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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第三部 第一章 争乱の島

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第345話 首都潜入

 カスカの街への潜入は、造作もなかった。

 認識阻害に加え視認すら出来ないようにしてしまえば、もはや人間が気付ける理由はない。

 検問を行ってる城門を平然と通り抜け、コウとヴェルヴスはカスカの街に入った。


 二人が入ったのは南門。

 この世界のこの手の都市は、おおむね東西南北とその間に門を設けることが多い。

 ただし街の規模が小さくなると、四方の門だけになるが、このカスカはさすがに合計八の門があるようだ。

 ただ。


「門を繋ぐ大通りはともかく、あとの道が驚くほど狭いな」


 門へとつながる大通りはさすがに広い。きれいに石畳に覆われていて、その表面かなり滑らかだ。

 馬車三台は余裕で並んで通れるほどの広さもある。


 ただ、少し脇にそれるとあっという間に道の品質は悪くなる。

 石畳も凸凹で、馬車がかろうじて一台通れる程度。あるいは通れそうにない道も多い。


 このカスカは元はクリウス王国の王都だったというが、正しくは少し違うらしい。

 というのは、百五十年前のヨーエンベルグ共和国の建国の時の争乱はかなり規模が大きく、王都は壊滅状態になったという。

 その瓦礫から立て直されたのが今のカスカだ。

 百五十年前の建物で残っているのは街の中心にある政庁のみで、これがかつての王城らしい。と言っても王城もかなり損壊していたらしいので、外見的には当時の面影は残っていないという。


「応仁の乱の京都でも都すべてが焼け野原とかではなかったと思うんだがな」


 あまり詳しくはないが、当時の京都というか平安京と当時のカスカ――人口十万人程度とされている――は同じくらいではないかとは思うのだが、この世界の建築技術は少なくとも当時の京都よりは高い。

 そのため人口密度的にはおそらく上だ。


 いずれにせよその後都市は再建されたわけだが、おそらく無計画に色々建造されたのだろう。

 だからなのか、この街の街区は大通りを除いてほぼ迷路らしい。


「で、こんな初めてくる街で、どうやって協力者と合流するのだ?」

「それなんだがな……」


 コウは左手首に巻いた、くすんだ黄色に布を示した。

 この世界はあまり染色技術が発達していない。正しくは、発達する理由がなかった。

 顔料それ自体はかなりあり、絵画技術は発展していたが、布を染める技術はあまりない。なぜかと言えば、染める必要がないほど多種多様な素材が手に入るからで、この布も糸を編み上げた布ではなく、実はある虫の皮だという。


「これを左手首に巻いて、南から中央広場へ向けて歩き、半分くらいしたところで右に折れて後はまっすぐ行け、と言われているだけなんだ」


 とりあえず現在は認識阻害は解いている。

 だが、誰かが接触してくる雰囲気はない。


「なんだその曖昧な指示は。第一……」


 ヴェルヴスは右手を見やる。

 大通りに面する店はさすがに整った店が多いが、それでも全体としては活気はあまりない。

 戦争で勝っている国なのだから、もう少し活況でもいいはずだが、街行く人々の顔は一様に沈んでいる。

 彼らからは悪魔ギリルの気配は感じないが、あるいは戦時の重税で気力を削がれているのか。

 並んでいる店は食事処や雑貨屋、衣料品店などがあるが、大通りならではの喧騒とは無縁だ。

 そもそもで雑然とした雰囲気がある。


「半分といっても、目分になろう。どこで曲がればいいのだ?」

「俺に聞くな。まあ……適当でいいだろう」


 とりあえず目立たないように――刀は袋をかぶせてある――大通りを歩くと、途中で適当に右に折れた。

 一応、それなりに先まで続いている道を選んだので、そのまままっすぐ進む。

 だが、比較的開けていた大通りと違い、街区に入った後の道は近くまで建物が迫っていて暗く、また、急激に治安が悪化したような雰囲気すらあった。


けられているな」


 しばらくしてからのヴェルヴスの言葉に、コウも小さく頷いた。

 大通りから曲がった直後くらいから誰かがついてきている。

 法印ルナールの気配はあるが、魔力それ自体は悪魔ギリルのそれは感じない。


 敵か、味方か。


 判断に迷うところだったが、とりあえずそのまままっすぐに進むと、どんどん人気ひとけがなくなっていく。

 周囲の建物も非常に古く、荒れ果てたものが多い。

 道はどんどん狭くなり、ついには人とすれ違うのすら気を付けなければならないほどになっていった。


「さて。さすがにそろそろいいか?」


 コウは足を止めて振り返る。

 立っていたのは、三十歳くらいと思われる男性。服装は特徴がない。というより、全く印象に残らないというほどで、思わず認識阻害を使われているのかと思ったほどだ。


「ネルテリウス王国から来た者だな?」


 男の声は思った以上にくぐもっていた。

 あるいはわざとそういう声を出しているのかもしれない。

 コウはそれに小さく頷く。


「名は?」

「コウ。冒険者だ」


 そう言って証の紋章(エルタイズ)を見せる。そこに刻まれた四つの領域に分けられた方形は、冒険者の証だ。

 男はそれを見て軽く目を見張った後、「ついてこい」というと来た道を戻り始めた。

 コウはヴェルヴスと顔を見合わせてから、黙って後に続く。


(……この道、やたら道が合流していたのか)


