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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第二章 冒険者コウ

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第20話 冒険者ギルド

「……人が悪いな、あんたは」


 半ば以上呆れたようなコウの言葉に、目の前に座っているパリウス冒険者ギルドのギルド長は、まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。


 コウは法術ギルドを辞して、その足でそのままパリウス冒険者ギルドに向かった。冒険者としての登録を行うためだ。

 受付で紹介状を見せると、すぐさまギルド長と面会を、と求められた。

 紹介状の対応は特殊だろうから、それ自体にはなんらおかしいとは思わなかったのだが……。

 そこで対面した冒険者ギルドのギルド長は、つい先ほど別れた、法術ギルドのギルド長、アクレットだったのだ。


「気付かなかったかい? 法術ギルドと冒険者ギルドは、同じ区画にあっただろう? 実は、建物の上部に通用口があってね。まあ、ほぼ私専用なわけだが」


 確かに建物の入口は違う通りに面しているが、建物自体は背中合わせで同じ区画に存在した。

 だが、だからといって、まさかギルド長が同じ人物だとは、想像するはずがない。もっともこれはコウが知らないだけで、パリウスではほぼ常識レベルの話だったのだが。


「まあ、これが君をあっさり手放した理由でもある。法術ギルドとしては君には研究に協力してもらいたいが、一方で君の優れた能力は、冒険者として活かしてこそ、と思うのでね」

「……まあ、そのおかげで俺は法術ギルドで無理な引止めにあわずにすんだのなら、助かったと言えるのか」


 その返事に満足したのか、アクレットはコウの前に一枚の書類を示す。


「冒険者ギルドに所属を申し込む書類だ。まずは、一枚目に記載されている規約に目を通してくれ」


 手に取ると、慎重に読み進める。

 さすがにまだ、一瞥いちべつして読み取れるほどには文字に慣れてはいない。


「概ね知っていることだが……一応いくつか確認してもいいか?」

「もちろん」


 現代の法律的な知識――受験勉強の中で覚えた――などから疑問に思うところを確認していく。

 アレクットはその質問に感心する様子も見せつつ、過去の判例なども踏まえて答えてくれた。


「……あとは多分大丈夫だ。で、記名……じゃないな、なんだこれは?」


 規約の次の紙は、『冒険者ギルド所属申請書』とあるが、名前等を記載する場所がない。

 ただ、紙の真ん中に丸が一つ描かれているだけだったが……。


「そうか。『証の紋章』か」


 その大きさは、ちょうど『証の紋章』と同じだった。


「うむ。まあ、冒険者ギルドに所属して初めて『証の紋章』を持つ者も多いので、その場合はこちらで処理後に紋章を渡すのだが、君の場合はすでに所有しているからな。ここに『証の紋章』を、名前の記載されてる面を下にして置いてくれ」


 コウは懐から紋章を取り出し、言われたとおりに紙の上に置くと、紙と紋章の間に僅かに光が漏れた。

 紋章を取り上げてみると、そこにはコウの名前が刻まれた、紋章と同じ図案が浮かび上がっている。

 紋章の表面を焼き付けたようにも思えたが、それなら鏡文字のように反転しているはずが、そうはなってない。何とも不思議なな事だが気にしても仕方ないだろう。


「さて、これで君は冒険者ギルド所属となった。あとは技量ランクの設定だが……一応、公的な試験というかを受けてもらう必要がある。時間はあるかい?」


 もちろんそのつもりで来ていたので、コウは頷いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 試験の結果、コウのランク情報が新たに『証の紋章』に刻まれた。

 ランクは色で表現され、下から灰、白、黄、緑、青、紫、赤、黒、銅、銀、金、虹となる。

 『証の紋章』の余白に正方形が刻まれ、対角線で四つに分割、それぞれの領域にランクを示す色が浮き出ている。

 渡されたコウの紋章には――

  近接戦闘:紫

  遠距離戦闘:赤

  法術:黒

  探索:白

 がそれぞれ浮き出ていた。

 一般的に緑以上であれば、ある程度その分野に関しては十分仕事をこなせるとみなされる。冒険者の場合はどれか一つは緑以上が必要とされ、ない場合は冒険者になれない。

 紫以上なら一流らしい。

 最上位の虹はどの分野でも、この国どころか大陸にも現在はいないという。稀に登場する、というレベルだそうだ。いわば、伝説的な技量の持ち主であり、一般的には金が最高ランクと思われているし、銅以上のランクは滅多にいないらしい。

 このうち、『灰』に関してはそちらにまったく適性がない、という評価だ。ごく稀に法術にほとんど適性がない場合などにつくらしい。

 探索はどんな冒険者でも、よほどの経歴がない限りは白からスタートとなる。


 一方で近接戦闘は、驚くほど高い評価を受けた。

 そして遠距離と法術は、試験すらなかった。

 アクレットがさっくりと設定したらしい。

 本人曰く『法術は銀でもいいかと思ったのだけど』と冗談めかして言っていたが、コウとしても悪目立ちしたくはないので、このくらいがちょうど良いと思っている。

 実はこれでも十分異様なのだがコウはまだ気づいていなかった。


「ところで気になったんだが、君のその剣、それはどこで手に入れたものだ?」


 なんと返そうか、コウは返答に窮した。

 故郷のものだというのは嘘ではないが、そうすれば今度は故郷がどこだということになる。

 すでに壊滅したフウキの村というのもおそらく無理がある。コウは、この刀がこの世界でも特異な存在であることは十分に分かっていた。

 少なくとも、これまで見たものや店にある武器類と比較しても、この刀の製造のための鍛造技術は桁違いだ。

 加えてこの刀は、あの竜と戦った以後、何かが宿っているかのような力がある。


「ふむ。まあ、その剣が盗んだものとは思えない。君はその剣の特性を知り、使いこなしているからね。ただ、その鍛造技術は驚異的、というレベルだ。可能なら、その技術についてだけでも知りたいのだが……」

