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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第二部 第二章 精霊王の道標

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第329話 西恩寺家のパーティ

 さらに十日余りが過ぎ、聖華高校でも後期の終業式が行われ、エルフィナの高校一年生は終了となった。

 かつてアルス王立学院に三カ月だけ在籍したが、このような形になるのは少し感慨深い。

 ただ、玲奈の問題は全く解決していなかった。


 玲奈はあの後はたまに休むことはあれど学校には来ていたが、エルフィナらともほとんど話すことがなく、授業が終わるとすぐに家に帰ってしまう。

 幾度か呼び止めたりしたのだが、「家の用事がありますので」といって帰ってしまうし、授業の合間の休みなどでは机に座って考え事をしてるようで、声をかけても上の空であることが多かった。

 心配になって何かないかと聞いてみても、「なんでもありませんよ」と言うし、実際その様子はそれほどおかしくはないので、それ以上聞くのはエルフィナや由希子では難しい。


 昼食を一緒にすることも少なからずあったが、口数こそ少なく、雰囲気が少し暗いという以外は、そこまでおかしい様子はなかったのである。


 とはいえ昔からの友人である柚香はさすがに納得がいかず、何度か問い詰めるような場面もあったのだが、最後には「何でもありませんと言ってるでしょう!?」と玲奈が声を荒げる場面が一度あり、以後柚香がむしろ玲奈を少し避けてしまっているくらいだ。


 そんな状態で終業式を迎え、せっかくの春休みだから四人で会おうという誘いにも、玲奈は忙しいから予定が空いたら連絡するとだけ言って、会う約束は出来なかったのである。


「玲奈ちゃんも水臭いなぁ、ホントに」


 柚香が不平を漏らしつつ、フライドポテトを口に放り込んでいた。

 終業式の二日後、エルフィナは柚香、由希子と一緒に近隣の駅で待ち合わせて遊びに来ているのである。


 最初に行ったのはボウリング。

 元々、エルフィナがボウリングを一度もやったことがない――当たり前だが――と春休み直前に話して、それでみんなで行こうという話になったのだ。

 ただやはり、玲奈は来なかった。

 玲奈には柚香が一応連絡したらしいが、メッセージに対して『ごめんなさい。その日は無理です』とだけ帰ってきたという。


 ちなみにボウリングは一ゲーム目でコツをつかんだエルフィナが二人を圧倒、あっさりと百七十点台をたたき出している。

 柚香が「初めてじゃないの!?」と叫んでいたが。


 その後お昼ごはんをファーストフード店で食べているところである。


「実際、玲奈さん大丈夫なんでしょうか。メッセージなどを送ると返事はあるのですが」


 由希子も心配そうだ。

 これに関しては、エルフィナは少し口をつぐむしかない。


 普通に考えれば、先だって美佳に聞いた西恩寺家の事情が玲奈の状態の原因であるのは間違いないだろう。

 ただ、同じ貴族社会の情報をある程度は得られるはずの柚香が知らないということは、本当に西恩寺家の中だけの話である可能性が高い。

 となれば、下手に情報を漏らすわけにもいかないだろう。


(というか、美佳の情報網が怖いですが)


 そこについては今考えても無駄なので、考えないことにする。

 柚香は今も不満そうにポテトを咥えていた。貴族令嬢にあるまじき行為には思えるが、気持ちは分からなくもない。


「噂程度で、婚約者となんか少しあったとかいう話もあるんだけど、よくわかんないんだよね」

「そういえば玲奈さん、婚約者がいるのでしたね」

「うん。そうなんだけどねぇ。でも私も紹介してもらったこともまだないから、よく知らないんだよ」


 柚香がそう言いつつジュースを飲んでから、ため息を吐く。


「玲奈ちゃん、新学期まで会えないかなぁ。なんか忙しいのかもしれないけど」

「心配ですよね……」


 遊びに来たのに、結局友人の心配ばかりしている。その関係性が、エルフィナにはとてもいいと思えた。

 ふと、ステファニーやアイラ、姉――もとい、ラクティを思い出す。

 あるいは彼女たちと柚香や玲奈、由希子たちなら、とても仲良くなりそうだ。

 言葉の問題はあるが。


「エルフィナさん、どうかなさいました?」

「え?」

「いえ、なんか嬉しそうな顔をされてたので」


 どうやら顔に出ていたらしい。


「あ、いえ。友人を思い出して」

「へぇ。エフィちゃんの友人。っていうかそういえば、どんなとこに住んでるってのは聞いたけど、あっちのお友達の話全然聞いたことないね」

「あ……いえ、その」


 さすがに色々説明しづらいので今まで避けてきたのである。

 ただ、今回は柚香も由希子も少し乗り気になって聞いてきた。

 どうしても共通の話題だと玲奈の話になって暗くなってしまうのに、二人とも少し辟易としていたのもあるのかもしれない。


(少し設定ずらせば……大丈夫でしょうかね)


