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10 キャットinキャットフィッシュ

 大電気ナマズの住処から回収した猫の像が動き出し、周囲を確認するように首を動かす。そしてこちらを見ると動きを止め……



「ニャーン」


「鳴いた! すごい! 魔法人形(ゴーレム)だ、ゴーレム!」


「ゴーレムってあれだよな、おとぎ話にある自分で動く人形!」


「もうおとぎ話じゃないよ、おっきな街じゃ普通に見るって! 凄い、お宝だ!」



 ただの像と思いきや、まさかの動く像。まるで本物のように鳴き声まで上げるとなると、思っていたよりずっと寝打ち物とみて間違いない!



「触手! 逃げないようにしっかり捕まえておいてよね!」


「おうまかせろ!」



 猫みたいに動くってことは猫みたいに逃げ出すかもしれないってことだ。首輪代わりに俺の体を巻き付け……



「お待ちください。平和的な話し合いを希望します」



 嫌がるそぶりで像が喋った。



「喋った!? 喋ったよね今!」


「ああ喋った! 何だこりゃ、ゴーレムって喋んのか!?」


「私はゴーレムではありません。私はNICです」


「ニックだって、名前付いてるんだ。前の持ち主がつけたのかな?」


「まあ、水の底に沈んでたんだ。今さら問題ねえだろ」


「そだね。じゃあ早く次の街まで持ってっちゃお」


「お待ちください。私たちは友好的な関係を築くことが出来ます」



 おれが本物の猫よろしく首を持ち上げたところで、そんなことを言いだした。理知的に聞こえるが、男だか女だかわからん抑揚のない声で……そもそも人形に男女も無いが。妙に丁寧な口調だ。



「なんか言ってるけどどうするよストラ?」


「無視無視。お友達になりたいなんて言う奴は詐欺師か人さらいのどっちかって決まってるよ」


「まあ一理あるな」


「全面的否定。私にあなた達を害する理由はありません。私達が協力的関係を築くことによる総合的利益は、売却による経済的利益を上回ると考えます」


「ふ~ん、例えばどんなよ」


「聞くのかよ」


「いいじゃん、聞くだけならタダだし、どうせ持って歩かないとだめだし」



 まあ喋る猫の彫像と話す機会なんてそうないだろう。とりあえずストラの服も乾いたことだし、次の街に着くまでの暇つぶし程度にはなるだろう。ニック、と名乗ったその猫像を吊るしたまま、俺達は次の街へと歩き出した。



「私は付近の情報を多角的に収集、分類し提示することが出来ます。あなたの目的が経済的利益であれ、社会的名声であれ、身体の安全であれ、それらに大きく貢献するでしょう」


「何言ってんのかよくわかんない」


「あ~、つまり……近くで起きてる色んなことを教えてくれるらしい」


「すごく目や耳が良いってこと?」


「概ねそのような認識で構いません」


「なんだか知らねえが、便利そうじゃねえか。なあ? 情報ってやつは大事だぜ」


「そうなの?」


「ああ、どこにどんな美人がいるか、好みの品物は何か、攻められると弱い所はあ痛い痛い痛い!」



 根元を思いっきり抓られた。ストラはジト目でこっちを見たまま胡散臭げに声を出す。



「でもさ、じゃあなんで水に沈んでたのさ。ドジなの?」


「ドジではありません。不可避かつ予測不可能なトラブルによるものです」


「何さ、そのトラブルって」


「意図しない事故により、パワーユニットに重大な損傷が発生しました。それにより私の活動時間は


「何言ってんのかわかんない」


「対象の知的水準を下方修正……端的に言えば、空腹で倒れていました」


「じゃあ飯食ったから動き出したってのか? 俺たちは何もやってねえぞ」


「そちらの環形生物型部位よりのエネルギー輻射により活動が可能になりました」


「俺ぇ? 何もしてねえんだがな」



 さっきから所々何を言ってるのかわからん所もあるが、要するに動けなかったところを俺が掬い上げたことで再び動けるようになった、ということらしい。ちなみに何を言っているのかわからないのはストラも同じのようで……



