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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第四章 王都の冒険者

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第79話 学院祭二日目~女子会

 学院祭二日目は、初日が嘘のように平穏に終わった――無論一幕劇が大変だったのは別にして。

 初日の評判が広まったのか、そもそも王子様が出演する、というだけで注目を浴びていたコウ達のチームの一幕劇は二日目も大人気で、ついに部屋に客が入りきれなくなり、急遽、中庭の一角に舞台を用意。

 出店の出張店、という訳の分からない形態になってしまった。


 エルフィナはそれはもう染料で染めたように真っ赤になりながらも、それでも何とか二日目の公演を全て終え――た時には、力尽きて倒れていた。

 どうにか寮まで戻って食事は済ませたが、部屋に戻るなりベッドに突っ伏してしまっている。


「エフィ、大丈夫ですの?」

「放って置いてください……もう動きたくないです……」


 万に一つ、氏族の者達がこれを見たらどう思うかとありえない想像をして、エルフィナは気を紛らわせていた。

 そもそも、劇を楽しむといった行為そのものを、森妖精エルフのほとんどは知らない。なんなら『劇』というものがなんなのか知らない者もいるだろう。

 観ても、何が起きているのかすら分からないかもしれない。


 これをはたから、自分のことと無関係にすれば、きっと楽しいだろうというのは今のエルフィナになら分かる。

 ただ、当事者になるとこれほどの負荷になる、というのは想像を絶していた。

 もっとも、これはエルフィナだからであって、他の者はそこまでのダメージを受けているわけではないのだが。


「エフィちゃん、ずいぶんお疲れですけど大丈夫ですか?」


 聞こえるはずのない声に、エルフィナは驚いて顔を上げた。

 目の前に、その声の主――ラクティの顔がある。


「ラ、ラクティさん!?」

「むー。お姉ちゃんです。ちゃんと呼んでくれないと」

「な、何でここにいるんです!?」

「今日の用事は全部終わりました。少なくとも明日いっぱいは時間が空いてます。本当は今夜は王宮に宿泊予定だったんですが、無理矢理許可とって、こちらに。でも部屋がないので、無理矢理ここで相部屋ということにしました」

「ちょっと待ってください!? ティファや、アイラだって……」

「もちろん大歓迎です、ラクティ。アイラも、いいですよね?」

「もちろんです。これは今夜はとても楽しい夜になりそうです」


 ラクティを止めてくれる人はいなかった。

 ちなみに、さすがにメリナはいない……と思ったら、寮の管理者用の部屋の一つを借りてるとのこと。

 ラクティ在学時、メリナは寮付きメイドとして働いていたそうで、当時の部屋をそのまま使っているらしい。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ふー、やはりここの大浴場は気持ちいいですね」


 元々、入浴の文化は東方の島国と、火山帯の多い大陸南西部で始まったらしい。

 共通しているのは温泉があるということだ。

 その文化を知った貴族が邸宅に浴場を設置し始め、それが流行するようになる。

 現在では入浴の習慣は平民にまで広まっており、アルガンド王国に限らず大きな街なら一つ以上は公衆浴場が存在する。

 ここ数十年で、王国内でも温泉がいくつか見つかって、温泉街として栄えているところもあるらしい。

 当然、学生寮にも大浴場が存在する。


「なんか私たちだけですね」


 今大浴場にいるのはエルフィナ、ラクティ、ステファニー、アイラ、それに途中でラクティを見つけて一瞬でくっついてきたリスティの五人のみだ。


 学生寮は、女子寮、男子寮に別れているが、学院生全員が寝泊りするので、規模はかなり大きい。

 基本的には男子学生の方が多いため、男子寮のほうが規模が大きいが、設備そのものは女子寮も同じのため、むしろ女子寮の方が設備の面では優遇されているといえた。

 入浴の習慣があるといっても、毎日入るかどうかは人それぞれであるため、基本的に女子寮の大浴場はすいていることが多く、このように特に親しい者だけ、ということも珍しくはない。


