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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第二部 第二章 精霊王の道標

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第327話 わずかな不安

 二月も過ぎ、三月に入るとようやく少し暖かくなってきた。

 エルフィナにとっては、二月は少し大変なことが一回だけあったが、あとは概ね平穏だったと言っていいだろう。


 その一回、バレンタインというイベントだけは、色々と美佳にないことないこと吹き込まれたこともあり、ひどい目に遭ったのである。

 美佳から聞いたのは、バレンタインというのは普段の感謝のために、周囲の人々にチョコレートを贈る風習ということだった。また、友人や普段会う人にも贈るものだと言われ、せっかくだから地球の風習を満喫しようと頑張ってしまったのである。


 結果、チョコレートをクラスメイトの分作るという暴挙を行い――。

 男子の盛り上がりはすさまじかった。

 あとで玲奈や柚香に説明されて、慌てて誤解を解いたのである。

 美佳に従ってハート形のチョコレートばかりを作って配ったので、勘違いした男子が多数だったらしい。

 何とか『文化の差』で納得してもらったが。


 ちなみに帰ってきてから美佳にお腹を抱えて大爆笑された。

 よりによって学校での様子を一部始終見ていたらしい。

 一瞬本気で精霊王の力を全開にしようかと思ったが、無駄だと諦めた。

 それでどうにかなる相手ではない。


 二月の末に最後の後期試験があり、それが返却され終わると、クラスの雰囲気がまた変わってくる。

 どういうことかと思ったが、どうやらクラス替えとやらがあるらしい。

 この国の学校では、定期的にクラスを組み替えるものだという。


「人数が少なくて一クラスしかないなら別ですけどね。この学校は八クラスもありますし」


 エルフィナと由希子、柚香は教室で話していた。玲奈は生徒会補佐委員の仕事あるのか、今はいない。

 今日はあとは帰るだけなので、帰りのホームルーム待ちだ。

 由希子の言葉を受けて、エルフィナはふと頭の中で人数を数えてみる。

 一クラス三十五人で八クラス。男女の数はある程度合わせるらしい。このクラスの女子の数は十八人。八クラスに分かれるなら、四人が同じクラスになる確率はほぼない。


「さすがに同じクラスは難しそうですね」

「そうでもないみたいです。この学校は仲がいいとかそのあたりはある程度考慮してくれるって噂もあるそうですから」

「そうなんですか?」

「あ、それ私も聞いた。良くも悪くも、私達みたいな階層の人間も多いからね。トラブル避けるために、結構クラス分けには神経使ってるらしいよ。私と玲奈ちゃんが同じクラスになったのなんて、多分そのあたりもあるし」

「確かに……お二人は一年生でも特殊ですしね」


 エルフィナがどういう意味かと思って由希子を見ると、少し首を傾げてから意味を察したらしい。


「西恩寺家はもちろん、烏丸家も旧貴族の中でもかなり家格が高いんです。他にも旧貴族の家柄の方はいらっしゃるみたいですが、大半は分家であったり本家でも当主筋ではないのですが、お二人はその当主筋。女性では今年はこの二人だけと」

「由希ちゃん詳しいねぇ」

「ちょっと聞いて回ればすぐでしたからね」


 実は由希子の交友関係はこの四人の中では段違いに広い。

 普段四人で仲良くやってはいるが、所属する陸上部はもちろん、玲奈経由で生徒会補佐委員や現生徒会の役員とも知り合いらしい。

 成績がずば抜けて良く、生活態度も模範生とされるほどで、教員の覚えも良く、色々な人に頼られることも多くて、一年生で彼女のことを全く知らない人はほとんどいないほどだ。


 もっともこれに関しては、一緒にいる玲奈、柚香、そしてエルフィナも、特にその容姿では目立つ存在ではあるのだが。


「その由希ちゃんでも、玲奈の不調の理由は分からない、か」

「え?」

「玲奈ちゃん、期末も成績落としたみたい」


 ちなみに由希子はついに学年一位の座に上り詰めた。エルフィナは今回は六十七位。微妙に上がった感じだ。


「玲奈さんの不調、私が全く耳にしないとなるとその原因は学校外だとは思いますが。それこそ、柚香さんの方が分かりそうな」

「うーん。多分そうなんだろうとは思うんだけど、烏丸家うち西恩寺家れなちゃんちは普段そこまで交流ないんだよね」

「そうなんですか? クリスマスの時、お互い揃ってましたよね」


 エルフィナの言葉に、柚香は複雑そうに笑う。


「あの時はね。どちらかというと、父さんが私の保護者でついてきた感じだったの。別に仲悪いわけじゃないんだけどね。ただ、そんなに親しいわけでもないから。こういうとなんだけど、家の格でいったら、あっちの方がずっと上だしね」


