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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第四章 王都の冒険者

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第76話 王都の夜

「いやぁ、本当に二人で倒してしまうとはね。さすがです。あとで報酬は受付で受け取ってくださいね」


 サフェスがニコニコと外向けの顔を見せつつ、詳しいは報告は中で、とホールから奥の部屋に案内する。

 とたん、先ほどの笑顔は消えて、怜悧と表現していい鋭い表情になった。


「その様子だと、普通の相手ではなかったとみるが、詳しく話を聞かせてもらってもいいかな」


 コウとエルフィナは頷いて勧められた椅子に座り、魔獣退治の顛末を話す。


「……なるほど。確かにブラステインはいわゆる『交渉』が可能な相手だ。飛行騎獣として人間の命令を聞くことができる知恵を持つし、対価を以ってそういうことを引き受けることもある。狙いが君たちだというのもあり得る話だ」


 あの水辺に遊びに行くのは誰にも話していない。

 強いて言えば提案したステファニーとそれを受諾したエルフィナなら事前に知りえたが、それとて休みの前日だ。

 つまり、移動してからしか知りえない情報だった。

 そしてもしコウとエルフィナが狙いだとすれば、そこから魔獣を探し出して交渉して――数日はかかる可能性が高い。

 その間に二人が王都に戻っていたのであれば、本当に間の抜けた話ではある。


 もっともその場合でも、あのような危険魔獣の討伐に二人が出てくる可能性は十分あり得たから、そこまで考慮していたのかもしれない。

 この時期にブラステインに対応できるほどの冒険者がことごとくリューサーク討伐に出てることは、誰でも知っている。


「君たちが狙いならば、それは間違いなく君たちが今請け負っている仕事――キールゲン王子の護衛任務と関係するとみていいだろう。もっとも、今王子に手を出すのは非常に難しいはずだけど」


 学院の出入りはあの爆発事故以後、極めて厳重に管理されていて、不審者が入り込む余地はない。王城は問題外だ。

 狙うなら王城と学院の移動のほか、キールゲンが街に出る時だが、王城から学院に行く際は正規の騎士が護衛についている。

 それ以外はコウ達が張り付いているわけで、不審者が近づく隙は無い。


「やはり一か月後にある学院祭が一番危険だろうね」

「そう思う。あの時だけは学院内に入る人を制御できないようだからな。まあ基本、俺たちが張り付いていれば何とかなると思うが」


 コウはある能力から、おそらくほとんどの不意打ちを完全に察知できる。

 そして気付きにくい、純粋な物理攻撃による遠距離からの狙撃については、エルフィナが常に風の精霊(フィーネ)に頼んで、完全に防ぐようにしているのだ。

 つまりキールゲンを害する方法は、正面からコウとエルフィナの二人を突破する以外、実はほとんどない。


 ただそれでも、コウが知る文化祭と似たような催しだとすれば、学院祭でキールゲンに刺客が至近距離まで接触する可能性は、完全には排除できない。となればその間は、ひたすら警戒するしかない。


 このような動きが出てきた以上、王子を狙う何者かの動きがあるのは確実だろう。可能なら、学院祭で迎撃して禍根を断ちたいところだ。


「思った以上に厄介な仕事になってるね。まあ、学院祭当日はこちらでも警備の依頼を請け負うので、何人かは冒険者が派遣される。事前に面通しはしておくので、彼らも頼ってくれ」

「わかった、そちらも頼りにしている」

「よろしくお願いします」


 学院祭まであと一月。

 それまでにやるべきことは多い。

 コウとエルフィナはサフェスに別れを告げ、受付で報酬を受け取るとギルドを後にした。

 外はもうすっかり陽が落ちている。

 時間的には十九時過ぎというところか。


「すっかり暗いですね。食事はどうします?」

「どこか適当に店を探すか」

「ですね。考えてみたらコウと二人だけで王都を歩くの、久しぶりです。学院に入ってからは初めてです」


 言われてから王都に着いてからのことを思い出すと――確かにその通りだった。

 王都に着いてすぐハインリヒに呼び出され、この仕事を請け負うことになった。

 その後準備のための一週間では、何度か王都を出歩いていたが、学院に入ってからは、王都を歩く場合はコウは常にキールゲンと一緒だったし、エルフィナもキールゲンがいなければステファニーらと一緒だ。