「しかし……改めてみると、そのスタイル、反則ではありません?」


 ステファニーがまじまじとエルフィナを見る。

 さすがに浴槽の中にタオルを持ち込むこともできず、エルフィナは体を縮こませているが、それでもそのスタイルは隠しようがなかった。

 エルフィナは体を洗うことはあっても、入浴の習慣はほぼないということにして、これまでは一緒の入浴を断っていた。

 ただ実はたまにこっそりと入っていて、結構気に入ってはいた。ただ、同性とはいえ人前で裸になるのに抵抗があったのだ。


 だが今回は、ラクティが『せっかくだからみんなでお風呂に入りましょう!』と宣言し、抵抗するエルフィナは『姉の権限』などと言われて引きずられてしまった。

 結果、現在に至る。


「ちゃんと見たのは初めてだけど、エフィちゃん、本当にこれ……ずるい。お姉ちゃんに分けなさい」


 ちなみにラクティは年相応よりやや細身。十五歳になったばかりとのことで、やっと女性らしくなってきた、というところだ。


「わ、分けるってどうやって……」


 風呂の温かさと疲れで頭がやや朦朧気味のエルフィナの言葉に、ラクティはわが意を得たりとばかりに近づくと、がば、とその胸を鷲掴みにした。


「ふにゃあああああああああ!?」

「ちょ、なに、これ。これはちょっと反則というより、もう神器です」

「そ、そんなですか。ラクティ、私にも是非」

「ほら、これ。ものすごく柔らかなのに……って、ティファ、貴女も結構……」

「え? ……きゃあ!?」

「ですよねー。ティファもここ最近急成長した感じです。夏季休暇からこっち、急に色っぽくなって」

「ほほぅ。そうなんですか、アイラ。それは聞き捨てなりませんね……こら、エフィちゃん、逃げない。リスティ、捕まえておいてください」

「え、あ、は、はいっ」

「だ、だから変なとこ触らないで……」


 リスティに抱きつかれたエルフィナは脱出しようともがくが、朦朧とした状態では力が上手く入らない。


「って、私のことはいいですから、貴女とエフィはどういう関係なんです?」

「えっと、私が領主になってから起きた叛乱の話は、知ってるわよね?」

「ええ。コウ様が活躍されたとかでうたにもなってるほどですし」

「エフィちゃんも一緒に色々助けてくれたの」

「あら。エフィもあの叛乱に……? でも詩には……」

「出てますよ。ほら、『女神の化身』って。あれ、エフィちゃんのことです」

「あー」


 ステファニーとアイラ、リスティは『なんで思いつかなかったんだろう』という顔をしている。考えてみれば、そのほうがしっくりくる。


「でも、それがなぜ妹に?」

「あー、うん。あの叛乱が片付いた後なんだけど、私、おに……コウ様に告白して、フラれたんです」

「え!?」「はい!?」「嘘ですよね!?」


 ステファニーとアイラ、リスティが驚きの声を上げる。

 その瞬間、拘束が緩んだので脱出しようとしたエルフィナは、今度はラクティに捕まってしまった。


「まあそれはいいんです。コウ様が私のことをそう言う風に見てないのは分かっていたので。というか妹として見られていたみたいで。だから『お兄ちゃん』と呼ぶことにしたんです」

「そ、それは……しかし兄様とか兄上とかじゃないのですか」

「そこはそれ、親しみを込めて。私昔からお兄ちゃん欲しかったというのもあって」


 ラクティは前パリウス公爵であるハルバリア・ネイハのかなり遅くに生まれた子供で、母親はラクティを生んですぐ、流行り病に罹って世界を越えた。

 なので、ラクティには兄弟姉妹はいない。従兄姉であるアウグストの子らとは親交がほぼなかったし――それにすでに彼らもこの世界にはいない。


「その、ラクティ様は悲しくはなかったのですか……?」

「悲しかったですよ。フラれるの確定だってわかってましたけど、もうすごい泣きました。エフィちゃんには延々話に付き合ってもらいましたし」


 リスティの質問に対するラクティの言葉は、しかしもうそれを引きずっているようには見えない。

 叛乱直後なら、四カ月近く前のことだ。彼女ラクティの中では整理がついたことなのだろう。


「で、ティファも気付いてるみたいですが、エフィちゃんは絶対お兄ちゃんのことが好きです。だから、フラれたその夜に延々と語り合って、私としてはお兄ちゃんに変な恋人ができるくらいなら、と」

「……それは分かりましたが、なぜエフィが妹に?」

「信頼できる妹ならお兄ちゃんの恋人として問題ないですし、エフィちゃんって妹っぽくないですか?」

「それは否定しませんが……」


 ステファニーとアイラは、エルフィナの実年齢を聞いている。

 自分たちの十倍近い年齢の女性を妹扱いするのには、さすがに抵抗がある。

 が、それはそれとして、根本的な疑問として……。


「でもその理屈では、エフィもコウ様の妹になりませんか?」

「気のせいです」


 一欠片ひとかけらの説得力もない、しかし抗いがたい断言だった。


「とにかく、そんなわけで姉としては妹に幸せになってほしいし、憧れのお兄ちゃんを渡すのも、こんな素敵な妹なら諦めもつくってものです」


 分かったような分からないような超理論だったが、少なくとも方向性は自分たちと同じだ、ということだけはステファニーたちにも理解できた。


「とりあえずそちらは納得しておきましょう。で、そうなればこの三ヶ月の妹さんのことをお姉さんに報告するのは義務ですわね」

「むーっ、むーっ」


 ラクティに押さえ込まれたエルフィナの抗議は、完全に無視された。


「まあ、それほど進展があるわけではないのですけどね。でも、先日の夏季休暇の際に……」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ごめんなさい、エフィちゃん。ちょっとやりすぎました……」