「……分かった。ただし、基本的に他言無用を条件としたい。先に言ってしまうと、この剣の鍛造技術は、俺自身詳しくは知らないし、その製造方法を知るのは少なくとも現状は不可能だ」


 コウの物言いに不思議な表情になりつつ、アクレットは他言しないことを約した。

 それをうけて、コウはこの刀の入手――というより、自らの身に起きたことを語り始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……納得した。同時に、君が色々と他と違うことも理解できた」

「これを話したのは、貴方で三人目だ」

「最初の一人はラクティ嬢か。もう一人は?」

「彼女の侍女だ。一緒に聞いてもらった」

「話してくれたということは、信頼してもらえたと思っていいかな。いや、この場合は立場に対する信頼かな?」


 コウは無言で頷く。

 協力関係にあるとはいえ、貴族、神殿、冒険者ギルドは、互いに互いを牽制し合う関係でもあるのだ。

 一方、法術ギルドは、基本的に国に所属する機関だ。

 パリウスという大都市の、この二つのギルド長を任されているということは、おそらく普通はまずありえないことだろう。

 そこからも、このアクレットという男の影響力は見て取れる。

 おそらく神殿や貴族――この場合はラクティらにも、かなりの影響力があると見ていい。

 そういう人物であれば、こちらの事情も斟酌しんしゃくし、上手く計らってくれるだろう、という期待をしてみたのだ。


「ふむ……君は若いのにしたたかだね。分かった。悪いようにはしないことを約束しよう」


 そしてもう一つ、コウが彼に期待したことがある。それは――。


「それから、おそらくこれも期待されているだろうから先に言うと、君のように異世界から来た人間というのは、申し訳ないが私は聞いたことがない」


 コウが聞く前に、アクレットが先に、その期待に応えられないことを告げてきた。

 察しの良さに驚くが、その答えはコウの望まぬものだった。


「……そう、か」


 彼ほどの立場であればあるいは、と期待してみたのだが、その望みは断たれてしまった。


「ただ……異世界に消えた、という伝説なら聞いたことがある。また、君が相対したというヴェルヴスという竜については知らないが、竜がそもそも、異世界からの来訪者という説もあるんだ」

「竜が?」

「ああ。竜はこの世界のどんな生命体とも異なる。強靭な肉体、いかなる武器でも法術でも傷つくことのないからだ 。全てを焼き尽くすという竜の吐息。自然災害すら自在に操るとされる強大な力。この世界にも、竜に近い姿を持つ竜属と呼ばれる魔獣はいるが、伝承によれば竜の能力は桁外れだ」


 果たして、そんな化け物と戦って、自分が生き延びる可能性があるのか。

 そう考えると、あれは竜といっても、この世界にいるという竜めいた何かではないかと思える。

 だがコウのその仮説に、アクレットは否定的だった。


「可能性はゼロではないが……言葉を交わした上に人型をとったとなれば、それは伝説にある竜の特徴に合致する。竜属とされる魔獣幻獣で、そのような報告は聞いたことがない」


 しばらく二人は腕を組んで首を傾げていたが、ほぼ同時にその検討を諦めた。

 すでにヴェルヴスと名乗った竜はいないのだから、結論など出ようがない。


「ただ、竜を傷つけたというその武器は、法術とは違う力を明らかに宿しているだろう。元々の剣としての性能も際立っているが、それ以上の何かを感じる」

「……それはなんとなく、感じていた」


 いくら日本刀が優れていて、現代の日本の技術を用いて鍛造されたものであるとしても、頑丈すぎる。

 それに、幾度も人や獣を斬ったにも関わらず、刃こぼれもせず、血糊で切れ味が落ちる様子もない。この世界に来てから三カ月。一度も研ぎなおしていないにも関わらず、だ。

 最初にヴェルヴスと戦った時にどうだったかは記憶がないが、それ以後は明らかに普通ではない何かになっている気がする。


「まあ正直、それほどの武器を鍛造できる君の世界にこそ私は興味があるが……」

「悪いがそれは話せない。俺も技術について詳しいわけではないし、それにどう考えても不要な知識だと思う」

「まあそうだな。実際その剣一つとってもおそらく私たちの世界と君の世界は全く違うとわかる。教えてもらっても意味がない可能性の方が高いだろう」


 アクレットは少しだけ肩をすくめるが、それ以上聞くつもりはないらしい。


「ともあれ、これで君の冒険者ギルドへの登録は完了だ。早速依頼を……といいたいが、今日はもう遅いか。まあ、定番だが言わせてもらおう。

 ようこそ。冒険者ギルドへ。貴殿の活躍に、最大限の支援を約束させていただこう」


 アクレットは、そういうとやや大仰に一礼する。

 こうして、コウの冒険者としての生活が始まりを告げたのである。



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