出会い…①
「ザワザワザワザワザワ」
街の中の様子は今までの人生からは考えられないほど
賑わっていた。
だが、俺は本当にそれどころではなかった。
このままでは初日から遅刻をしてしまうことになる。
それだけは避けなければならない。
俺は自分の身体にムチを打ちながら走り続けた。
必死の思いで学校の前に辿り着くと学生らしき
人だかりがあり、ようやく安心することができた。
「君も今日入学する学生かい?」
不意に声をかけられその方向を見ると
白髪で細目の同い年くらいの男が立っていた。
「はぁはぁ、ああその通りだ」
俺は息切れしながらもなんとか答えた。
「僕の名前は『ジン』っていうんだ。
君はなんて名前なんだい?」
『ジン』と名乗る男はこちらの様子を気にすること
もせず質問を投げかけてくる。
「はぁはぁ、俺の名前は『ユウキ』だ」
正直今はもう話しかけないでくれという気持ちで
返事だけはする。
「君は一体どんな方法でここに入学してきたの?
どこかの王族かい?
それともどこかの富豪の息子?」
この男は目が見えていないのだろうか。
何故わざわざ疲労しきっている俺に話かけてくるのか
「そんなのどうだっていいだろ、
今は少し一人にさせてくれ」
そう返すとジンは手をひらひらしながら、
「そりゃ悪かったね、それじゃあまたあとで〜」
と言って門の中へ入っていった。
なんなんだあいつは……
そんなことを思いながら俺も門から中に入って
いくことにした。
「本日入学試験を受ける生徒の皆様は
西側にあるH棟に移動してください」
中に入るとそんなアナウンスがそこら中から
聞こえてきた。
俺はアナウンスどおり西側に向かって歩いていくと
途中で大勢の生徒が立ち往生している
ところに遭遇してしまった。
何事かと思い生徒の間をぬって前へ出てみると
一人の生徒が一人の生徒を一方的に蹴っていた。
「何してるんだよ‼︎」
俺は反射的に声を張り上げてしまった。
「嗚呼?お前誰だよ?」
蹴っていた生徒がこちらを睨みつけて聞いてくる。
「お前に名乗る名前なんてない。
早くその足をどけろ。」
俺はそう返し同じく睨みつけてやった。
「はぁ、あのなぁどうしてお前らは揃いも揃って
自分の立場を見誤るんだ。
国が求めているのはお前らみたいな誰とでも
仲良くできるやつなんかじゃないんだよ。
圧倒的な『個』だ、圧倒的な『力』なんだよ。
つまりお前たちは求められていないんだよ」
そう言いながらもう一発蹴りを入れようとする。
俺は振り上げたその足を掴む。
「おい、その汚ねぇ手を今すぐ離せ」
俺はそんな言葉に耳を傾けるはずもなく
さらに強く掴む。
「ああそうかよ、俺とやろうっていうのかよぉ」
男は声を荒げ足を掴んでいた手を
足の力だけで振り払ったかと思うと、
凄まじい速度で蹴りが飛んでくる。
これは避けることができない…
そう思った時だった。
「争いはそのぐらいにしときなさい」
大勢いた生徒たちの方からその声はした。
そしてその声とともに男の蹴りは俺の頭の横で
ピタリと止まった。
その声の方向を見てみると金髪で長髪の
同い年くらいの女性が立っていた。
「おうおうこれはこれは有名人様じゃねぇか」
男はどうやらこの女性を知っているようだった。
「これ以上の争いは今後の私たちの学生生活にも
響きます。この私『アリス・トリオン』の名に
免じてこの争いは終わらせてもらえませんか?」
その女性はたしかにそう言った。
「ケッ、王女様が言うならやめてやるよ……
なんて言うわけねぇだろが」
男はそう言うと俺の頭上めがけて
踵落としを繰り出した。
しかしそれが俺に当たることはなかった。
なぜなら俺の頭上を地面にあったはずのタイルが
守ってくれたのだ。
「私の前で重症者を出すわけにはいきません。
少し拘束させてもらいます」
そう言うとみるみる周りにあった木の根が男に
絡みつき男を完全に捕らえてしまった。
「クソが、離しやがれ」
男は必死に抵抗するが木の根が剥がれる様子はない。
「二人とも大丈夫ですか?
ケガは深くありませんか?」
先ほど『アリス』と名乗った女性が問いかけてくる。
「ああ、俺は大丈夫だ」
「わ、私も大丈夫です」
蹴られていた男の学生も返事をする。
「これ、あんたの力か?」
分かりきったことではあるが一応聞いてみる。
「ええ、これが私の能力である【万物操作】です。
命あるものは全て気の流れがある。
それさえ掴めればどんなものでも操作することが
できます」
以前イシスの魔法を見たことはあるが、
こんなに間近で『能力』というものを見たのは
初めてだった。いや、オードックの触手も能力
なのだろうか…まぁ今はどうでもいい。
「ありがとう、アンタがいなければ今頃
めんどくさいことになっていただろう」
俺は素直に感謝を伝える。
「いえいえ、この国の王女として当然のことを
したまでです。国民の安全は王族が保証します」
アリスは胸を張って答える。
「さっきから俺のことを無視しやがって
腹が立つぜ…いいぜ俺だって本気を出してやるよ」
そう言うと男は絡まっていた木の根を簡単に
引きちぎってしまった。
俺が臨戦態勢を取ったところでその声は響いた。
「来るのが遅いと思ったらこんなところで……
今年は血気が盛んな子が多いねぇ」
その声の先にいたのはスーツにネクタイをした
いかにもthe教師といった感じの男だった。
「喧嘩もほどほどにして、さっさとH棟に来なさい」
男は手を来い来いとしながら全員に向かって言う。
「黙れぇぇ邪魔をするならお前からぶっ倒してやる」
そう言うと男は教師?の付近に瞬間的に移動し、
蹴りを入れようとした。
その瞬間だった、
蹴りを入れようとしていた男は
地面に気絶し倒れていた。
「教師に向かって暴力を働くなんて…
全く最近の子は教育がなってないなぁ。
さぁさぁ他のみんなは早く移動してください。
この子は私が連れて行きますから」
そう言って教師?は男を背負ってH棟の方へ
行ってしまった。
その場に立ち往生していた生徒たちは続々と
H棟に向かって歩き始めた。
アリスもいつのまにかH棟に向かって歩き始めていた
俺も起きたことをあまり整理できていないまま
H棟へ向かうことにした。