出会い…②
俺は歩きながら先ほどまでのことを頭の中で
整理していた。
万物を操る王女様……
爆発的な力を待つ不良……
そしてその力をも凌駕する教師……
俺は改めて『能力』の可能性の広さに感銘を受けた。
俺にも『能力』というものはあるのだろうか。
そんなことを考えていると後ろから声をかけられた、
「君、バカだろ」
振り向くとそこには眼鏡をかけた
いかにもインテリそうな男がいた。
「お前誰だよ。ていうか初対面のやつに
最初に言う言葉がそれか?」
俺は少し怒りを含んだ口調で言った。
「僕は君らみたいなバカが嫌いなんだよ。
さっきの出来事だってそうさ。
相手との力量の差も理解せずに首を突っ込むバカに
全てを暴力で解決しようとするバカ
頭を使っていたのはあの王女様ぐらいだね」
その男は淡々とそんなことを言っている。
俺は無視して歩く速度をあげることにした。
こんなヤツは無視する方がいいと学習したのだ。
しばらく歩いているとH棟の
入り口らしきものが見えた。
中に入ってみると前を歩いていたアリスや
連れて行かれてしまっていた不良が
並べられたイスに各々座っていた。
「はいはーい、入ってきた生徒のみんなは
どこでもいいからイスに座っていってねー」
先ほどの教師と思われる男がアナウンスしている。
俺はとりあえずあまり人の
いないところへ座った。
しばらくすると横に誰かが座り込んだ。
「やあやあ、先ほどぶりだね」
そこに座っていたのはジンだった。
「さっきは何やら面倒ごとに巻き込まれていた
みたいだね。ご愁傷様」
俺はコイツと特に話すこともなかったので
シカトを決め込んだ。
「よーし、そろそろ全員揃ったかな。
じゃあ今から試験の説明をするから
みんな静かに聞いてくださいねー」
教師と思われる男が話し始めた。
「それではまず自己紹介からさせてもらいます。
私の名前は『ベイン・ロベルト』といいます、
まぁ皆さんの学年主任的な立ち位置です。
自己紹介はこれぐらいにして本題に
入っていこうかな、
既に内容を知っている子もいると思うけど
一応説明しておくよ。
今から君たちにはここにあるオーブに
手をかざし『能力』の性質を確認してもらいます。
オーブが光った色によってクラスが決まります
ので、光った色は忘れないように覚えて
おいてくださいね。
ちなみに色についても説明しておくと、
『赤』は攻撃型の能力
『青』は防御型の能力
『緑』は治癒型の能力
『紫』はその他の能力
まぁ大まかにいえばこんな感じかな。
ではでは皆さんオーブの前に並んでくださーい」
説明が終わると座っていた生徒たちは続々と
オーブの前に並び始めた。
俺も流れに遅れないようにその列に並んだ。
「いやぁ、どんな色に光るのかワクワクしますね」
何故か着いてきたジンが一方通行の会話をしている。
列に並んで待っているといきなり前がざわついた。
「すげーぞあの王女様、赤と青が入り混じってるぞ」
俺も前を覗き込んでみると、
アリスが手をかざしているオーブは
赤と青が入り混じったように光っていた。
「おー、これは珍しいね。
どうやら君の能力は攻撃にも防御にも
優れているようだね。
でも、どちらかというと青の方が
強く光っているから君には防御型の
クラスに入ってもらおうかな」
ベインはそう言ってアリスを
防御型クラスの方へ先導する。
「すごいねー、流石王族って感じだね」
後ろでジンが言っている。
返事こそしなかったがそれには俺も同感だった。
引き続き列を待っているとあの不良の番が訪れた。
不良が手をかざすとオーブは今までとは
比べ物にならないほどに赤く光っていた。
「これまた珍しいね。
超攻撃特化の『能力』ってところかな。
まぁそんな分類はないから
君には攻撃型クラスに入ってもらおうかな」
ベインはそう言うと不良を先導した。
そんなこんなでようやく次は
俺の番というところまできた。
「緊張しますねぇ、まぁ正直何色でも
いいんですけどね」
ジンは後ろで永遠に独り言を続けていた。
「さぁ次は君の番だ、手をかざしてみな」
ベインは俺にオーブを指差しながら言ってきた。
俺は唾を飲み込み、静かに手をかざした。
俺はオーブの色が何色に変わるのかを
今か今かと待った。
しかし、一向にオーブの色が変わることはない。
「あれ?おかしいねぇ
色が変わらないねぇ
ちょっと待っててちょうだいな」
そう言うとベインは置いてあったオーブを手に取り
奥へ向かったと思うと別のオーブを持ってきて
同じ場所に置いた。
「ごめんねー、これならいけると思うから
もう一度手をかざしてみて」
俺はもう一度手をかざしてみた。
しかし、オーブの色が変わることはなかった。
「うーん、今までこんなことは一度も
なかったんだけどなぁ。
仕方ないから少し『上』と掛け合ってみるよ、
少し待っててくれないかな」
そう言うとベイン奥に行き耳に手をかざしたと
思うと誰かと話し始めた。
それからしばらくして、
「……はい、了解しました」
そう言ってベインは戻ってきた。
「君の処遇が決まったよ。
君にはとりあえず『紫』のクラス
つまりはその他のクラスに入ってもらう
ことになった。
もちろん君の『能力』がどんなものか
分かった場合は違うクラスへの移動もある
ということは理解しておいてね」
そう言うとベインは俺をその他のクラスへ先導した。
俺は不安と焦りで目の前が真っ暗になりそうになった
俺の能力はいったい何なのだろうか…
そもそも俺に『能力』はあるのだろうか。
そんな俺の心情とは関係なく
入学試験は滞りなく進んでいった。