 道を戻ると気付くが、やたらとささくれだった道だった。

 奥に向かう時は暗さもあって気付かなかったが、いくつもの道が合流していたのだ。

 だが戻ろうとすると、どの道から自分が来たのか分からなくなりそうだ。


 しかし男は分かっているようで、その道を迷いなく進むと、やがて一つの廃屋に入っていく。

 コウは少し用心をしつつ、後に続いた。

 ヴェルヴスは警戒する素振りすら見せていないが。


 廃屋の中は当然だが暗く、明りもない。

 男はそのまま、家の奥に入っていく。

 入った部屋はさらに暗く、明りの法術を使おうとしたところで、突然床の一部から光が漏れ、穴が開いた。


「こっちだ、早く」


 声は先ほどの男のもので、男もその穴に入ったらしい。

 コウとヴェルヴスは顔を一瞬見合わせてから、穴に入った。ヴェルヴスは大分狭そうだったが。


 入ってすぐ階段が下に続いていて、二人が入ってしばらくすると階段の入口は床がずれて閉ざされる。直後、その閉ざされた向こう側で何かが崩れた音がした。


(偽装工作……文字通りの地下組織だな)


 階段はおそらく二フロア分ほどは降りて、そこから横に移動、さらに今度は上り階段で少し上がる。

 やがて突き当りに扉があって、そこに入ると、中はさほど広くはないが、五メートル(十カイテル)四方ほどの部屋になっていた。

 そこに雑然とテーブルやいすが並んでいる。扉があるので、ここが行き止まりというわけではないらしい。

 明りは申し訳程度の灯火があるのみ。


 中にいたのは四人。

 先ほどの男を加えて五人か。

 男性が三人、女性が二人。

 一人はここまで案内してきた者だ。相変わらず印象がつかみにくい。


「ネルテリウスから来たということだが、名は?」


 いきなり問われるのはやや不快なのは否めないが、この場合は少し仕方ないところか。

 コウは黙って証の紋章(エルタイズ)を取り出した。


「コウ。冒険者だ」

「冒険者……って、え。黄……じゃないよな、それ。銅!?」


 コウの技術位階(ランク)は近接と法術が銅。これはおそらく大陸でも最高クラスになる。


「嘘だろ……黒ですら俺見たことないぞ……」


 男の一人が唖然としている。

 それから、彼は同じように証の紋章(エルタイズ)を取り出した。

 そこにはレベック・ライラックという名と、冒険者であることを示す方形が刻まれている。技量は近接が紫、遠距離が青、法術が紫、探索が赤。


「レベック・ライラック。エグラムをメインとする冒険者だ。もっとも、冒険者稼業は二年ほど休業中に近いが」


 レベックの自己紹介を皮切りに、次々に自己紹介をしてきた。

 レベック・ライラックは冒険者で三十歳。

 案内してきたのは、ハンベルク・オルマイヤ。ネルテリウス王国の軍人で、三十五歳。

 もう一人の男性がユーリ・フェブラート。四十歳でこちらもネルテリウスの軍人。

 女性はメアリー・レクラートとアリア・レクラートという姉妹で、二十五歳と二十三歳のネルテリウスの軍人だという。


「これで全員……か?」

「さすがにそんなことはない。市民の協力者は多いとは言えないが、少なくもない」


 答えたのはユーリだ。年齢的にもこの中ではリーダーなのだろう。


 カスカに潜入しているネルテリウス王国の工作員自体は、合計でも十人程度らしい。ただ、この国の状態を憂いて、協力する人間は多いという。

 ただし、地下組織よろしくあえて横の連携をほとんど取らず、基本的に一方通行の連絡手段しかないらしい。

 最悪、誰かが捕縛されても組織を生き延びさせるためだという。


 コウとしてはあまりいい気はしないやり方だが、潜伏する反抗組織としては有効な手段だろう。


「しかし、驚くほど早く来たな……連絡を受けてから二日と経ってないんだが」

「結構早くに出たからな。しかし連絡手段があるのか」


 さすがに早過ぎたらしいので、適当に誤魔化した。

 長距離通信法術がまともに機能しない現状では、六百キロ(千二百メルテ)も離れている以上、そう簡単に連絡は取れないと踏んでいたのだが――。


「昔の手段ではあるのだがな。伝書鳥レヴラーグを使っているんだ」


 久しぶりに《意志接続ウィルリンク》が仕事をした感じだった。初めて聞く単語だ。要は伝書鳩みたいなものか。そういう手段がこの世界にあったのは初めて知ったが、遠距離通信法術があれば確かに要らないだろう。


「なるほど。それは分かったが……実際どういう行動をやる予定なんだ?」


 今のところ、この地で混乱を起こすことでネルテリウス王国を支援するという概要は聞いている。だが、正直に言うとコウはその動きが効果があるかは、すでに懐疑的だった。

 おそらくネルテリウス王国が考えてる以上に、この地には悪魔ギリルの影響が強く出ている。

 叛乱を起こしたところで、おそらく容赦なく叩き潰されるだろう。

 普通であれば民衆を殺すことを平然とやれる為政者は多くはない。見せしめに殺すことはあっても、全滅させては自分の支配が揺らぐからだ。

 だが、悪魔ギリルがそんなことを忖度するはずはなく、本当に容赦なく叩き潰してくるだろう。


「そうだな……まずは現状の説明から始めていいだろうか。そう単純な話ではないのは、貴殿もこの街に来たら感じたと思う」


 どうやらコウが考えている懸念を、彼らは共有しているらしい。

 そういうことであれば、無謀な作戦というわけでもないようだ。

 コウは小さく頷いて、話の先を促した。

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