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16 レッツ、コミュニケーション!

 俺たちはひとまず食堂へと戻った。ブスッとしたふくれっ面のストラと、しおれて今にも崩れそうなリオはテーブルを挟んで向かい合っている。ご立腹のストラをどうにかなだめて、ここまで連れてきたわけだが……



「で、どうしようってのよ。ヘタレ騎士を治せるの?」


「あうぅ……」


「はぁ~……いいか……」



 注文したナッツと飲み物が届いたところで、俺は話を切り出した。こういうのはガラじゃないとは思うし正直面倒だが、今は基盤固めってのをする時期。何よりこの巨乳騎士を喧嘩別れで失いたくはねえ。一つ大人の対応って奴をやってやろうじゃないの。



「お前ら! いっぺん!! 話し合え!!!」


「はぁ~?」



 ストラは納得していないようだが、結局のところ人間関係ってのは相手の理解が必要だ。ほとんど流れに任せて仲間になったようなリオとストラにはそれがない。ならそれができる場を設けてやるべきだろう。



「自分の考え方! 目的! その他色々! とにかく腹を割って話せ! 特にストラ! お前リオに名前以外ろくに話してねえだろうが!」


「な、なによ。そもそもリオが『拾ってください』って言うから拾っただけじゃん!」


「そーれーでーもーだ! それからリオ! そんだけ立派な鎧着ておきながら動かないって言うならその理由を言え! じゃなきゃストラだって納得しねえだろ!」


「は、はひいぃっ!」


「じゃあはい! ストラから!」


「な、なんだよう、もお……わかったよ、言えばいいんでしょ言えば」



 二人の間で頭を交互に向けながらとにかく説得。ストラは釈然としない様子ではあるが、一息吐くと、話し始めた。



「私は、スラム出身。だから他の人より『下』なんだよ。だから他より沢山やることやっていかないとダメなの。だから仕事も受けるしダンジョンにもどんどん挑む。これでいい?」


「そ、その、それってやっぱりお金目当てってことで……?」


「そうだよ。お金があればお腹が膨れる、凍えずに済む、惨めじゃなくなる! 騎士のお嬢様にはわかんないかな~」


「喧嘩売らない。でもまあ、ストラの言い分もわかるだろ? 不幸な境遇を変えるため、こいつは何もかも捨てて旅に出たんだ、簡単にできることじゃないぜ」


「それは、すごいんですけど、でも見境なく危険に飛び込むのはどうかと……」


「危険を冒さないで稼げるわけないじゃん。地道にちまちまとか真面目に努力とか、やったって私は普通の人が届くところに届かないんだ」


「まあ、とにかくこいつはこういう奴でな。俺もまだ短い付き合いだが酷い目にグエ」


「で、そっちは? なんであんたみたいなビビりが鎧着込んで旅とかしてるわけ?」



 ストラの拳で机に押し付けられたが、話の流れが続いている。いい傾向だ。



「私は、その……本当はこんな旅とかしたくなかったんです……けど成り行きで……」


「成り行きぃ?」


「あ~、そこは俺も気になってた。騎士の家系っても普通そう言うのは男がやるもんだろ? 男が居なかったとかか?」


「いえ、兄が二人に弟が一人いて……私もその三人の誰かがやる物だとばかり……」


「それが何で、女のお前がやることになったんだ?」


「我が家に伝わる儀式があって……家宝の鎧、つまりこれなんですけど、この鎧は持ち主を選ぶんです。そこで選ばれた人が、騎士としての責務を果たすというしきたりで……」


「で、選ばれたと」


「はい……当主の子供は全員儀式に参加する決まりで……で、でもおかしいんですよ! 過去選ばれたのは男性でしたし私は絶対にないって……! 私は家でのんびりして、そのうちどこかにお嫁に行けばいいやって思ってたのに……」


「人生舐めた考え~。殴って良い?」


「ぴいっ!」


「やめれって。で、断るわけには行かなかったってとこか」


「しきたりですから……あれよあれよという間に鎧と一緒に授けられるアビリティまで渡されて、嫌と言いだせず……なので私としてはなるべく安全に行って穏当に帰りたいなと……」


「なにそれ。家もあってお金もあって早く帰りたいなんて、私と全然違うじゃん。無理だよこんなの」


「そう短気を起こすなよ……」



 とは言ったが、これは結構大きな壁だ。ストラはスラム出身、リスク上等。リオは安全に帰りたい。二人のスタンスはほぼ相反していると言っていい。だがこの差を埋めない限り、二人合わせて楽しい旅路というわけには行かなさそうだ。



「(よ~し、やってやろうじゃねえか)」



 差し当たりストラの意見を曲げるのは難しい。リオの方にアプローチすることになるが……騎士の家で武勇に優れたものが選ばれるってことは、当然戦いを前提としているはずだ。となると……



「なあリオ、強い奴が選ばれて鎧着て行く旅なんだ、当然、安全無事ってわけには行かないのが前提だよな?」


「へ? は、はぁ……」


「お前が家に帰ってきたら、家族はきっとこう言うぜ、どんな活躍をしてきたのかってな。その時お前なんて答える? 安全な道を逃げ回ってましたって言うのか?」


「うっ、それはぁ……」



 リオは見た感じ押しに弱い。さらに、割と体面も気にすると見た。なら、帰ってからの立場を引き合いに出せば……



「やっぱりな、実績って奴は必要になるぜ。こんな敵を倒しました、こんな危機を乗り越えましたってな。家に帰って厄介者扱いは嫌だろ~? お前の代で、逃げ回る臆病騎士の家、ってことにしちまったら、なあ?」


「うう、針の筵、針の筵は嫌ぁ……」


「だろ? だからな、今だけ! 今だけ頑張ろうぜ? こんな生意気女を無事守り切りましたって胸を張って戻ればよ、今後も安泰って、痛っ、こら、フォークでつつくなフォークで!」


「だ~れ~が~生意気だって~?」


「……わ、わかりました……」


「おん?」


「頑張って、護衛します……でも、やっぱり命が一番大事ですから……危ないってなったら、逃げてもらえると……」


「その危ないのを危なくないようにするのがあんたの仕事じゃないの?」


「そ、そうですけどぉ……」


「……ま、いいよ。引き際をわきまえろってことでしょ?」


「そうだな。どんなに金掴んでも死んじまったら使えねえしな」


「……で、ちゃんと戦えるんでしょうね?」


「が、頑張ります……」


「じゃあ、ちゃんとできるか見せてもらうから。ダンジョン行くよ」


「は、はぁい……」



 皿に残っていたナッツをストラは口に流し込み、バリバリ噛み砕きながら席を立つ。ひとまず体裁は整った、あとはリオがどれだけやれるかだ……こればかりはもう本人に任せるしかねえ。再びダンジョンに向かう中、俺は祈るような気持だった……

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