 柚香によると、今も勢力を保っている元貴族の家柄はいくつかあるが、その中でも西恩寺家は特に大きな家らしい。

 他に同格の家としては、斎宮院家さいぐういんけ壱条家いちじょうけ司条家しじょうけ玖条家くじょうけなどがいるという。


「あれ。玖条ってどこかで聞いたような……」

「ああ、有名な『白雪姫』が玖条家の令嬢だったはずだよ。ほら、私達が入る一年前に卒業したっていう」

「ああ、その方……あ」


 初詣の際に美佳と話している人物を思い出した。

 そういえば、彼女が玖条という姓で、『聖華高校の白雪姫』と呼ばれていた人物だったはずだ。なるほど、あの容姿なら納得だ。


「それはともかく玲奈ちゃんだねぇ。うーん。兄に訊いてもダメだろうしなぁ。征人さんに訊ければいいんだけど、最近忙しくて連絡取ってないだよね」


 柚香と玲奈は小学校の頃から仲が良かったので、その関係で征人ともそれなりに親しいらしい。家としてはそれほど付き合いがなくても、子供たちにとっては関係なかったというわけだ。


「柚香さんが忙しいのですか?」

「ううん。征人さんがね。春から留学するらしくて、その準備で」

「な、なるほど……凄いですね」

「由希ちゃんもそのうちしてそうだけど」

「そこは……そのうち考えるとしても」


 そんなことを話していると、先生が入ってきた。

 それとほぼ同時に玲奈も戻ってきたが、三人の方を少しだけ見てから、すぐ自席に座ってしまう。

 その様子は、やはりあまり元気がないように見える。


「以上で今日は終わりだが、最後に。最近この近辺でも通り魔とかが出てきてるから、各自気を付けるように、人気ひとけのない場所とかは行かないようにな」


 最後に教師はそう締めくくって解散となる。


「最後の注意って……?」

「ほら、ニュースでやってなかった? ナイフ持った通り魔が出たって」

「ああ……」


 そういえば、昨日テレビでやっていたのを見た気がする。

 なまじ荒事への対処能力が高いため、美佳はもちろんエルフィナもあまりそのあたりを警戒するという感覚がなく、気にしていなかった。

 少なくとも現状、エルフィナを個人でどうにかできる人間は地球にはほぼいない。

 格闘技などを修めている者と近接戦で戦うならともかく、精霊を従えるエルフィナに敵う存在はまずいないだろう。


 最大の脅威は銃器だが、日本に限ればその可能性すらほとんどないのだ。


「確かに物騒になりましたね」

「父によると、昔も一時的にそういう人が多くなった時期があって、それで規制がより厳しくなったと言ってましたね」

「由希ちゃんのお父さん世代ってことは、二十年とか三十年前ってことかぁ。っと、玲奈ちゃん、待って」


 気付くと、玲奈が早々に荷物をまとめて教室を出て行こうとしていた。

 普段、四人は少なくとも校門までは――部活がない時は――一緒に帰る。そして今日は明日の卒業式のため、全員早々に帰宅することになっているのだ。


「あ、ごめんなさい。ちょっと用事がありまして」

「玲奈さん」


 エルフィナは素早く回り込んで、玲奈と教室の出口の間に立つ。


「何か悩み事があるなら、話してくださいね。私では力になれないかもですが、友人として出来るだけのことはしたいですから」

「エルフィナさんに同意です、玲奈さん」

「玲奈ちゃん」


 三人に詰め寄られ、玲奈は少しだけ振り返ると、何かを言いたげに口を開き――。


「ごめんなさい。大丈夫です。ありがとうございます」


 そういうと、駆けだして教室を出て行ってしまった。

 さすがにそれを無理に引き留める気にはならず、三人は玲奈を見送る。


「どうしたのでしょうか、玲奈さん」

「他の生徒会補佐委員の方の話でも、最近気がそぞろという話を聞いてましたが……。やはり何かあると思うのですが……」

「あるとしたらこっち側だよねぇ。うーん。一応父さんに訊いては見るけど……」


 あまり期待は出来ない、と柚香は小さく漏らす。


(そういえば、美佳もそっち側に詳しいような事言ってましたね……)


 正直、エルフィナにとってはまさしく無関係の世界の話だ。

 そしてあの手の世界では色々なしがらみがあるのも理解している。森妖精エルフとはいえ、三カ月余り王族やその妃候補と過ごしていたのだ。そういう話もステファニーやアイラから少なからず聞いていた。

 それとそう変わらないのであれば、部外者が口出しすることではないだろう。


 ただそれでも、どこか、ほんの少し何かが引っかかる。

 先ほどの教員の注意と合わせて、何かどこか不安を感じるのだ。

 その不安を拭いきれなかったエルフィナは、帰ってから美佳に相談するのを決意するのだった。


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