は墓守としてここに眠る人たちを、そしてその家族たちの安らぎを守らなければいけません」
「つまり、墓をこんなにした原因をどうにかすればいいんでしょ? お礼はしっかり貰えるんだよね?」
「もちろんです。修繕などのためにおいてある積立金がありますので、そこから……」
「わかった、じゃあやってみるよ。リオも、いいよね?」
「そうですね……お墓をこんなにされたら街の人たちも不安でしょうし……」
「それで、ライアさんよ。これは重要な事なんだが……」
「はい、なんでしょうか……?」
「実は厳つい旦那が居るとかそう言うこパァ!?」
「これの言うことは気にしないで、勝手に変なこと言うから」
「は、はあ……では私は埋め戻しの人がそろそろ来ると思いますので、これで……」
また毟られた。ストラの手の中でビチビチする俺と二人に妙なものを見る目を向けながらも、ライアは頭を下げ礼拝堂の方へ戻っていった……




