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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第四章 王都の冒険者

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第84話 学生生活の終わり

「ずいぶんあっさり引き受けたな。少しは迷うかとも思ったのだが」

「どうしてそう思った?」


 学院へ戻る道中、キールゲンの質問にコウは意外そうに返した。


「仕事としては大きいだろうが、危険度も段違いだ。普通なら少しは迷うところじゃないか?」

「そうだな……まあでも、あの時間でも色々考えた末だ。実際、アルガンドの王家の仕事をこなす、というのは冒険者としてはいい経験になるし、箔も付くだろう?」

「嘘だな。お前がそんなのを気にするようには見えない。第一その理由なら、すでに俺の護衛を引き受けた時点で十分なはずだ」

「それは同意ですわね」


 帰り道、城の広間で合流したステファニーが、キールゲンに追従する。

 逆を見ると、エルフィナが小さく笑っていた。

 どうやら全員に見透かされているらしい。


「まあ、今言ったようなのだって一応理由の一つではあるさ。ただ……なんだろうな。単なる思い込みだとは思うんだが、俺が行くべきだ、と感じたから、というのが一番なんだ」

「予感とかそういうのか?」

「違うな。どういえばいいのか……多分、これは俺……いや、俺たちが行くべきだ、と感じた。実際、天与法印を相手にする可能性があるなら、普通の兵や、あるいは『影』でも厳しいのだろう?」


 コウの言葉に、キールゲンはぎょっとなって周囲を見回す。

 だが、人影はない。


「今はいないよ。だが、キールの周りには……いや、今はステファニーの周りにもか。たいてい、気配を殺した『何か』がいる。まあ、害意はなかったから放置したけど、あの手の隠身は卓越した法術使いとは相性が悪いのだろう?」

「それはそうだが……我が国の『影』の存在を検知できる法術使いなんて、そう何人もいるものではないんだがな」


 最近になって分かったが、基本的に法印具に接触していなければ『充填』はできないのだが、離れていても『認識』は可能なのだ。

 そもそも『認識』に関しては、法印具と接触は不要なのである。

 ただ、『認識』できる範囲は、普通は広くても五十センチ(一カイテル)程度だが、稀に広い者がいるらしい。

 アクレットに聞いたところ、やはり彼も同様で、大体十メートル(二十カイテル)程度であれば確実に、五十メートル(百カイテル)程度でも文字種別は分かりにくくなるが、法印の有無くらいは分かるという。

 集中すれば、その倍はいける、とのことだった。


 そしてコウは、その範囲が桁違いに広かった。

 特に意識せずとも、約五十メートル(百カイテル)内の全ての法印と、それに刻まれた文字ルーンを『認識』できる。

 集中すれば、おそらくその五倍から十倍以上。

 小さな街であれば、その街でどこに何の法印があるのかを検知できてしまう。


 この能力は、検知するだけなら受動的で、『ある』ということが分かる程度だが、この能力のため、このレベルの法術使いに法印具を装備しての不意打ちは不可能に近い。これが、コウが今回の護衛で絶対に不意打ちされないだろうと踏んでいた理由でもある。

 学院祭の最中に攻撃に使いうる法印具ルナリヴァを持っている時点で、普通ではないからだ。


 つまりコウ相手に不意打ちをしたければ、法印具を装備せずに襲い掛かるしかない。

 ただしその場合でも、エルフィナの精霊の護りは突破できない。

 今回の様に排魔の結界でも使われない限り、コウとエルフィナが揃っている状態での不意打ちは不可能に近い。

 だからこそ襲撃があっても大丈夫だと踏んでいたのだが、今回はまさにその想定しなかった隙を突かれた。


 さらに今回で分かったことが、いかにコウでも天与法印は『認識』が難しいらしい。裏を返せば、戦時下に等しいバーランドであれば、法印の気配のない兵士は天与法印と疑ってかかるのもありだろう。


「まあ俺自身だいぶ規格外だという自覚はあるさ」

「お前が敵でなくてよかったと心底思うよ」


 キールゲンがしみじみと呟く。


「それで、出発はいつになさいますの?」

「三日後に退学の手続きを取る予定だから……一週間以内ってところかな。短い間だったが、楽しかったよ」

「それは俺もだ。本当に得がたい友を得たと思っている。だから、必ず戻って来い」

「ああ、分かってる」

「エフィもですよ? そして何があったか、聞かせてくださいね?」

「はい。でも、ティファも色々聞かせてくれそうですね?」

「……そうだ。さらっと言われたから聞きそびれていたが、キールとステファニー、結婚するのか?」

「どこでそれを!?」


 キールゲンがあからさまに狼狽するのがおかしくて、コウとエルフィナは吹き出すのをかろうじて堪えた。


「いや、俺が目覚めたあと、話をする時『未来の王妃として』とか言ってただろう」

「「あ」」


 二人が同時に顔を見合わせる。


「まあ、休み明けに僅かに雰囲気が変わってましたから、私は気付きましたけど」


 エルフィナが勝ち誇ったような顔になっていた。


「……俺はどうせ鈍いよ。思い返してみれば呼び方変わってたのは休み後からだったな。でもま、あそこまではっきり言われれば、さすがに気付くわけだが」

「うむ、まあそういうことだ。正式に結婚するのは、俺の卒業と立太子の儀を経てからになるが」

「おめでとうございます、ティファ」

「ありがとうございます、エフィ。貴女もがんばってね」

「はい」

「あとで部屋に戻ったら、色々伝授してあげます。大丈夫、キール様もこれで落ちましたから、コウ様でもイチコロですわ」

「……ちょ、ティファ!?」

「キール……がんばれよ、なにとは言わんが」


 コウの言葉に、キールゲンは王子とは思えないような情けない顔になっていた。

 それを見て、思わずコウは笑い出し、つられて三人も笑う。


「ああそうだ。四日後、王宮でパーティがあるから、コウとエルフィナも来るようにな」

「は?」「ふえ?」


 突然のキールゲンの言葉に、二人は揃って間抜けな返答をしてしまう。


「いや、だからパーティ。バーランドの刺客撃退の功績を讃えるのが主目的の一つだ」

「ちょっと待て。せっかくバーランドに俺の情報がいってないのに、そんなことをしたらダメだろう」

「大丈夫だ。元々は俺とティファの婚約を内々に発表するパーティなんだ。ただ、せっかくだからとそっちも裏の名目になってる。だから、参列者も王家と近しい貴族たちや一部の友人だけだ」

「いや、そういう問題じゃなくて……そもそもパーティなんて俺は出たことがない」

「じゃあ出ておけ。今後のいい経験になる」

「エフィもですよ」

「え……いや、私は森妖精エルフですし、その」

「美味しい食べ物もいっぱいありましてよ?」

「出ます」

「エルフィナ!?」


 あっさりと食べ物に釣られたのが一人。


「うふふふ。さあコウ様。まさかエフィ一人でパーティに参加させるわけにはまいりませんわよね?」

「コウ、一緒に来て下さい。私だけでは不安ですから」

「あきらめろ、コウ。というか出てもらわなければ俺が困る。父上と叔父上に説得しておけと言われてるんだ」


 コウがこの手のことを拒否することはすでに読まれていたらしい。

 その搦め手にエルフィナを使う悪辣さは、国王とその弟の考えではないだろうが。


 結局。

 コウは文字通り四面楚歌となって出席を約束させられることになった。



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