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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第二章 冒険者コウ

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第17話 法術ギルド

 ラクティが正式に領主に就任した翌日、コウはパリウスの街の大通りを歩いていた。

 すでに何回か来てはいるので、迷うようなことはない。

 これまでは街見物が主目的だったが、今回は目的地があった。


 街中心の大通りは、多くの露店が並んでいる。

 どれも、新領主の就任を祝う祭りの準備に忙しく動き回っていた。


 領主代行であるアウグストの凶行は公表はされなかった。

 ただ、領主代行時代の不正な蓄財が明らかになり、蟄居(ちっきょ)となった、とだけ発表されている。

 それも事実ではあるらしい。


 アウグストは、捕縛されて以後、まるで三十年は老け込んだようになってしまっていた。まだ四十歳台だというのに、すでに八十近い老人のようになっているのだ。

 現在は、領主館の地下に閉じ込めてある。

 領主代行時代の数々の不正がことごとく露見し、次々に証拠も見つかっている。

 あるいは、これらがなければ素直に領主の座を譲り渡したのかもしれない。

 領主暗殺の咎なしでも十分追放刑に値する、とはメリナの言だった。


 なお、この不正には彼の家族全員が何か知らの形でかかわっていることが分かったため、家族全員が今は投獄されている。

 というより、家族もアウグストの凶行を知っていたようで、この国の法に照らし合わせると、おそらく極刑に処される見込みとのこと。

 一番年若いのは十四歳とラクティと同年で、コウとしても心が痛まないわけではないが、その年齢にして数々の不正行為を行っていた証拠がいくつか見つかり、現在もなお余罪が出てくる有様なので、情状酌量の余地はない、と思うことにしている。

 唯一、生まれたばかりの子についてだけは扱いに苦慮しているようだ。

 コウが関わった結果のことであるとはいえ、この先はラクティや法によって裁かれるべきであり、コウが口を出すことではないのだ。


 パリウスの街の人々も、アウグストをあまり好いていなかったのか、あるいは単に祭り好きなのか。

 いずれにせよ、ラクティの領主就任は歓迎されているらしい。


 そんな、お祭りムードの大通りに面した一際大きな建物の前で、コウは立ち止まった。


「ここが……法術ギルドか」


 法術ギルドの正面入り口の扉の前に立つと、一度深呼吸をする。

 元の世界(地球)にはなかった、不可思議な力。

 万事において冷めた感のあるコウだが、さすがにこれには少なからず心が躍る。


「ま、適性まったくなし、という可能性も高いんだけどな……」


 期待半分、諦め半分というのが正直な心境だ。

 もう一度深呼吸をすると、意を決して扉を押し開く。


 法術ギルドに入って最初に感じたのは、どちらかというと博物館めいた雰囲気だった。

 ざわついた酒場などとは違い、多少の人の声は聞こえるが、どこか静謐さを感じさせる雰囲気がある。


 建物の外観は古めかしい石造りだったが、内装は木をふんだんに使った温かみのあるものだ。

 ただ、採光は気にしてないのか全体的に暗い気がするが、そこは壁や天井に、火とは異なる照明があって不自由になるほどの暗さではなかった。


 入ってすぐは天井の高いホールになっていて、右手にカウンターがある。

 あれが、法印具を販売するカウンターだろう。

 いくつか、杖や手袋などが壁際においてある。

 カウンターには女性が二人いるが、服装はメリナが着ていた使用人の服が近い。

 おそらく彼女らも法術の使い手なのだろうが。


 その逆側にもカウンターがあるが、こちらは特にそのようなものはない。

 そこにいるのは一人の女性だが、こちらは『いかにも魔術師』という風体だった。

 こちらが受付だろう。

 コウは迷うことなく、そちらに向かった。


「法術ギルドへようこそ。こちらは受付になりますが、何かご用でしょうか?」


 年齢的には、コウと同じか、少し下くらいか。

 事務的、と評するには少しだけ柔らかい印象の声音である。

 コウはまず、『証の紋章』を示した。


「法印を欲しいのだけど、そもそも自分が何に適性があるか、知らないので調べて欲しいんだ」

「……かしこまりました。では、ご案内します」


 女性はカウンターを出て、先導する。

 返事まで少しの間があったのは、若干驚いたからだろう。


 この世界では法術の適性は生活の便利さにも影響するので、普通、かなり早く調べるらしい。

 コウの年齢で適性が分からない、というのはかなり珍しいことなのだろう。

 まして、領主の名前の入った『証の紋章』を持つとなれば、普通はそれなりの身分であるはずだからだ。


 女性に案内されて、一階の奥の部屋に通される。

 一辺がメートル法ならば十メートルないくらい、天井は三メートルはありそうな広い部屋。天井の高い学校の教室くらいか。

 その中心に腰の高さほどの台座があり、その上にサッカーボールほどの青いガラスの様な石が置いてある。

 そしてその周囲を囲む様に、縦一メートルくらいの、ちょうどテレビの様な縦横比の無地の石版が台に乗せられて七枚、等間隔に配置されていた。一瞬薄型テレビが並んでいるようにも見える。

