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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第二章 冒険者コウ

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第29話 パリウスへの帰路

「本当にありがとう。アクレット殿にも、よろしく伝えてくれ」

「これも仕事だ。だが、期待通りの仕事が出来たのなら、幸いだ」


 事件解決の二日後、コウはクロックスの城館の門にいた。

 事件が解決した以上、いつまでも居座るつもりもない。

 バルクハルトはあと数日くらいと言うが、一応公式のギルドの仕事で来ている以上、報告の義務もある。いつまでもパリウスに戻らないわけにもいかない。

 報告自体はクロックスの冒険者ギルドでもいいのだが、今回は戻る目的もあった。


「君のおかげで、クロックスでこれ以上の犠牲者が出ることはなくなった。個別に謝礼を贈りたいくらいなのだが」

「ギルドの規定がある。それにまあ、珍しい体験も出来たしな」

「いつでも、またクロックスに来てくれ。歓迎する。しかし、帰りは徒歩でいいのか? 時間もかかると思うが……」

「ああ。のんびり帰りたいし、来るときは移動のし通しだったからな。せっかくクロックスに来たのだから、ゆっくり観光がてら戻るよ」


 実のところ、馬車の乗り心地の悪さに閉口していた、というのもある。

 サスペンションなどの仕組みもなく、そして道も日本の道路のようになっているわけではないので相当に揺れるわけで、正直歩いた方がマシだった。

 実はトレットからパリウスまでの道中も、結局コウはほとんど馬に乗るか歩いていた。

 この世界の人間は――トレットからパリウスまでの道中のラクティなども含め――あの乗り心地に耐えられるのだから、ある意味すごいと思う。


 エルフィナは、結局コウと同行することになった。

 刷り込み的にコウになついてしまったのと、彼女がパリウスに行きたいと希望したためである。

 目的は、アクレットへの謝罪。


 昨日までにエルフィナは、今回殺された犠牲者のうち、アクレットの息子以外の全員の遺族に謝罪に赴いている。

 無論、その前に事情は説明し、彼女自身に咎がないことは説明している。

 精霊のことはさすがに伏せられているが、彼女が持つ法術具を奪われたため、と説明していた。

 彼女にとっての落ち度は、キュペルに捕えられてしまったことだろうが、それを責めるのは酷というものだ。

 ただそれでも、小さな子を失った両親からは、罵詈雑言を――コウがなだめようとするのをエルフィナが止めた――浴びせられた。

 無論、彼らとて森妖精エルフの少女に非がないことは重々承知で、それでも責めずにはいられなかったのだろう。


 なお、実際の実行犯であるコズベルト、および指揮をしたホランドは、どちらも獄につながれており、近日中に処刑される。

 公式発表は後日になるが、エルフィナの存在は伏せて、キュペルが暗躍していたことにする予定だ。


 そしてエルフィナは最後の一人の親、アクレットに謝罪するために、パリウスに向かうというのだ。

 もっとも、すでに法術ギルドが持つ遠隔会話術具で、アクレットへの謝罪は行っている。

 彼からは、これ以上の謝罪は無用、責めるべきは非道な行いをしたキュペルであると明言されているが、エルフィナとしては、直接言うべきだと考えているようだ。

 ならば、とアクレットは精霊行使について教えてほしいので、そのつもりでパリウスにと招待された形になっている。


 最後にバルクハルトと握手すると、コウと、同行者となったエルフィナは、クロックスの城館を後にした。

 徒歩でパリウスに戻るなら、およそ二十日ほどの行程だ。


 街に出ると、エルフィナがおっかなびっくり、という感じで腕を掴んできつつも、周囲を物珍しそうにきょろきょろしていた。

 あの容姿は非常に目立つので一応フードを被せてはいるが、それでも気付く人は気付くようで、何人かが振り返っている。


「人の街って……本当にすごい」


 明らかに田舎から出てきたと分かるような所作こそないが、それでもエルフィナは街並みに感心し続けていた。

 聞いた限りだと、森妖精エルフの里というのは巨木に寄り添うようにあるものらしく、このような石造りの建物自体、珍しいのだろう。

 とはいえのんびり街見物をすることなく、二人はクロックスの門に向かう。


「悪いがこの街は今日までだ。まあ、パリウスもここほどではないが、結構にぎやかなところだと思うぞ」

「コウ様は、パリウスに住んでいるのですか?」

「住んでいる……というかどうかは分からないが、現状拠点にしてるのは確かだ。ちょっと色々あって、とりあえず今はそこにいる。まあ、詳しくは話せないが……」

「何か事情があるのは……まあ分かります」


 エルフィナの言い回しに、コウは首を傾げた。


第一基幹文字(プライマリルーン)を複数使いこなせる人が普通にいたら、むしろ怖いです」

「……[火]は使って見せたが、他を見せたか?」

「分かりますよ。それだけ精霊に愛されてる人なら」


 さらりととんでもないことを言う。


「どういうことだ?」

「……コウ様の周り、精霊や、精霊になろうとするマナが渦巻いて見えます。精霊を使役できる条件の一つにマナが視える事があるのですが、その視点だと、コウ様の周囲は、思わず振り返らずにはいられないほどの多種多様なマナが集まっているんです。第一基幹文字(プライマリルーン)の使い手はそういう傾向にあるって聞いたことがあるので、そうかなと思いまして」


 法術使いには悟られないだろうが、精霊使いには能力自体の傾向が駄々漏れらしい。あるいは、マナを視認するための法術――コウが作ったオリジナルなので他におそらく使い手はいないが――を使われたら、非常に目立つという事になる。

 あとで制御方法を調べておこう。


「ただそれでも……私たちの伝承ですら、七系統全て、なんていうのは初めて聞きますが……」


 彼女が優秀なのか、それだけ駄々漏れなのか判断に苦しむところだが、ここは前者であると思いたいところだ。


「あるいは、これは……そういう巡りあわせなのかもですね」


 街を出てしばらくして、エルフィナが呟いた。

 どういう意味かと問う前に、エルフィナはコウに向き直って、少し困ったように笑う。


「私も七系統を――つまり、全ての精霊を使役することが出来るんです」



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