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1話 運び屋に運び込まれる運命

初投稿です。これからよろしくお願いします。


 ――鏡に映る自分は本物よりもカッコいい、なんて噂を聞いたことがある。それは少なくとも、俺の中では真実だった。


 俺は誰からだって興味を持たれない(慕われている)。俺はいつも誰かを助けている(外野で眺めている)。俺は凄い強くて(弱くて)、魔法だって使えすらしない(使いこなせる)


 どちらが本当の俺かだなんて、ほんの数十秒だって考えることではないだろう。ただ鏡を通して、あの頃の憧れを重ねているだけ。どこまで行っても所詮は妄想だし、現実に化けて出てくることはない。そもそも引きずりなんてしていないし、今の生活に俺は満足している。




 ――そう答えられなかった。


 だから、俺は今日から嘘を吐く。本当は踏みしめることなんて無かったはずの廊下を歩き、俺の通うことになる場所の前までたどり着いた。ガラスに反射する『ワタシ』の前髪を整えて、私は目の前にそびえ立つドアに手をかける。


「初めまして」


 目の前に広がる久しぶりの教室。これから一緒に過ごすことになるであろうクラスメイト。周囲から注目が集まっているのを感じながら、私はその中へ足を踏み入れる。好奇や賞賛などの褒め言葉はあれど、そこに否定的な言葉は一切なかった。


 二十を超える数の視線には、絵に描いたような美少女でも写っているのだろう。その幻想を、俺は守り続けなければいけない。過去の経歴も、己の性別でさえも、全てを騙さなければいけない。


「私の名前は出南(でな)(かなで)。これからよろしく」


 私の高校生活は、そんな覚悟を持って始まった。




 ――――


『『脱兎』先輩、受け渡し場所まであと一キロっす。魔力の残りはどうっすか?』

「まだ半分はある。警察はまだいないな」


 俺は小さな鞄を持って道路を駆けていた。魔物と貧民の彷徨うスラム、そこの建物、瓦礫の影すべてを利用して一切気づかれることなく足を進める。警察の捜査網を掻い潜って見せるなんて、俺にとってはなんてことない。


 マンションの屋上からまた別の屋上へと飛び移り、下から聞こえてくるサイレンから距離を取り続ける。この様子を見ている限りでは、警察はまだ魔力さえも捉えていないのだろう。お陰で特にペースを落とす事なく進むことができた。もうすぐ目的地に着くので、万が一バレることのないよう身体の強化を止める。


「メイ、依頼者に俺の座標送ってくれるか? 一階で渡すとも伝えてくれ」

『りょーかい。じゃあ通信はこれで最後っすね。また拠点で』


 耳にあった魔道具から魔力が無くなったのを確認して、俺は屋内へと入った。埃だらけヒビだらけとはいえ、何人かは寝泊まりしているだろう。そう思っていたのだが、ここにはたったの一つすら気配はしなかった。少し驚きつつも、さっさと階段を駆け降りていく。


 太陽光によって輝く埃に嫌気がさしてきた頃、俺はやっと最後の段に足をかけた。出口の方へと目を向けると、三つの影がこちらに向かってきている。


「待たせたな。これでいいんだろ」


 その影に荷物を手渡した。中身を俺は知らないので、確認するよう促して返事を待つ。取り出して触れたり魔力込めるのを眺めていると、一分程度でその首が縦に振られた。ならば、と俺は手を差し出して相手を急かす。


「二千万だ。確認するか?」

「いや、いい。誤魔化すやつがどうなるか分かってるだろうし」

 

 前よりも少し重い鞄を受け取り、警察に追いつかれる前にこの場を離れようとした。しかし、男に呼び止められて俺は足を止める。


 どうしたのかと疑問を持っていると、男が近寄ってきて改めて札束を渡された。薄くはあるが、それでも十万ぐらいはあるだろう。視線を何度も移して、これが何なのか俺は説明を求めた。


「次も依頼する」


 たった一言。それだけを言って、まともな言葉も無しに三人は立ち去っていく。要するにチップだと言いたいのだろうが、面倒な借りを押し付けられる訳にはいかない。

 

