クラス…①
俺は道中もジンの独り言を右から左に
流しながら歩き、
そんなこんなでついにS棟に到着した。
「案外遠かったですね。では入りましょうか」
ジンはそう言って俺が扉を開けるのを待っている。
(入りたいなら自分で開けろよ)
そんなことを思ったが考えるだけ無駄なので
俺は思い切って扉を開けた。
そこには数十人ほどの生徒がH棟と同じように
並べられているイスに座っていた。
「貴方たちもその他クラスの生徒ですか?」
並べられたイスの前に立っていた女性が
声をかけてくる。
「そうですよ、この子が長時間トイレにいたんで
遅刻してしまいました」
ジンは平然と嘘の説明をした。
まぁ放心状態で立ち上がれなかったから
慰めてましたと言われるよりはマシだろうと
思い、特に何も言わなかった。
「あら、もう大丈夫なのですか?」
女性は俺に問いかけてくる。
「はい、もう大丈夫です」
俺もとりあえず話を合わせておく。
「それは良かったですね。
それではどこでもいいので空いてる席に
座ってください。
丁度今から説明を始めようとしていたところです」
そう言われると俺たちは適当に
空いてる席に座った。
「げっ、なんで君が僕と同じクラスなんだよ」
左隣からどこかで聞いたような声が聞こえてきた。
隣を見てみるとそこに座っていたのは
あのインテリ眼鏡だった。
「いいかい、たとえ同じクラスだったとしても
君と僕とでは………………」
何か話していたが俺は途中からその眼鏡からの
音をシャットダウンした。
「ユニークな知人をお持ちですね」
右隣からはジンが話しかけてくる。
俺はこの学園に来てからろくな奴にしか絡まれて
いないなと改めて実感した。
「それでは今来た人もいるので
もう一度簡単に自己紹介させていただきます。
私はその他クラスの担任を務めさせていただく
『ローズ・ダリア』といいます。
皆さんからは『ローズ先生』と呼んでくれれば
嬉しいです。
少し短いですが自己紹介は
これぐらいにしときます。
続いてこの学園とこのクラスの事について
説明していきます。
この学園には4つのクラスがあるという説明は
受けたと思うのですが、
4つのクラスは実習の仕方が異なるだけで
教える事に差をつけたりすることは
ありませんのでそこは安心してください。
またこの学園には1年間の教育課程が
全て終わるとその後の進路を決める
大会が毎年行われる事になっています。
皆さんにはそこでより良い成績が収められるように
新入生のうちから頑張ってもらいます。
次にこのクラスの事についてなのですが
基本的にこのクラスの実習では
『能力』をどうこうするというよりは
身体や精神を鍛える事に重心を置いて
行っていきたいと思います。
その理由は何かと言われますと、
その他クラスでは
戦うことの出来ない『能力』を持っている生徒が
多いため自身の身体や精神を鍛え、
『能力』に頼らずとも強くなることを
目指してもらいたいからです。
まぁ説明はこんな感じですかね。
質問とかある人はいますか?」
ローズ先生が俺たちに問いかけてくる。
「二つほど質問よろしいでしょうか?」
横のインテリ眼鏡がすぐさま手を上げて質問する。
「どうぞどうぞ、なんでも聞いてください」
ローズ先生が答える。
「それではまず一つ目の質問なのですが、
1年後にある大会というのは
全クラス混合の個人戦という認識で
間違っていないでしょうか?」
眼鏡がローズ先生に問いかける。
「はい、1年後にある大会では
皆さんはここの生徒同士だけではなく
他のクラスの生徒とも戦ってもらう
ことになります」
ローズ先生は答える。
俺は少し驚いた。
俺はまだ『能力』が分からないから
なんとも言えないにしても、
ジンのような戦闘向きではない『能力』を
持つものが攻撃型クラスや防御型クラスの
ような人間離れしている『能力』を所持して
いるやつらに勝てるのだろうか。
そんな俺の気持ちを代弁するかのように眼鏡も、
「その上で二つ目の質問なのですが、
僕らのような戦闘向きではない『能力』の
人間が治癒クラスならまだしも、
他のクラスの生徒に身体や精神を鍛えたところで
勝てるビジョンなど見えないのですが
そのあたりはどうなっているんでしょうか?」
とローズ先生に質問をした。
「うーん、その質問に答えるためには
少し大会についても触れないといけないですね。
大会には全部で4種目あります。
知力を競う『筆記試験』
索敵能力を競う『討伐試験』
協調性や対応力を測る『団体戦』
そして個人の能力を競う『個人戦』
この大会ではこの4種目の合計ptの大きさを
競ってもらう事になります。
そしてここからが本題なのですが、
その他クラスの生徒は毎年『筆記試験』と
『団体戦』に焦点を当ててptを稼ぎに
いっています。
たしかに皆さんの思っている通り
力ではおそらく他のクラスの生徒には
敵わないでしょう。
しかし、どんなに力の差があろうと
その分を頭脳で埋めれば私たちは
どんな相手でも対等に戦うことができます。
相手が圧倒的な『力』でくるというのなら
こちらは圧倒的な『策』で迎え討つ
ということです」
ローズ先生の説明が終わった。
「なるほど、たしかにそれは面白いですね。
ククク、天才的な僕の頭脳が火を吹くぞ。
質問に答えていただきありがとうございました」
そう言ってメガネは満足そうな顔をしていた。
「あまり納得のいく説明ではなかったと思いますが、
近いうちに分かる日が来ると思います。
だからといって、圧倒的な『暴力』の前では
どんな『策』も無力になってしまうので
そうはならないよう先ほども言ったように
身体や精神はその他クラスでも鍛えていきますよ」
ローズ先生は笑顔で言った。
「質問は以上でしょうか?………
どうやらいないようですね。
では最初から座学というのもつまらない
と思うので、私の『能力』で
少し遊んでもらおうと思います」
そう言うとローズ先生は胸の前で手を合わせた。
「『花の楽園』」
ローズ先生が一言そう言うと、
みるみる周りの景色が変わり
気がつけば俺たちは花畑の上に立っていた。