王国…
目を開くとそこには懐かしい光景が広がっていた。
青い空…どこからともなく香る昼食の香り…
そしてソウタと一緒に作った秘密基地…
とても心地よい…正に『幸せ』というやつだ
しかし、そんなものは簡単に壊れてしまう。
まばたきをすると、空は赤くなり
周りからは悲鳴が響き渡る
建物は粉々に切り崩され火がつけられている
これが『不幸』というやつだ。
「……キロ」
「……起きろ」
「いつまで寝ているんだァァ‼︎
もう目的地に着いたぞォォ‼︎」
俺は飛び起きた。
「もうちょっとマシな起こし方があるだろ」
俺は少し怒りを含んだ口調でルークに言った。
「ガハハハハ、寝起きはこれぐらいした方が
気分もいいじゃろ」
相変わらず意味の分からない事を言って一人で
高らかに笑っている。
「ここは?」
俺は気を取り直して聞いてみた。
「ここは人類側の最大規模都市であり
【HLA】の拠点でもある【トリオン王国】です。」
声の方向を見ると馬車の入り口から『イシス』と
名乗っていた女性が顔を覗かせていた。
「おぉイシス、こんなところで何をしとるんじゃ?」
ルークがイシスに問いかける。
「それはこちらのセリフです。
もうすぐ王に遠征の結果を知らせに行くというのに
貴方がいきなりいなくなるから探していたんです」
イシスが鋭い声色でルークに言う。
「ガハハハハ、すまんすまん少年に
別れを済ますのを忘れていたことを思い出してな」
いつもの口調でルークが言う。
「それはどうぞご自由にしてもらってもいいですが
次から何処かへ行く時は一言声をかけてから
移動するようお願いしますね」
イシスはそう言い残すとどこかへ去ってしまった。
「ありゃ怒ってるな」
ルークはあっけらかんとしている。
「俺はどこに行けばその『学校』とやらに
いけるんだ?」
俺は今後の方針を決めるためにもルークに聞いた。
「おっと説明するのを忘れていたな。
いいか一回しか言わないからよく聞けよ。
少年の目の前に見えているあのバカでかい
建物こそここの王が住んでいる
『トリオン城』だ。
そしてその手前にある一際大きな建物こそ
少年が行くべき『バーグ魔法学校』だ。
おそらく入学試験のエントリーが始まっている
はずだがもうすでにエントリーは済ませて
おいたから少年は正午ごろに魔法学校の
入り口に居てくれたら大丈夫だ」
ルークが長々と説明してくれた。
「ちょっと待て、入学試験があるなんて
聞いてないぞ」
今の俺には試験を通る力なんてあるはずもない。
「あれ?言ってなかったか?
まぁ試験と言っても入学後のクラスを決めるため
オーブに手をかざすだけだ。
大丈夫だろうガハハハハ」
このおっさんはどうやら報連相が苦手らしい。
「そのオーブで一体何をしているんだ?」
足りない情報はこちらから聞くことにした。
「そいつが持っている『能力』の性質を
見ているんだ。まぁ詳しい話は学校に入学
した後にでも分かるだろう」
ほんとつくづくこのおっさんから出てくる情報は
部分部分が欠落しているな。
そんなことを思いながらも口にするのはやめておいた
俺は馬車から外に出ると大きく息を吸った。
こんなにも新鮮な空気を吸うのはいつぶりだろうか。
「少年よ」
後ろからルークが声をかけてくる。
「ともに遠征部隊として出撃できることを
期待しているぞ」
ルークはそう言うとこちらに拳を突き出してくる。
「俺の名前は『ユウキ』だ。
俺に色々なことを教えてくれてありがとう。
必ずあんたのいる遠征部隊に入ってやるよ」
そう言うと俺も拳を突き出しグータッチをした。
「ユウキ、ではまた会おう」
それだけ言い残し、ルークはその場から去った。
「よし、俺も移動するか」
そう思い、空を見上げた。
そこで俺は不思議なものを見た。
なんと太陽が俺の頭上にあるではないか。
「おいおいまさか」
俺は馬車の中にあった時計を手に取り時間を見た。
『午前11時54分』
俺は時間を一度も確認しなかった自分と
一度も現在時刻について触れなかったおっさんを
恨みながら全速力で走り出した。