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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第四章 王都の冒険者

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第81話 学院祭三日目~死闘

 魔幻兵が大上段から振り下ろした剣を、コウはかろうじてかわした。

 剣はそのまま地面に叩きつけられ、その衝撃で石畳が砕け広範囲にヒビが入る。


「食らったらひとたまりもないな!」


 入れ違いにキールが一撃入れたが、魔幻兵はほとんど影響を受けていないようだ。

 立っているのは、コウ、エルフィナ、キールゲンのみ。

 他にも多くの生徒がいたが、既に魔幻兵に吹き飛ばされ、地面に倒れ付している。

 エルフィナが対応しているが、彼女も精霊も顕現させることが出来ないため、効果的な治療ができない。

 まだ動ける何人かと協力して、できるだけ戦いの場から怪我人を遠ざけるようにだけしてもらっているが、いかんせん時間がかかる。

 さすがに、エルフィナではあの魔幻兵の相手は厳しすぎる。


 魔幻兵は、物体であるように見えるが、実際には物質化したマナの塊である。

 排魔の結界の影響を受けそうなものだが、物質化している場合は対象外なのか、影響を受けている様子はない。


 ただ、本来の魔幻兵は大気中に存在するマナを得ることで、いくらダメージを負っても無限に回復できるのが特徴だが、おそらく今はその機能はないだろう。

 だから切りつければダメージはあるのだが、いかんせん堅い。

 マナで構成されたその身はいわば法術の燃料の塊であり、火炎系の法術を食らわせればあっという間に全身を燃焼させて自壊するが、今はどうしようもない。


 一番の打開策は、この中で唯一法術が使える刺客自身の法術を魔幻兵に当ててしまうことだが、刺客もそれを分かっているので、万に一つも法術が魔幻兵に当たることのないような射線でしか攻撃をして来ない。

 ただ、刺客の法術の使える状況を制限することができるため、コウ達は未だに致命的な攻撃を受けずに立ち回れていた。


 幸いだったのは、刺客の使う法術が高い誘導性を持っていないことだった。そのための文字ルーンは天与法印には含まれていないのか、刺客の法術はほぼまっすぐにしか飛んでこない。


(とはいえ、このままではいつかこちらが負ける)


 おそらく既に騎士などがここに救援に向かっているだろうが、到着までには、まだ少し時間がかかるだろう。

 かといって、ここから逃げてしまえば、倒れた生徒たちが無事ですむとは思えない。

 それに、騎士たちが駆けつけたところで、法術を一方的に使われる状況には変わりなく、また、魔幻兵に対抗するのも、難しいだろう。


「コウ。なんか打開策あるか?」

「俺たち二人では、あまりない。法術が使えないってのがこれほど不便だとは思わなかった」

「同感だ。しかし、天与法印の持ち主をこんな使い方をするとはな」


 ゴウ、と剣が風を切る音すら聞こえそうな勢いで魔幻兵の剣が横薙ぎに振るわれた。

 コウはそれを受け止めることはせず、刃をあわせて、僅かに軌道をそらすことでやり過ごす。


「天与法印ってのは、そんなに珍しいのか?」

「珍しいな。第一基幹文字(プライマリルーン)の使い手よりは多いが、という程度だ」


 二人とも余裕で話しているようだが、実際には、必死に攻撃を避けつつの会話だ。


「なるほどな。ところでキール、逃げる、という選択肢はないのか?」

「ないな」


 キールゲンは周囲を見渡して断言した。

 まだ魔幻兵に吹き飛ばされて呻いている学生たちが、たくさん倒れている。

 もしここでキールゲンやコウが逃げ出せば、刺客は間違いなく彼らを殺すだろう。

 キールゲンだけ逃がしても、コウ一人では刺客と魔幻兵の両方を牽制は出来ない。


「ここにいるのがお前たちだけならそれもありえたが、巻き込まれた人間が何人もいる状況で俺が逃げたら、俺は王たる資格を失うだろう」


 迷いなく、淀みなく。

 それが真実であると欠片も疑わないその真っ直ぐな意思は、状況を考えたら間違った選択なのだろうが、アルガンド王国の王位継承権者としては、おそらくこれ以上ないほどの正解だと思えた。


「じゃあ、せいぜい頑張るとするか!!」


 望みがあるとすれば、実はエルフィナだった。

 エルフィナのもう一つの特技である弓ならば、刺客を直接狙える。

 彼女の卓絶した弓技なら、魔幻兵をかいくぐって刺客を射倒すなど造作もないだろう。刺客とて飛び道具対策はあるだろうが、彼女の弓ならそれすら突破できると思える。


 問題は、弓矢が今手元にないことだ。

 さすがに学内で持ち歩くわけにはいかないので、普段は寮の部屋においてあるのだ。今から取りにいっても、排魔の結界の範囲がどの程度か分からないが、最悪往復で三十分《半時間》はかかる。こういう時、この広い学院がうらめしい。


 だが、増援の騎士はおそらくあと十分(四刻)もあれば来るはずだ。その中に弓を装備している者がいれば、それをエルフィナに貸してもらえればいい。

 刺客を倒せれば、後は魔幻兵のみ。増援の騎士もいれば、法術なしでも何とかなる。

 それまでなら、なんとか粘れる。


 一方の刺客も、焦りを感じていた。

 排魔の結界は極めて広範囲に発動しているので、仮に超長距離法術の使い手がいたとしても、おそらくその射程距離が二キロ(四メルテ)くらいはない限り狙えない。そんなたわけた射程距離を持つ法術の使い手など滅多にいない。

