夜の街…
俺が過ごしていた村は夜になると
みんな死んだように静かに眠る。
魔王軍の襲来を恐れていたんだ
でも俺はそれを別に不幸だとかは思わなかった。
それが当たり前だったからだ……
だが、俺の目の前に広がる光景は
まるで俺の知らない世界だった。
暗闇を照らす数多の光、
街のどこにいても聞こえる賑わい、
笑ったり歌ったりしている人々、
ここにいる人たちは何にも恐れる事なく
自分たちの生きたいように生きている。
これこそ俺が、いや俺たちが求めていたものだ。
「ソウタ………」
俺はふと親友の名前を呟いていた。
俺はあの場所に戻り必ず次こそはソウタと共に
『自由』を取り戻す。
しかし、俺にそんなことが可能なのだろうか。
今日だって様々な『能力』の前では俺は無力だった。
もし俺が遠征部隊に加われたとしても
足手纏いになってしまうのではないだろうか。
まただ、俺はすぐにこういう考え方をしてしまう。
俺は気晴らしに街の側を流れている川へ
向かう事にした。
川へ着くとそこは先ほどの賑わいとは
まるで正反対にとても静かな場所だった。
俺は地面に座り込んだ。
空にはたくさんの星が夜空を彩っている。
「ザクッ」
後ろから足音が聞こえた。
俺は誰か来たのかと思い、振り返った。
そこには帽子を深々と被った女性がいた。
あの人もここに休みに来たのだろうかと思い
俺は前を向き直して再び無心になろうとした。
「こんばんは」
後ろにいた女性が誰かに話しかけたのだろうか。
どこかで聞いたことのあるような声だが、
俺は気にせず少し眠ろうかと思い
横になろうとした時、
「貴方に言っているのですよ」
後ろにいた女性がいつの間にか
俺の後ろまで来ていた。
俺は振り返り、
「あのすみません俺に話しかけてるんですか?」
と聞いた。
すると女性は、
「貴方以外にここには誰もいませんよ」
と返してきた。
俺は周りを見渡してみたがたしかに誰もいない。
「すみません、貴方は誰ですか?」
少し考えてみても誰か分からなかったので俺は
女性に聞く事にした。
「昼間に一度お会いしたのですが
忘れてしまいましたか?」
昼間に一度会った?
俺はもう一度よく考えた結果、
一人心当たりのある人物が浮かび上がった。
「まさか王女様ですか?」
俺は半信半疑で聞いてみた。
「そのまさかですよ」
その女性が帽子を軽く上げながらそう答える。
そこから覗かせた顔はたしかに昼間
俺を助けてくれたアリスの顔だった。
「王女様がこんなところで何してるんだ?」
俺は素朴な疑問を聞いてみた。
「少し街の様子を見に行こうと思い、
街に出かけていたところに
見知った顔を見つけたので話しかけようと
したら貴方がこんなところまで来るから
着いてきたんですよ」
アリスは少し不満そうに答える。
たしかにアリスから見れば俺はアリスから
逃げていたと捉えられても仕方がないだろう。
「それは悪かったね、
それよりも王女様は今日はお城で
パーティーでもする日なんじゃないの?」
王族の入学の日ともなれば、
何かパーティーの一つや二つあったって
不思議じゃない。
すると突然アリスは俺の横に座り込んだ。
「私のお城での地位はお世辞にも
高いとは言えません、
だから特別お祝いとかはないんですよ」
アリスはどこか悲しそうな顔で言う。
「そんな落ち込むことじゃねえよ、
俺だって誰にも祝われてないぜ、
でも俺はピンピンしてるぞ」
何の慰めにもなっていないなと言った後に気づいた。
しかし王女様はフフッと笑った。
「別に落ち込んでなどありませんよ、
これが私の日常ですからもう慣れっこですよ」
アリスは笑顔で言った。
「そうか、それならよかった。
そういえば話は変わるけど防御型クラスは
今日何したんだ?」
俺はこれ以上この話をする必要もないと思い
露骨に内容を変えた。
「自己紹介と軽く手合わせしただけですよ」
ここの人たちの『軽く』とはどの程度なのか
分からないがまぁ各クラスの内容にそんなに
大差があったわけではないようだ。
「その他クラスでは何をしたんですか?」
アリスが聞いてくる。
俺はあの時起こったことを一から説明した。
「まぁそんなことが、
その後も身体に違和感とかはないですか?」
アリスが心配して聞いてくる。
「まあ特にこれといって違和感はないな、
でもまぁ『能力』って本当にすごいよな」
俺は心の底から思っていたことを口にした。
「そうですよね、
『能力』には無限の可能性があります。
時にその可能性の広さが仇となることも
あるんですけどね」
アリスが言う。
「無限の可能性か……」
俺は呟いた。
「あっ!!」
いきなりアリスが大声を出した。
俺はシンプルに驚いた。
「すみません、お互い自己紹介を
していませんでしたね。
私の名前は『アリス・トリオン』と申します。
ここ【トリオン王国】の第3王女です。
貴方の名前は何ですか?」
アリスが聞いてくる。
「俺の名前は『ユウキ』
特に身分みたいなものはないな」
俺は答えた。
「『ユウキ』、フフッ
まさに名は体を表すというやつですね」
アリスは笑顔で言った。
「どういうことだ?」
俺は意味が分からず聞き返した。
「今朝の貴方はまだ自分の『能力』が
不明瞭なのにも関わらず目の前の暴力に
屈せず立ち向かうことを選びました。
それは誰にでもできることではありません。
『勇気』がある人にしかできないことです」
アリスは星空を見上げ、話を続けた。
「空にある星には様々なものがあります。
一際光っている星もあれば
光が小さい星もある。
でもそれは『今』この瞬間だけの話です。
あと数年、いや数時間もすれば小さな光は
大きな光へと変わっているかもしれない。
それは人間だって同じはずです。
今は小さな光でもいつかは大きな光へと
変わるかもしれません。
だから今は前へ進むんです。
いつか大きな光になると信じて」
それは俺に言っているようにも、
アリス自身に言っているようにも聞こえた。
「一人で長々と話し続けてすみません、
どこか落ち込んでいる貴方を励まそうと
思ったのですがいつの間にか話が
脱線していましたね」
アリスは軽く頭を下げながら言った。
「いや、十分励まされたよ。
俺は考えすぎていただけかもしれない。
『今』だけの評価で
『これから』の評価もしてしまっていた。
そう気づけただけでも俺は前へ進めるよ」
俺は笑顔で言った。
「それなら良かったです」
アリスも笑顔で言った。
それからしばらく沈黙が続いた。
でもその沈黙が今の俺には心地よかった。
「ではそろそろ帰らないと執事の方々に
心配をかけてしまいますので私は先に
失礼します」
アリスは軽くお辞儀しながら言った。
「色々ありがとな、アリスのおかげで
明日からも何とかやっていけそうだ」
俺は心からの感謝を伝えた。
するとアリスはクスッと笑って、
「やっと名前で呼んでくれましたね。それでは」
そう言うと軽くお辞儀しアリスはその場を去った。
俺は最後の一言に少し戸惑ったが、
あまり深く考えないようにした。
そして空を見上げると光の小さい星は
小さいながらも力強く光っていた。
〜内容の変更〜
【[ep.8]クラス…①】で説明されていた
『2年間の教育課程』という部分を
『1年間の教育課程』という変更を行いました。
これからの内容は変更後の内容に準じて進めて
いきますのでよろしくお願いします。