 二人だけという事はなかった。


「確かにな。それだけ忙しかったという事か」

「あと三日はお休みです。ゆっくりしましょう」

「それはそれとして今日の食事だな。エルフィナ、ステファニー達とたまにあちこち行ってるようだから、いい店とか、あるいは行ってなくて気になる店とかないか?」


 するとエルフィナは「うーん」と考え込む。


「ティファたちと出かけるのは基本昼ですからね。夜の王都は私も本当に久しぶりです。まあでも……そうですね。ちょっと気になるところはあるので、今日はそこに行きましょう」


 そういってエルフィナが案内したのは、アルカーナ河の中州島の一つだった。


「昼に見えた時、やってないお店だったんですよ。なので夜ならやってるかな、と思って。大きな鉄板が各テーブルにあったので気になってたんです」


 エルフィナは簡単に言ってるが、河岸から百メートル(二百カイテル)は離れた距離で、テーブルを識別してたことになる。相変わらず恐ろしい視力だ。


「これは……なるほど、こういう店か」


 地球で言えばバーベキュー専門店というか。

 各テーブルの上に大きな鉄板があり、店員ではなく客が好きに食材を焼いて食べる店だ。

 地球というか、日本だとこういう形式の店は色々あるわけだが、半ば屋外のようになってるのでバーベキューというのが一番妥当だろう。


「コウの世界にもあったんですか?」

「ああ。似た店はあったな。ただまあ……うん、火のつけ方とかは当然違うが」


 予想は出来たが、火種になってるのは法術具だ。

 驚いたのは『自前の法術がある方は使っても構いません。ただし機材が壊れた場合は実費をお支払いいただきます』などと書いてあることだ。

 そして材料費以外に火種そのものにも料金を払うらしい。


「大火力が欲しい場合はコウに頼む方が良さそうですね」

「まあ……そうだな。それにこれだけあれば……」


 鉄板の大きさは、縦が五十センチ(一カイテル)、横が百センチ(二カイテル)あまり。

 これだけのサイズだと、通常下に必要な火種は二つか三つ――火種はその大きさも調節できるがそれくらいが限界――だ。


 コウは火種を一つだけと、あとは食材を注文する。

 そして、向かって左側だけは慎重に威力を調整した[火種]を発動させる。

 それでも明らかに並の人間では、最大火力で発動させたのに等しい火力の火種が生まれた。

 続いて真ん中に、さらに威力を相当に絞った火種を、最後の右側には店の火種を火力をかなり絞って発動させる。


「……火力が違う?」

「この手の鉄板焼きの基本だな。火力を変えた場所を作って、焼き加減を調節するんだ。ほら、やってる人いるだろ?」


 周りを見ると、火種の威力を調節して同じようにしている客が多い。

 もっとも、高火力は店の火種を使ってる人がほとんどだが。


「そういうものですか。なるほど。確かに食材によって、火の通り方が違いますものね」


 エルフィナはそういうと、野菜や肉などを鉄板の上に広げていく。


「たまにはいいな、こういうのも」


 肉が焼ける香ばしい匂いがあたりに広がる。

 その時になって気付いたが、天井近くに弱い風の流れが作られていて、匂いがこもらないようになっていた。当然、法術具クリプトだろう。

 あらためて、この世界の生活と法術が深く結びついているのを痛感する。

 その在り様は、地球における電化製品と同じかそれ以上だ。


「さて、そろそろいいか」

「ですね。それじゃあ……」

「「いただきます」」


 二人で手を合わせて食べ始める。

 味付けは塩以外に、香辛料を煮詰めたソースなどもあって、味の変化も楽しめた。

 コウの知る味付けとはやや異なるが、これはこれでとても美味しい。


 この世界に来て十カ月余り。

 帰る術があるのか、そもそも帰るべきなのか、帰りたくないのか。

 時々悩むことはなくはない。


 ただそれでも、こうやって、美味しい食事を一緒に食べてくれる人がいるのは、それだけで楽しいことだと――コウはそう思っていた。

 そしてエルフィナもまた、コウと一緒に食べる食事が、やはり一番美味しいと思いながら、その味に顔を綻ばせていたのだった。


夏休み編終わりです。

次から学院祭編となります。

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