 返そうと後を追おうとすると、遠くの方から車の走る音が聞こえてくる。それに混ざったサイレンに俺が気づかないわけもない。無駄に時間をかけてしまったせいで、無駄にリスクを負う羽目になってしまった。俺は破れた窓から外に逃げて、スラムの住人の輪に混ざる。


「一人十万。俺の事を誤魔化してくれ」


 

 結局、警察が俺の下まで来る事はなかった。運び屋『脱兎』と、そう名乗る俺の成功率はいまだに三桁から下がることはない。とはいえ最初よりも軽くなった鞄の事で怒られるのを想像して、俺はため息を漏らしながら警察のいる方とは逆の方向へ歩いていった。


 

 日も随分と傾いて、前よりも悲痛さを纏う街を歩く。マンションがめっきりと減って一軒家ばかりになった頃、俺はボロ小屋の前に立ち止まった。


 ありもしない玄関を通り、床としての役割を持っていた鉄板を叩く。いつもと同じリズムで五回。そうして待ってから十秒、鉄板は下から押し上げられ、その隙間から仕事仲間が顔を覗かせた。


「ただいま、メイ」

「先輩、お疲れ様っす。ボスが待ってるから、早く行きましょう」

 

 無駄に長い梯子を降りて、俺たちはのんびりと地下道を歩く。偶にすれ違う仲間に手を振りつつ最奥へと向かっていると、隣にいたメイは俺に少しだけ近寄って訊いてきた。


 「そう言えば、先輩って何で運び屋やってるんすか?」と。突然どうしたのかと首を傾げると、慌ててメイから訂正された。


 どうやら、俺が運び屋一本で稼いでいるのが不思議だったらしい。転移門(ゲート)の不法侵入から魔道具の先奪りだって、先輩なら何でもできるだろう――それがメイの言いたい事だった。俺をやたら肯定的に見てくれているのを分かった上で、俺は首を横に振る。


「魔物と戦うのが厳しいんだよな、俺って」

「えっと、それってどういうことっすか?」

「あれ、言ってなかったか? 魔力神経が細いんだ。身体強化は弱くて、魔法は持ってないから論外。今だって使ってる魔力が少ないから警察に見つかってないだけだよ」

「それは……でも大丈夫っす! 先輩なら――」

「おかえり」


 メイの言葉を遮って、この場に声が広がっていった。ボスが俺を待っていたのだと気づいて、邪魔にならないようメイは「また後でっすね」と引き返していく。俺はそれを見送ってから、再びボスの方へと近づいた。


「ボス、ただいま」

「リーンはもう戻っただろう? いつも通りでいいよ」


 そう言って、俺は鞄を手渡す。近くにあった椅子に腰をかけて、やっと身体の緊張を抜いた。アニノマ(ボス)が札束を数えて、やがて眉をひそめ始めた時、俺は思い出したように口から漏らす。


「アニノマ」

「何だい?」

「警察を巻く時に百万使ったから」

「奏、あんた何やってるんだい!!」


 アニノマは机を叩いて、その上にあった小物が跳ねた。これで何度目かと愚痴を言いながらもう一度数えて、納得したのか札束から手を離す。ため息を吐いている姿を眺めていると、それが怒りを買って俺は頭を叩かれた。


 あと二回はあるだろうと覚悟を決めて待っていても、何やら事情でもあるのか手は上げられない。ただその目からしてまだ切れているのだけは確かだった。


「本当なら説教だけど、あんたにはまだ仕事があるからね」

「そっか。で、その依頼って何だ?」

「まだ反省してないね」


 本来はなかったはずの二発目に頭を抑えつつ、俺はアニノマの話を聞く。何でコレを拾ったんだか、と頭を悩ませる彼女から伝えられた依頼は単純なものだった。そもそも、俺に依頼が来る時点で分かりきっていた事ではある。


「依頼の内容は魔道具の運びだ。まあ、あんた(脱兎)なら心配いらないだろうさ。ただし、その報酬は」


 ――一兆だよ。


 俺に与えられた人生最大の仕事。ここの仲間にも分けれる程の大金が報酬の仕事。


 それは、俺の運命を分ける仕事だった。

改行ってどれぐらいのペースでやるもんなんだ?

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