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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第四章 王都の冒険者

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第74話 王都での仕事

 河から戻った二人は、とりあえず一番最初に王都に来た時に使った宿に戻った。

 最初に一週間ほど泊まったが、その時は学院の入学準備のための場所と化してしまった。

 今回、一週間ほどだが本来の冒険者としての仕事をするための短期滞在となる見込みだ。


 主人は幸い覚えていてくれて、快く空いている部屋を貸してくれた。相変わらずエルフィナが一部屋だけにしていたが――あの会話の後でもそういうことに迷わない辺りは、やはり恋愛感情というのがお互いないのだろうという気はしている。


 そして翌朝、実に二カ月ぶりに冒険者ギルドに行くと――。


「ちょ、ちょうどいいところにーっ」


 ギルドに入った直後、ギルド長のサフェスが抱き着かんばかりの勢いで迫ってきた。


「な、なんだ!?」


 思わずコウは横に避けてしまうと、空振りしたサフェスが情けない顔をこちらに向ける。


「ひどいな……いや、いいけど。とりあえず学院の夏季休暇だから仕事をしてくれるってことでいいよね?」

「……その、つもりだが。まあ一週間ほどは出かけてたが……」

「うん、むしろそれが都合がよかった。最初から来てくれてたら本当に困っていた」

「どういうことですか?」


 エルフィナが不思議そうに首を傾げると、サフェスは今印刷したばかりと思われる依頼書を二人に見せる。


「魔獣討伐?」

「魔獣……うわ、ブラステインですか」

「……ああ、なんか本で見たな。確か――」


 魔獣ブラステイン。

 動物とは一線を画す特殊能力を持つ存在を魔獣と呼ぶ。

 その中でも特に危険とされ、発見次第即時討伐対象となる魔獣を第一種討伐対象プライマリレトリアというのだが、そのうちの一つだ。


 外見は地球の伝承に倣うならグリフォンが近い。

 獣の躰に、猛禽類――鷲というより梟だが――の頭、巨大な翼がある。

 そして魔獣の特徴でもある、法術に似た特殊な現象を起こす能力を持つ。

 その性向は獰猛かつ凶暴で、動くものを見ればなんであろうと襲いかかり破壊、あるいは食らうという。


 ただ、地球のグリフォンと異なる点として、その翼は皮膜を持つ蝙蝠こうもりのようなものと鳥の様なものの二対四枚。

 そして、飛行に使うのは皮膜の翼で、非常に巨大だ。一方の鳥の様なそれは小さく、見た目は翼だが実際には異なり、その羽はことごとく鋭利な刃を持っていて、それを飛ばして攻撃を行うための『武器』だという点。

 体長は尾を除けばだいたい四メートル(八カイテル)ほど。地球の象やカバ並だ。

 非常に強力な魔獣であり、冒険者数人がかりで相手をするほどの魔獣だ。


「これが出たのか?」


 サフェスが無言でうなずく。


「他の冒険者の皆さんは?」

「それが、高ランクはみんな四日ほど前に王都から西へ百メルテ(五十キロメートル)ほどの場所に、毎年恒例のリューサーク抑制に行ってるんだ」


 魔獣リューサーク。

 普段はおとなしいのだが、繁殖期になるとなぜか凶暴化する、二足歩行するトカゲ型の魔獣だ。

 それだけなら放置すればいいのだが、なぜか同族同士で殺し合いを行う。よりによってそれがアルカーナ河の上流域で行われ、その死体が河に流れてしまうのだ。

 そして、このリューサークの血は人間には毒であり、多少ならまだしも、この季節のリューサークが暴れると、軽く百体ほどの死体が河に浮く。

 結果、その後の水質浄化がとても大変なことになるため、毎年この時期にリューサークが河に入らない様に、冒険者がリューサークを監視するのである。


 ただ、リューサークもまがりなりにも魔獣であり、それなりの経験を積んだ者でなければ危険だ。数人は冒険者になったばかりの新人教育を兼ねて連れていくことがあるが、高ランクはこの時期大体いなくなる。

