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18 打ち上げ!

 洞窟から出ると、太陽が少し傾き、夕方近くになっていた。石切り場の方に向かい、俺達にダンジョン攻略を依頼した石切りたちの頭領へと、ゴブリンたちを全滅させたことを報告する。



「そうか、やってくれたか! 助かった! これで俺達も安心して石切りができるってもんだ!」


「で、お金は?」


「ああ、出すとも。ほら」



 頭領が出したのは……たっぷりの金貨! これまでの相場から見て、安宿なら数十日分の生活費にはなろうかって額だ!



「わ、すごい額……!」


「あ、あの、半分こ、ってお話でしたよね……」


「うん、渡すよ。はい」



 ストラとリオも金を分け合い、これで清算完了。となれば……



「よし、打ち上げすっか!」


「打ち上げぇ?」


「酒飲んで名物食って遊ぶんだよ! リオの歓迎会も兼ねてな!」


「あ、ええっと、私……仲間になった、ってことで良いんでしょうか?」


「ん~……まあ、そうだね。また助けられたし、そう言うことにしよっか」


「あ、ありがとうございますぅ!」


「よっしゃああ!」


「なんでお前の方が喜んでるのさ」


「え、えっとその、頑張りますので、よろしくお願いします……!」


「聖地だっけ? そこに行くのはおいおいね」


「で、出来るだけ早くお願いしたいです……」



 これでリオは仲間って言うことの既成事実化完了! 褐色美人騎士とか絶対に欲しかった! リオに対して何かしようとすればビリビリだが、こっちにはそんなこともあるまい! 兎にも角にもまずは良い感じに歓迎会。どのみちもう出発するには遅いからここで泊まり……宿を取って酒と名物料理を注文することになった。



「そんじゃ、ダンジョン攻略とリオの参加を祝って、乾杯だ!」


「かんぱ~い」


「乾杯、です」



 木のジョッキに入ったのは入ったばかりというワイン、時期的にダンカンが持ってきたものか。今回は俺の分もある! まずはそれを掲げて飲み……



「ぶへっ!」


「うお、なんだ!?」


「渋い、喉が熱い……! なにこれ、ワインってこんなものなの……?」


「上等ではないですけど、普通の物だと思いますけど……」


「何でえ、ストラ酒は初めてかよ」


「……昔読んだ話では、ぶどう酒が冒険のご飯で出てたの! もっとおいしいんだって思ってた!」


「わっはっは! まあワインって言っても色々だからな、ストラの口に合うのもどっかにあるだろ! とりあえず水で口洗っときな~」


「怖くて勇猛な人だと思ってましたけど、可愛い所もあるんですね……」


「う~……!」



 初めての体験に目を白黒させているストラと、なんだかほっこりしているリオを横に、俺はワインを喉……と言うのかわからんがとにかく流し込む。独特の酸味と渋み、若干の甘みの合わさった味、アルコールで火照る感覚。この体に血は流れてないようだが、それでもしっかり感じられる。



「触手さん、器用に飲むんですね……」


「おーよ、この体になってまだ日は浅いが、まあ慣れだな! 飲み食いや巻き付いたりだけよりも、もっと色々できるはずだぜ~」


「器用って言うならリオもだけど。よく兜つけたまま飲めるね」



 ストラの疑問通り、リオは鎧姿のまま。兜の下半分だけ開けてジョッキを当てている……



「慣れですよ~。いちいち脱がなくてもご飯食べれますし。兜脱ぐには鎧外さないとだめですし……」


「お待たせしました、うちの名物、石切り焼きです!」



 そんなこんなしている間に、料理が届いた! パンにシチューにピクルス……石切り焼きというのは塩を固めてここの産物、大理石に見立てた物で、ハンマーでたたいて割ると中から川魚の蒸し物が出てくるといった代物だ。