 ベッドの上で突っ伏して動かなくなったエルフィナに、ラクティが申し訳なさそうに声をかける。

 だが、エルフィナは僅かに手首を動かしただけで、話す気力すらないらしい。


 今部屋にいるのはエルフィナ、ラクティ、ステファニー、アイラの四人だ。

 リスティはさすがに部屋に戻っている。

 名残惜しそうだったが、明日ラクティは一緒に学院祭を周る約束をしているようだ。


 エルフィナは元々、今日の公演で精神力をごっそり削られていた。さらに長風呂の挙句に、あることないこと――完全にないことと言い切れないためさらに羞恥心に身悶えたくなるが――ステファニーからラクティに赤裸々に報告され、もはや完全に精神が摩耗しきっている。

 話をめてもらうために、一瞬精霊を呼び出そうかと考えたほどである。無論実行に移してはいないが、あの状態では暴走していたかもしれない。


「しかし、こうなると、エフィがコウ様と出会った時のことが知りたいですね。ラクティもご存じないのですか?」

「そうですね。お兄ちゃんが冒険者の仕事でしばらくパリウスを空けて、戻ってこられたら、エフィちゃんがいたんです。まあ……私は立場上いくらか詳しくその仕事の概要は聞いてますが、お二人がどういう形で知り合ったかは聞けてないです。エフィちゃんが何かしらでお兄ちゃんに助けられたそうですが……」


 無言の圧力が精神力が削れきったエルフィナにのしかかるが、さすがにエルフィナもそれを話すつもりはなかった。

 そもそもそれを話せば、エルフィナが精霊使いであることや、その精霊がクロックスで幾人もの罪のない人々を殺害してしまったことも話すことになりかねない。


 あのキュペルの暗躍とそれにまつわる事件のことは、市民を不安にさせないためと、エルフィナへ非難を集めないためにとバルクハルトとアクレットが極秘で処理してくれた。一般にはキュペルの仕業であるとしか公表されていない。それをここで暴露すれば、彼らの厚意が無駄になる。

 ラクティは立場上コウがその解決に関わったことや、エルフィナが巻き込まれていたことは知っているようだが、詳細までは知らないはずだ。


「まあ、私の立場(パリウス公爵)でも詳しく教えてもらえないということは、冒険者の守秘義務に関わることでしょうから、そこは諦めましょう。でも、それはそれとして、エフィちゃんはいいかげん、お兄ちゃんに告白すべきです」

「……」

「だんまりを決め込んでも無駄です。いい加減、自分の気持ちに素直になるべきです」

「私だって、よく分からないんです……」


 エルフィナはもぞもぞとベッドの上で仰向けになった。


 コウのことを考えると、嬉しい気持ちになる。

 好意を持っているかといわれたら持ってると思うし、好きだと断言はできる。


 だがそれを言ったら、いじられるのは勘弁して欲しいが、ステファニーやアイラのことだって好きだ。

 妹扱いするのはともかくとしても、ラクティのことも好きだし、エンベルクで出会ったアルフィンのことだって好きだと思う。


 異性の話をするなら、キールゲンのことも好きだ。

 時々、コウと一緒に楽しそうにしているのを羨ましく思うこともあるが、王子という身分にもかかわらず、好ましい人物だと思っている。

 しばらく会っていないがアクレットのことだって好きだと思う。

 エンベルクのグラッツもいい人だった。

 ちょっと情けないところもあるが、王都のサフェスだって好ましい人物だ。

 学院の他の生徒たちのことだって、好きだと思う。


 彼らに対してとコウに対しての感情の違いが、エルフィナには分からないのだ。

 ただ同じかといわれると、違う気はするという程度である。


 そんなエルフィナの、呟く様な吐露を、三人はただ黙って聞いていた。


「まあ、特に森妖精エルフは長命ですからね……そういう気持ちもゆっくりなんでしょう。それに実年齢はともかく、エフィはむしろ私たちより年下なくらいですし、気持ちの整理もまだ難しいのかもしれませんし」

「そういえば、ティファはエフィちゃんの年齢知ってるのですか? さすがに私より上だろうとは思いますが……」

「ああ、ご存じないのですか? 百五十四歳だそうですよ」

「はい!?」


 さすがにその数字は予想していなかったのか、ラクティが素っ頓狂な声をあげた。


「まあでも、人間で言えば十五歳くらいということでしたし」

「……ま、まあいいです。私がお姉さんなのは動きませんっ」


 無理矢理こじつけるラクティ。

 その夜、結局夜半まで少女たちのおしゃべりは続いたのだった。


この世界の言葉でも兄の呼称は日本語同様いろいろあると思ってください(笑)

しかし長い……けど、これ途中で切ったらテンポ悪くなると思ったので諦めました。

やはり作者は楽しく書いてましたが(ぉ


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