 それぞれ僅かに違う材質なのか微妙に色が異なるが、いずれも表面は磨きこまれていて、まるで鏡のようですらある。


「ご存知かもしれませんが、『魂の鏡』と呼ばれる法術具になります。これを使うにあたり、事前に説明をすることになっているのですが、よろしいでしょうか」


 もちろん、コウに否やはない。

 基本的なことは領主館の書庫で知ることは出来たが、確認の意味でも再度聞いておきたい。


「では……」


 法術クリフは、神が古において世界を構築するにあたり使用したとされる、力ある文字(ルーン)と呼ばれる文字を用いて使う術である。

 これらの文字は、それだけで特別な力を持っており、魔力でその文字の形を象ると、その文字に応じた力を発揮する。


 ただ、文字ルーンは複雑で、かつ正確に描かなければ力を発揮しない。

 そして、魔力を文字(ルーン)の形にとどめることは、神々でなければ不可能とされる。

 ゆえに予め文字(ルーン)を描き、それらを複数まとめた法印ルナールを用意する。ちなみに法印ルナールは正式には『魔法紋様印章ルーンナークリットブルム』という。

 そしてこの法印ルナールの中にある文字(ルーン)に魔力を這わせるだけで、魔力が文字ルーンの形を象ったことになるのだ。

 その特性上、法印ルナールは普通、魔力を通しやすい素材に刻む。


 この法印に組み合わせる文字にはパターンがある。

 一度に刻める文字は、その素材にもよるが、物理的に限界があるため、『効率の良い刻み方』というのがある。

 基本的には同系統のものは組み合わせやすいとされており、たいていは系統別に法印は整備される。


 ただ、誰でも使えるわけではなく、『本人に適性のある文字ルーン』というものが存在する。

 文字(ルーン)は数多くあるが、その中でも、特に強力とされるのが第一基幹文字(プライマリルーン)と呼ばれるもので、地、水、火、風、光、闇、理の七つがそれである。

 これらに適性がある場合、かなり高い確率でそれに連なる文字は扱えるという。

 上位の文字が使えれば、従属する文字ルーン、例えば[地]の場合は[土]や[樹木]といった文字ルーンを用いる法術も使えることが多い、となるらしい。

 ゆえに、この第一基幹文字(プライマリルーン)の使い手は、どれか一つであっても非常に優れた使い手になるが、使い手は非常に少なく、数百万人から数千万人に一人というレベルの希少さらしい。文字通り一国に一人いるかいないかである。

 これに続く第二基幹文字(セカンダリルーン)の使い手であっても、一流の使い手になるという。

 ちなみに、メリナが適性があるという[土]はこの第二基幹文字(セカンダリルーン )にあたる。


 コウが一番気になったのは、プライマリ、セカンダリという言葉だ。それらは地球の言語のそれとほぼ同じ響きで、意味も確か同じだ。

 やはり――どこかでこの世界と地球には接点があるのだろう。


「本来であれば、過去の記録などから『魂の鏡』を使う方の審査を行うのですが……パリウス新領主のご紹介ですので、そこは省略いたします」


 ここで、『証の紋章』が効果を発揮した。

 記録などないが、そもそも調べられると、都合が悪い気がするので、これは非常に助かった。


「では、鏡の中央にある球体に触れて、魔力を――まあ、気力を流し込むようなイメージで。周囲の七枚の『鏡』は、それぞれの第一基幹文字(プライマリルーン)の属性に対応しており、それぞれの系統で使える文字ルーンが浮かび上がる仕組みとなっております」


 魔力を流せ、と言われても何のことやらだが、気力といわれるとなんとなくわかる。おそらくそういう経験のない人間も今までもいたのだろう。

 イメージの問題なので、やるだけやってみよう、と台座の前に立ち、両手を球体に置いた。

 一度、深呼吸する。


 もともと魔法のない世界から来たのだから、あらゆる適性が皆無という可能性もある、というよりは、その可能性の方が高い。

 完全にまったくないというのは珍しいらしいが、ほとんど使えないラクティのような例だってある。


 目を閉じ、意識を自分の内側に向ける。

 体の中の力――気力に似たものを、手から球体へ放射するイメージ。

 やがて、自身でも知覚出来るほどに明確な流れが、体の中から、腕、掌を伝って、流れていくのが分かった。


(魔力が皆無ってことはないらしいな――)


 この世界に来てから得たのか、あるいは元々あったのかは分からないが――。

 と、そこまで思考したところで、すぐ近くにいた受付の女性が、酷く狼狽した声をあげていることに気が付いた。


「どう、しました?」


 閉じていた目を開くと――。

 そこには、光り輝く七枚の石版があった。


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