 世界が繋がっている以上、あるいは会うことがあるかどうかは――普通に考えればまずないとは思えても。

 なんとなく、それもいいかと思えてくる。


「そうですね。前にいた学校のことになりますが――」


 ラクティは厳密には違うが、大切な人間であることは同じだ。

 エルフィナは、かつてのことを思い出しながら、アルス王立学院のことを少しだけ話すのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「エルフィナ、三日後空けといて」

「へ?」


 柚香たちと別れて家に帰ってきたエルフィナは、美佳に突然そう言われた。


「三日後に、西恩寺家が内々に開くパーティがあるのよ。場所も近いしちょうどいいから、招待状を手配させたわ」

「え。パーティですか?」

「ええ。ドレスコードとかあるから、服を調達しないとだから、明日買いに行くわ。ついてきなさい」

「う……パーティというと、ドレス着たりとか……?」


 とても恥ずかしかったアルガンドでのパーティが思い出された。

 あの時、ラクティが選んだ――いつ手配していたのかと思うが――ドレスを着て、コウの前に立った時本当に恥ずかしかったのだ。

 コウが文字通り言葉を失ってくれるほどに見惚みとれてくれたのは嬉しかったが。


「ドレスといえばドレスだけど……ああ、王族のパーティに出たんだっけ。そういう派手なの想像してるの? そこまでじゃなくていいわ。セミフォーマルってことだから、あっちの感覚からしたら、すこしおめかしする程度よ。あ、今回はさすがに制服はダメよ」


 確かにこちらの被服文化は、クレスティアと比べると簡素な方に偏っている。

 ただその分、露出が多い服なども多くて、エルフィナとしては戸惑うことも多かった。


 制服にしても、見た目の印象は確かに似ているが、あのスカートの短さだけは未だに納得がいかない。一年着てきてやっと慣れたくらいだ。


「わかりました。私も行くという事ですよね」

「ええ。私だけでもいいけど、エルフィナもちゃんと確認したいのよね?」

「はい。ぜひお願いします」


 そして翌日、百貨店(デパート)に美佳と二人出かけたエルフィナだったが、セミフォーマルというのがエルフィナにとっては思った以上に普通の服に近かったのもあって、選ぶのがむしろ楽しかった。

 今回は美佳も購入するとのことで、むしろ美佳に似合うのを探すのが楽しくなったくらいである。


 エルフィナが選んだのは黒に近い紺色のワンピース。

 袖は七分丈でレース生地になっているもので、スカートは膝下丈、レース生地が重ねられているデザインだ。


 美佳はベージュ色のプリーツスカートのワンピースである。


「エルフィナの場合は、スタイル強調するドレスの方がいいんだろうけど……ま、今回は目立つのが目的じゃないしね」

「え、遠慮します……」


 エルフィナの選んだワンピースは首元までしっかり覆い隠すデザインだ。

 これは、精霊珠メルムグリア精霊王珠エル・メルムグリアを服の下に忍ばせていくためでもある。

 本音を言えば武器も持っていきたいところだが、さすがにそれは出来ない。

 コウの持つ刀の様な特性はさすがにないし、美佳に頼むことでもないだろう。

 そもそも荒事になるとは限らない。


「そういえば……パーティという話ですが、名目は何でしょう?」


 何の名目もなしにパーティをやることは貴族らしいという気はするが、さすがに貴族制度がなくなっているこの国ではそうそうない気がする。


「ああ、言ってなかったわね。西恩寺家令嬢の婚約者発表よ」

「え」

「だからドンピシャなのよ。話の通りなら、まず間違いなく西恩寺幸成もそこにいるわ。もちろん一幸もね」


 美佳によると、その幸成の父――時幸ときゆきというらしい――はさすがに参加しないらしいが、あとの主だった西恩寺家の者や、他の家の者もいくらかいるらしい。

 ただ、もちろん玲奈の元の婚約者の家の者はいないという。


「じゃあ、確実にそこなら玲奈さんもいるわけですね」

「ええ。彼らの前に直接出るのは私も久しぶりだけどね。ま、今回に関しては記憶に残らないように色々聞かせてもらいましょう」


 さらっととんでもないことを言われた気がするが、エルフィナは気にしないことにした。

 それよりも、玲奈の方が心配だ。


 普通に考えれば、何かしらで征矢が幸成に脅されているなどが考えられ、そうなるとエルフィナに出来ることはない。美佳を頼るしかないだろう。

 その意味では美佳に任せるのが正解なのだが、この時エルフィナは、なぜか自分も行くべきだと思っていたので、パーティに参加すると言われた時それを迷うことなく了承したのだ。

 それがどういう理由かは、本人にも全く分かっていなかった。


 そしてエルフィナも美佳も、普通ではない『何か』の存在を、あるいはこの時から感じていたのかもしれないと、あとで振り返った時思うことになる。



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