 そして弓による攻撃は、矢避けの法術具を持っている。並外れた強弓でない限りは、命中することはない。


 だが魔幻兵だけでは、騎士たちが駆けつけてきたらさすがにもたない。

 無論、一方的に自分が法術を使える状況なので、騎士を駆逐することは造作もないはずだが、それでも魔幻兵を失う可能性があり、そうなるといくら自分だけが法術を使えても、遠からず倒される。

 そのためにも、さっさと王子を殺して、有利な場所で魔幻兵をうまく使って立ち回りつつ王城に攻撃をかけるつもりだったのだが、現状、王子すら殺せていない。


 しかもあの二人は常にこちらの位置と魔幻兵の位置を意識しており、迂闊にあの二人を狙えば、魔幻兵に当たりかねない。間合いの計り方も絶妙で、迂闊な動きをすれば、あっという間にこちらに斬りつけられるような位置取りをしている。

 牽制のための法術を幾度か放っているが、二人とも造作なく避けてしまう。


 こうなると、自分の持つ天与法印に法術の誘導を行うための文字ルーンがないのが恨めしい。

 あの二人相手では不意打ちか体勢が悪い時でない限りは命中しないだろう。


 人質代わりに倒れた学生を狙うことを考えたが、気付いたらすでにほとんどが退避していた。

 うかつに動くと、今度はその隙をあの二人に狙われかねない。

 近接戦闘は不得手ではないが、魔幻兵とやり合えるあの二人と対峙したら、数合ともたないのは明らかだ。


 おそらく援軍が来るまであと数刻。

 それまでに何とか――。


「はあ!!!」


 ガキィン!!


 強烈な音が響いて、大きなものが宙を舞った。

 それは、魔幻兵が持っていた剣の、半ばから先。

 コウが、刀で剣の腹を切りつけ、真っ二つに叩き折ったのである。


「な!?」


 驚愕したのは刺客だ。

 生身の人間が、法術もなしに魔幻兵から生き延びているだけではなく、武器を破壊するなど、ほぼありえない。そもそも魔幻兵は、通常の武器ではほとんど傷つかないはずだ。


 魔幻兵自体は、単純な命令しか理解できない。今回の場合、基本的に使用者が敵だと認識している対象を攻撃する程度の判断能力しかもっていない。

 また、本来魔幻兵は、法術によって破壊されるか、中枢部分にある魔石が破壊されない限り、無限に再生して戦闘を繰り返せるため、今のように『一部損傷』ということは通常ない。

 そのため、武器が短くなったことを認識できていないらしく、届きもしない剣を振り回すだけの存在になっていた。


「くそ、なんてやつだ!!」

「もらった!!」


 無駄に折れた剣を振り回す魔幻兵に気をとられていた刺客は、至近距離まで近づいていたキールゲンに気付くのが遅れた。

 剣閃が、刺客の腹部を切り裂く。

 半ば以上切り裂かれたそれは、致命傷に近かったが、即死には至らなかった。


「がっ……おのれぇ!!」


 全力で駆け抜け、キールゲンが一瞬止まったところに、刺客の法術が放たれる。


「しまっ……」


 確実に致命傷を与えられると踏んでいたので、相手の反撃を考慮してなかった。

 法術は完全にキールゲンを捉えている。

 短時間での発動では効果が小さいという常識は、天与法印の法術には通用しない。

 これはまずいかと思ったキールゲンの前に、別の影が重なった。


「キール!!」

「コウ!?」


 直後、爆裂。


 先ほどまで魔幻兵を牽制していたはずのコウが、いつの間にかキールゲンと刺客の間に割り込んでいた。


「ちっ……だがこれで一人はった、あとは――」


 今の法術は[炎]を用いた攻撃法術。

 高温の炎により全身を焼き、さらに爆発によるダメージを与える。直撃すれば確実に対象を即死させる、刺客が使える最強の攻撃法術だ。

 防御法術も使えないこの状況では生きている可能性は皆無であり、障害の一人が殺せた。

 自分が致命傷を負ったのは分かるが、死ぬまでにせめて王子だけでも――。


 その、直後。


 彼はありえないものを見たように、目を見開いた。


 荒れ狂う炎の中に輝きが生じる。

 一瞬後、それがルーンであることに気付いた。

 浮かび上がったルーンは六つ。

 [火]、[光]、[熱]、[剣]、[閃]、[斬]。

 排魔の結界で『充填』が不可能なはずなのに、魔力を帯びたその文字ルーンが輝く。

 しかもあろうことか、第一基幹文字プライマリルーンが二つ。 


「――――!」


 法術の発動はすでに言葉をなしていないが、それは確かに発動した。

 爆炎の中で振り抜かれた刀の先から延びる光が、そのまま一筋の斬撃となって、刺客と同軸上にいた魔幻兵を諸共に捉え、どちらも文字通り真っ二つにした。

 直後、刺客も魔幻兵も一瞬で()()する。


 そしてその斬撃を放った本人は、爆炎が晴れると同時に――地面に倒れた。


「コウ!?」

「コウ、無事か!?」


 消滅した刺客には目もくれず、エルフィナとキールゲンが駆け寄る。

 だが、そこに倒れていたコウは――全身が焼けただれ、左腕が千切れかけていて――生きているとは思えないような状態だった。


そろそろ第四章も終わるのですが……。

この先どうするか悩み中。

カクヨムに比べると伸びなかったのは否めないので。


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