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幕間ー合格者選定ー



 奏が意識を失っていた試験終了日の夜、アスサキ護学院の一室。中央に置かれた大きな丸机を囲んで何十人もの試験官、もとい教師が席につく。それぞれが分厚くなった書類の山を持ち、合格者の選考を行おうとしていた。全員が準備を終えたのを確認して、学院長――アスター・メイウッドが音頭をとる。


「皆、まずは今年の試験もご苦労だった。今回は全体的に見てどうだ?」

「私の方はいつも通り、という感じですね。なかなかの実力を持つ者もいますが、去年と比べてどうかと言われると……大して変化はないかと」

「俺は満足だな。根性のある受験者がいたのでね」


 一人の男教師――鹿野(かの)明徳(あきのり)がそう言ったのを境に、周囲の教師の目が彼に集まっていく。それと同時に、会議室内で動揺の声が駆け回った。


 曰く、「明徳さんの試験を時間いっぱい終える子どもがいたのかと」。

 誰よりも評価が甘いが、誰よりも試験が厳しい。そう言われる彼の試験を最後まで耐えたのならば、その子どもは合格とするしかないだろう。皆がそう思っていると、付け加えるように明徳は訂正した。


「とは言え、終了の五分前だったがな。魔力を使い切るつもりだったので俺が止めさせてもらった」

「……待ってください。その受験生、名前は出南奏さんでは?」


 続いて女教師――烏川(うかわ)玲奈(れいな)が割り込む。彼女の問いに対して明徳が首肯で返答すると、ほんの数秒考えた後に口を開いた。


「私は出南さんの合格に反対します」

「ほう。玲花、その理由は?」

「これを見てください」


 そう言って玲奈がプロジェクターに移したのは、彼女の担当したフィールドの録画。ある時間まで飛ばすと、茶髪の少年に加えて特徴的な白い長髪を持つ少女が映る。映像が早送りになり、その画面に映ったのはゴーレムを一撃で半壊させる姿だった。


「奏、使っていたのか……」

「……これは驚いたな。確かにあれなら、俺もフィールド外に飛ばされたかも知れん」

「ですが――」

「気絶、そうだな?」

「学院長もご存知でしたか」

「顔見知りだ」

「そうですか……ってえぇ!?」


 困惑する玲奈を放り、アスターは約二週間前の出来事を思い出す。出南奏、彼女が目を覚ました二日後のことだった。


 

 必要無いとアスターが判断した入学試験。それを受けたいと言う奏のため、寝ていた間にできたブランクを最低限埋めようと二人は手合わせをした。手合わせとは言ってもその内容は緩いもので、奏の猛攻をアスターが受け止めるだけである。

 蹴りは混ぜない拳だけの格闘。推定高校生、やはりスラムで生活していたこともあってか動きは滑らかだった。実際の強さは置いておいて、形だけなら充分であるように見える。


「奏、体に違和感はあるか?」

「いえ、全然ありません」

「そうか。……ならいい」


 だが、それによって生まれる違和感。動きに対して身体が付いてきていない、という様な文字に起こすと訳の分からない感覚。

 スラムが劣悪な環境であることを当然アスターは把握していた。だからこそ、その違和感が彼女を刺激し続ける。奏は戦闘慣れしていない。スラムの人間であれば、老人や子どもを除いてここまで丁寧に戦うとアスターには思えなかった。


 誰かに守られていた。それが理由であろうとアスターは考える。詳しくは覚えていなかったが、あの場で奏が挙げたのは三人。計四人組で活動していたのだろう。もし見つけることができたなら、皆をこの学院に入れるのもありか。


 そう考えていたアスターは、突如目の前で発生した魔力の奔流に意識を戻す。目の前には魔法を使うわけでもなく、ただ純粋な身体強化をしている奏がいた。だが、彼女が目を見張ったのはその魔力量。

 魔力そのものの最大値はアスター以下であるが、出力だけに観点をおけば遥かに上回っている。


(ディフォン)


 危機感に汗が垂れるよりも前に、魔力を纏った。自身に向けられた拳を受け止めると、強い衝撃に襲われ手を押し返される。五秒ほど経って、堪えていた手を襲う一撃は静かに離れていった。


「奏、今の一撃は素晴らし……奏?」


 血の溢れる手のひらを隠してアスターは奏の方を見る。その目を映ったのは鈍い音を立てて地面に落ちる少女の姿。慌てて腰を屈めて肩を揺さぶるが、まるで寝ているかのように返答がない。いや、実際に寝ていた。



 あの時の症状も魔力欠乏によるもの。初めて出会った時の症状も魔力欠乏で間違いない。奏の身体には魔力を抑える力がないと言う確信を、アスターはやっと得た。彼女の発表した暫定的な理論、現在では世間で当然のように扱われる『魔力神経論』に当てはめると――


「太魔力神経症、と言ったところか」

「細魔力神経症の真逆ですね。しかし、それは――」

「前例が無いな。しかし、この映像を見る限りでは原因の特定など不可解だ」

「良いじゃないか。全身全霊で戦闘をする、実に俺好みなものだ」

「真面目に考えてください!」


 堪忍袋の緒が切れた玲奈が声を張り、室内は静まり返る。自身の声が皆に届くようになったのを確認して、一度深呼吸をしてから口を開いた。


「これが魔界で起きたらどうするつもりですか? 幸い最低限の制御を出来てはいます。しかし少し強い魔物を討伐したら気絶なんて……探索者には向いていません」

「そうならないよう俺が育てよう」

「そこまで言うなら鹿野さん、そこまで彼女に執着する理由は何ですか?」


 奏の合格に賛成を続ける明徳に、玲奈は少し不快感を持つ。彼女のためを思って反対しているのにも関わらず、ろくな根拠もなく反論ばかりされるから。

 

「簡単だろう。出南さんはほぼ常時冷静さを保てているように見えること。判断ミスが多いが、知識さえ身に付ければかなり伸びるはずだ」

「それだけですか?」

「そして、あの一撃がペアを守るために使われたこと。最初から使っていれば解決していたのに、あえて温存していた……本当に俺好みの精神性をしている」


 そう説明にもならない説明する明徳を見て、彼では駄目だと判断した。どうにか自身に加勢してくれる者はいないかと、見回すが信頼の厚い明徳のせいか味方は少ない。

 彼が正しいのかと考えてみても、やはりあの体質の少女を探索者にするのは気が引ける。最後の手段として、学院長に願うしかなかった。


「学院長は出南さんの合否をどう考えていますか?」

「無論、合格だ」


 その希望は簡単に潰える。

 

「あなたまで……どうして」

「私が実力主義でないのは玲奈も知っているはずだ。判断力で劣る、戦闘力で劣る、体質ですら劣る……そんなものは鍛えて解決できる。問題は精神の方」

「力は使い方、ですよね」

「そうだ」


 玲奈の呟きに対して、アスターは頷いて応えた。試験中に大体の試験を眺めていた彼女は、奏の貴重さに気づいている。気絶するリスクも躊躇わず仲間のために力を使う奏に対し、喧嘩、口論にまで発展する腹立たしい者もいた。

 奏以外の全員がそうであると言うつもりなどアスターには無いが、奏ならば英雄にでもなれるのではないかという錯覚をしてしまう。


「彼女は必ず成長する。他者のために行動する人間は強いぞ。……皆、出南奏の合格に反対する者は挙手を」


 その数秒後、室内で挙げられた手が過半数となることはなかった。

間違いなく作者は学校エアプ

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