「こんなおっきな魚、ナイフとフォークで食べるなんて初めてだよ……」


「まあ、ちとコツがいるな。やってやるから見てろ、まずヒレを取って、こうやって頭の後ろを背骨まで切って、あとは周りから刃を入れてく感じでな……ほれ、身だけとれた」


「おお……じゃあさっそく……うわ~! 魚がふわっふわ! 塩で包んで焼くなんて絶対しょっぱいと思ったのに味もちょうどいい!」


「うん、うまい! 葉野菜で包んであるからいい感じに塩味がしみるんだな」


「触手さんって食べた物、一体どこへ? 根元はうなじですよね……」


「さてなあ……? なんか体の中で消えてるような感じはするが。ま、飯が美味く食えるならあんまり気にしてねーな!」


「アビリティのことなんて考えるだけ無駄でしょ? もともとよくわかんないけどあるから使ってるような物なんだから。すいませーん! この魚お代わり!」


「そう、ですかねえ……? じゃあ、私ももう一杯……」



 打ち上げは明るい空気で進み、皿も空になった。そして……




「……むふ」



 時間は深夜。ボロイが物置よりずっとましな部屋のベッドで眠るストラから、俺はこっそりと体を伸ばした。目指すはリオが寝ている隣の部屋。



「夜の歓迎会~っと……」



 日中は見とがめられればビリビリが来るが、寝てる間なら大丈夫という寸法。ストラ相手じゃ起きちまうが、リオならその心配も無い。体を細くしてドアと床の隙間をすり抜け、リオの部屋にもぐりこむと、毛布から見える銀髪が月明かりに輝いていた……



「よーし、ぐっすり寝てるな……」



 鎧は壁際に立っている。つまりあの毛布の下にあるのはあの豊満ボディ! 俺は迷わずそこにダイブ! 柔らかい感触が俺を包む……



「ぐへっ!?」



 と思いきや。硬い。革鎧めいた感触と共に俺は押し止められ、べちょ、と。床に落ちる。



「な、なぜ……」


「ひゃわあっ!? な、な、な、何ですか一体!?」



 流石にリオも目を覚ました! それと同時に根元の方で嫌な感じ……



「あ、ちょ、ちょっとまって、あ、あー!」



 根元からスッパリ切断され、巻き取られて……



「仲間になったその日のうちにベッドに潜り込むとか何考えてんだお前はー!」


「いーじゃんかよー! 美人に手出ししたくなるのは仕方ないことなのー!」



 雁字搦めのボール状になった俺は床に転がされ、仁王立ちのストラに見降ろされていた……



「ま、まあまあストラさん……私は別に何ともないですし……」



 そしてリオはと言えば、首から足先まで包む紺のインナー……寝ている時もこれだった。



「そーだそーだ! なんか硬くて何にもわからんかった! 見た感じそんなに厚手でも固そうでもないのになんなんだそれ!」


「レイノルズ装甲システムの一種だと思われます」


「れい……なんて?」


「平易に説明するなら、普段は柔らかく、衝撃などを受けると即座に硬化する素材です」


「そうなんですか? 私全然知りませんでした……ニックさんって物知りな猫さんなんですね!」


「まあそれはさておき。問題はこのエロ触手だけど」


「俺は諦めん! 何としてでもこの体であんなことやこんなことをブゲッ」


「ま~、こういう奴だから言うだけ無駄だと思う。なんかあったら斬るなりちぎるなり潰すなりしていいから」


「は、はあ……」



 ストラの靴でふまれた俺はそのまま窓から投げ捨てられる。



「くそ~、あと一歩だったのによ~……だがリオはそんなに怒ってなかったし、まだチャンスはあるか? あの服が厄介だが……」



 丸められた俺は所在なく転がりながら、一人反省会を始める。結果として失敗はしたが、そこから進歩してこそ成功の果実は掴み取れるってもんだ。少なくともベッドまでたどり着けたのは確か、希望はある。



「これから一緒に行動するわけだし、また機会は巡ってくる! めげるな俺! やるぞ俺!」



 ピカピカ光る月を見上げながら、俺は目標を改めて胸に誓い……石畳の硬さと冷たさにちょっぴり涙するのだった。

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