 せいぜい一週間で戻ってくるので、その間に高ランク冒険者がいないとまずい事態が生じることは普通はないのだが、今回はタイミングが非常に悪い。


 なお、軍隊を動員してまでリューサークを壊滅させたこともあるが、なぜか翌年も普通に現れた。

 何回かそれを繰り返した結果、壊滅させても無駄と判断し、今の方法になったという。


「他の冒険者は……無茶か」

「正直に言えば、君たち二人でも厳しいかもだから、何人かまだ残ってはいるんだが」


 ギルド内をぱっと見回すと、数人冒険者が見えるが、コウよりも年下と思われる者ばかり。ギリギリ冒険者になれたか、なったばかりという感じだ。

 リューサーク対応に同行しなかったということは、リューサーク相手でも厳しいレベルということだろう。

 連れて行っても、文字通り弾避けになるかどうかだし、そこまでするつもりはなかった。

 というよりは――。


「いや、俺たち二人だけでいい。多分、何とかなる。場所は?」

「王都の南だ。大体このあたりで目撃された」


 示された場所は主街道から少し外れたところ。

 というより――。


「これ、俺たちが出かけてた場所だな」


 一週間ほど遊んできた、まさにその場所だった。

 距離にして三十メルテ(十五キロメートル)ほど。

 ブラステインであれば文字通りひとっ飛びで届く距離だ。

 これが王都まで来たらさすがに大惨事だ。

 むしろあと二日も滞在していたら、真っ先にコウとエルフィナが遭遇してたことになる。


「王都に来る商隊が昨日目撃したらしい。で、すぐ知らせてくれたのだが、あまりに間が悪くて。仕方ないから、国に頼もうかと思っていたんだ」


 実際、魔獣討伐で国と冒険者が協力することはよくある。

 ただ、たいていは群れに対応するためであり、単体の魔獣で軍が動くケースはあまりない。

 というのも、単体の魔獣討伐の場合、大勢いても有効に機能しない場合が多いからだ。

 巨大かつ鈍重な魔獣であればともかく、ブラステインは俊敏で、風の精霊の加護があるとされているため弓矢などはまず当たらないとされている。


「しかし……唐突に現れたものだな」


 普通、人里近くに来る可能性のある第一種討伐対象プライマリレトリアは、その危険性ゆえに、その生息域は把握されている。

 そこから飛び出す個体が稀にいたとしても、人里近くに来る前に対処されるのが普通だ。

 ただ、ブラステインは移動速度が相当に速いので、その監視網から漏れた可能性は否定できないが。


「それについては調査中だ。ブラステインは確かに王都から四百メルテ(二百キロメートル)ほど離れた場所で山奥で群れで生息しているのは確認されている。今回見られた個体は多分そのうちの一体だろう。なぜ単独行動しているのかは原因不明だ」

「確か、ブラステインって非常に珍しい『言葉での対話が可能』な魔獣じゃなかったでしたっけ」


 エルフィナの言葉に、コウとサフェスが驚いて振り返る。


「よく知ってるね。確かにその通りだ。なのでまあ、無条件討伐ではなく立ち去ってもらえないかって最初に考えたんだが……昨日行ってもらった冒険者が、今朝帰ってきてね。正しくは逃げ帰ってきたというか……今は奥で寝てるが」

「交渉決裂か?」

「というか交渉の余地なしという状態だったらしい。死ぬ思いで逃げてきたそうだ」


 それも妙な話だ。

 ブラステインは頭がいい。大きな街が近くにあることくらいわかっているだろうし、当然その場合もリスクだってわかるはずだ。


 ふと思いついたのは、キールゲンを狙う動きとの関連だ。

 ブラステインが王都に来れば、さすがに混乱が生じる。

 その間に王子に危害を加えるというのは――とはいえさすがに不確定要素が多すぎるか。

 それにそれなら、夏季休暇中である今であるのは奇妙だ。

 王子を狙う勢力であれば、今キールゲンは王城にいることくらいは調べているだろう。

 警戒厳重な王城にいるときに襲うとは考えにくい。

 あるいは王城内に刺客がすでに紛れ込んでいるとしたら――だとしても騒ぎを起こすメリットはない。

 第一、いくらブラステインとはいえ、王都守護の騎士たちにかかればひとたまりもない。

 王子を狙う動きと関連づけるのは無理があるか。


「わかった。とりあえず俺たちで様子を見てくる。討伐してもいいんだろう?」

「……簡単に言うね。まあ君たちならあるいはだろうけど……」

「時間が惜しい。馬を用立ててくれるか?」

「それはもちろん。八刻(二十分)ほど待ってくれ」


 そういうとサフェスは踵を返して受付と何かを話している。

 馬の準備以外にも、ブラステインが王都まで来てしまった場合の対策なども矢継ぎ早に指示している。

 最初になんとなく情けない雰囲気を出していたが、実際には王都の冒険者ギルドを任されるほどの人物だ。見た目と能力にギャップがあり過ぎるが。


「手配はできた。すぐ、ギルド前に馬を連れてきてくれるそうだ。南門の兵士にも話を通す手はずになってるから、そのまま駆け抜けてくれていい」

「わかった、いこう、エルフィナ」

「はい……って、私、乗馬慣れてないんですけど」


 その可能性を忘れていた。

 ちなみにコウは、ラクティとパリウスに戻ってくる道中で馬にはかなり慣れたし、その後もパリウスにいる時には機会があれば練習していたので、さほど困らない。


「仕方ないな。サフェス、二人乗りでも大丈夫な馬か?」

「多分問題ないよ。エルフィナさんは軽そうだしね。それに君たちはどちらも重い鎧はけてないから、問題ない」


 コウは革で要所のみ補強された服、エルフィナも軽い革鎧のみだ。


「とりあえず――行くか」

「はい。急ぎましょう。上空は私が見てます。私の方が目がいいでしょうし」


 最悪、上空を通過されてすれ違っては意味がない。


「わかった、頼む」


 コウがそう言ったところで、馬を連れた男がギルド前に来た。

 二人はより体格のいい方に乗ると、やや速足で南門を目指したのだった。


実は初じゃないかという冒険者らしい魔獣退治のお仕事です(笑)


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