「あ~、もう、わけわかんなくなってきた……結局何ができるの? やってみせてよ」


「わかりました。次の人口密集地に到着してからご披露します。それから、降ろすことを要求します」


「逃げない?」


「逃げません。あなた達から離れると再び行動不能に陥ると予想します」


「まあ良いんじゃね? このまま吊り下げてるのも悪目立ちするだろ」


「悪目立ちって言うなら、動く猫像連れてる時点で大して変わらないよ」


「自己診断完了、擬装装置を再起動」



 ニックがそう言うと、吊るされていた銀色の猫像はたちまち、銀に黒い縞の毛並みをした一匹の猫へと姿を変えた。



「わ、猫になった! 可愛い!」


「……でも触った感じは硬いまんまだぞ。見た目だけ変えてるんじゃねえかこれ」


「なあんだ……」


 何とも奇妙な拾い物をしたわけだが、とにかく旅は続く。謎の猫像ニックを連れて、俺達は脇道から街道に出て、そこを進んでいく。それから日を跨いでしばし……



「お、見えてきたな。次の街だ」



 切り取ったナマズの肉で食いつなぎながら進んできた俺たちの前に、建物が集まっているのが見えた。街壁こそないが建物の数も大きさもなかなかのもので、前の宿場と違いちゃんとした街という感じがする。



「これなら文句ないでしょ。じゃあ見せてもらおうじゃないの、あんたに何ができるか」


「わかりました。ではまず街の中央に向かってください」


「注文が多い……」


「また、私は目立たないよう通常の猫としてふるまいます。会話する場合はなるべく人目を避けるようお願いします」


「本当に注文多いなあ!? 役立たずだったら売っぱらうからね!」



 ニックを抱えたストラはぶつくさ言いながらも街に入っていった。今まで俺達が歩いていたのはいわば裏道に当たるようで、街に入ると道は石で舗装された綺麗なものになり、徐々に人通りも多くなっていく。



「200年経っても街ってのは変わらねえな。人が多いのは良いもんだ」


「ふ~ん、そんななりでも寂しいとか思ったりするんだ?」


「母数ってのは大事だからな。数が多けりゃ多いほど、美人と会う確率も高くなる!」


「よし、ちょっとこの辺に捨てて行こう」


「あ、ちょ、やめ、あーっ!」



 ストラに根元から掴まれて引っこ抜かれた。



「やーめーろーよー! ブチッってされたらそれなりに痛いんだぞ! 切れた先にも感覚しばらく残るし!」


「やかまし! 女以外考えられんのかお前は~!」


「そのために俺は触手になったの! いやなりたかったわけじゃねえけど! 少なくともこの体で一通りのこと体験してみても良いかな~とか思うわけ!」


「ちょん切るぞこの野郎」



 ロマンを解さないストラと言い合いをしつつも、広い道が交差し、中央に何かモニュメントが立つ広場にたどり着いた。人、近くの農村から来たらしい荷車、さらには武装した護衛を引き連れた馬車までもが行き交うここが街の中心とみていいだろう。適当な建物の影に行って、俺達は早速ニックの力を試してみることにした。



「では、情報収集を開始します。どのような情報をお求めですか?」


「この街に居る美女美少女について!」


「雑過ぎる……」


「了解しました。美女、美少女に該当する情報を収集開始」


「いけるんだ!?」



 普通の銀猫の姿になっているニックは座った姿勢のまま耳をせわしなく動かしはじめた。



「何してるの?」


「周辺の会話を分析、女性に対しての好意的反応をピックアップ。出現頻度の高い個人を『美人』と定義します」


「つまり街で噂になってる美人を探してくれてるってことか!」


「はい。分析中……分析中……」



 ニックはそのまま耳を動かし続け……少ししてパタンと閉じた。



「該当3件。なお外見の美醜は個人の主観が大きく入る分野のため正確性において


「出たのか!? 良いから教えろ!」


「1.町外れにある花屋の経営者。笑顔に好評有り、求婚者複数。

 2.北部居住の住人。3人姉弟の長女。婚姻適性年齢を下回るが将来性への期待大。

 3.広場東の食堂『車輪亭』の従業員。胸部形状に高評価」


「車輪亭……ってあそこか!」


「あ、こら!」



 周りを見回すと広場に面して、看板代わりに車輪を掲げた店が一件。俺は早速そこに突入した。昼前ということでそこそこ人のいる店内に歩き回る一人のウェイトレス。顔は並からやや上程度、そのスタイルは……小柄ながら抜群!



「いらっしゃいま……せ?」


「やあお嬢さん。まずは軽く飲み物を。それからあなたの夕方のひと時を頂きたばっ!?」



 こっちを見てあっけに取られているようだが、まずは挨拶代わりに小粋なトークでもと思ったところで体が地面に落ちる。そのまま何かに巻き取られて外に引きずり出される!



「何!? 何!? あ、馬車! 馬車の車軸! 止まって止まって! 巻き込まれてる! あー! あーーっ!」



 グルングルン回る視界の端で、ストラがナイフを片手に冷たい目をしているのが見えた。根元から切り落とされた俺はそのまま車軸にすりつぶされてしまうのだった……

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