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転移直後に竜殺し ―― 突然竜に襲われ始まる異世界。持ち物は一振りの日本刀  作者: 和泉将樹
第一章 突然の異世界

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第16話 公爵位継承

 そこからの展開は早かった。

 ラクティはアウグスト捕縛の翌々日には領主継承の儀を開始し、その間、コウは領主の館で世話になった。

 もっとも、あまりにも巨大なその屋敷に、コウはとても落ち着かなかったが。


挿絵(By みてみん)


 そして七日後、無事領主継承の儀式を終えたラクティは、神託を受け、正式にパリウスの領主となった。

 ラクティ・ネイハ・ディ・パリウスの誕生である。

 それは同時に、コウのラクティの護衛としての役割の終わりを意味する。


 もっとも、実質は神殿に入った時点で、護衛の役割は終わっているに等しかった。

 無論、すぐ立ち去るほどに薄情ではない。それに、不足しているこの世界の情報を得るのに、領主という上流階級の存在は非常にありがたかったのだ。


 コウは、メリナやメリナが紹介してくれた教師らから、言葉や文字を始め、この世界の情報の吸収に努めた。

 生活や文化、風習などについても貪欲に知識を求め、その熱心さは教師たちをして感心させるほどだった。


 結果、儀式が終わる頃には、コウは《意思接続(ウィルリンク)》なしに、会話はもちろん、読み書きすら不自由ないほどになっていた。

 もっとも、さすがにこの習得速度はコウも経験上、ありえない、と思っている。

 あるいは、意識せずに《意思接続(ウィルリンク)》の能力を行使しているのかもしれない。


「コウ様、なんかびっくりするくらい、普通に話せるようになってますね」


 儀式が終わって再会したラクティの、第一声がそれだった。

 さすがに失礼だと思ったのか、慌てて謝ろうとするが。


「いや、俺もそう思う」


 外国語が得意だったということはないので、やはり《意思接続(ウィルリンク)》のおかげなのかもしれない。

 フウキの村にいたときは、使い方も上手く分からなかったことや、別に日常で困らなかったので、むしろ意識して使ってこなかった。

 それを解禁したとたん、大幅に言語の習熟速度が上がったのである。

 どういう理屈なのか分からないが、この際便利だから気にしないことにする。


「メリナからも聞きました。すごく色々、勉強なさってるって」


 実際、知らないことばかりなので、学ぶことが非常に多く面白かった。

 辺境の田舎者どころか、異世界から来たコウにとって、この世界のあらゆる知識が、すべて真新しいのである。

 フウキの村で二ヶ月近く過ごしているが、あの村は日本の農村とそう変わらず――酷な言い方をすれば、知識という点においてはこの世界でもっとも恵まれていない地域でもあった。


 この世界における知識はフウキの村の様な例外を除けば、地球の中世などと比べるとはるかに広く開示されているらしい。

 文字や基礎的な計算程度は毎週神殿が子供に教える制度があるし、本もそれほど高価ではない。どうやら印刷術が存在するようだ。


 その一方で、統治体制は地域によって様々なようだが、この国――アルガンド王国――では貴族階級の勢力が非常に強い。

 土地の所有権はほぼ貴族にのみあり、人々は貴族から土地を貸し与えられている、という体だ。

 例外は神殿。

 アラス神と呼ばれる、人間の守護者とされる神を主神とする神殿組織は王国のみならずこの大陸――クレスティア大陸というらしい――全土に広がる勢力で、大陸最西部では国を形成しているらしい。神殿勢力は国とも一定距離を保つ存在のようだ。

 そのほか、身分や階級、それに農業や工業の在り様や流通など、地球と似たところもあればまるで違うところもあって、非常に面白いと思えた。


「それと、これはすごいと思ったが」


 コウは、手に持ったメダルに目を落とす。


 大きさは、ちょうど手の平より少し小さいくらい。

 色は銀色で、美しい光を放つ円形の金属板。

 表面には、この世界の文字で、『コウ』と刻まれている。


 これは、この世界における身分証だった。

 正式には『証の紋章』というらしい。

 特殊な加工を施された銀色に輝く金属製のメダルだ。


 このメダルは、特殊な法術によって名を刻まれたもので、今は銀色の美しい輝きを放っているが、ひとたび本人の手から離れると、その輝きは失われてしまう。

 よって、これを持つ者の名を、確実に保証してくれるものになる。

 これを発行できるのは、国、神殿と、あと一つ。

 これを持つこと自体が、信用の置ける者であるという証明でもあるらしい。


 そして、メダルを発行できる最後の一つの組織が、『冒険者ギルド』だった。


 基本的に国からも独立した組織で運営され、色々な仕事の斡旋を行う組織である。

 誰でもなれるわけではなく、一定の審査や実力の評価を経て、はじめてなれる『職業』の一つらしい。

 その際に、メダルを渡される。


 また、メダルには情報を追加することが出来る。

 例えばコウの場合は、『ラクティ・ネイハ・ディ・パリウスがこの者の身分を保証する』と刻まれている。

 これらは特殊な装置を使って書き換え可能な情報らしい(名前は書き換えは不可能)

 この、書き換えを行う装置も特殊なものらしく、ゆえに、各組織は身分を示すのにも使う。


 神殿の場合は所属を。

 国の場合は身分を。

 そして、冒険者の場合はその者の技量ランクを表す。


 とかく便利な代物だが、なくすと厄介でもある。

 もっとも、他人のを持ってもすぐに発覚してしまうため、奪われるというケースは滅多にない。

 偽造はあるらしいが。


「これのおかげで、少なくとも身分を示すのに不自由しないのは、本当に助かる」


 王国の北東部を支配するパリウス家の新領主の名は、各地でもトラブルを避けるのには十分使えるだろう。


「やはり、出て行かれるのですか?」


 コウの言葉の隠された意味を、ラクティは正確に見抜いていた。

 そして、ラクティの言葉の裏にある意味が分からないほど、コウも鈍くはない。

 恋愛感情とまではいかないまでも、明確な好意。

 彼女は、コウがここに残ってくれることを望んでいる。


「前に話したとおり、俺自身、何をすべきか分からないが……この世界に来た以上、帰る手段もどこかにあると思う。そしてそれを、俺は探すべきだと思ってる」


 この問答の前に、『帰りたいのか』と問われた時、実はコウは『分からない』と返答していた。

 実際、帰りたいのかどうかは分からない。

 ただ、少なくともその手段を探すべきだ、とは思っている。


「ラクティには感謝している。フウキのことも含めてな」


 新領主になったラクティに最初に頼んだのが、フウキの村の弔いだった。

 冬が明けるまでは難しいらしいが、ラクティは快く引き受けてくれた。


「元々……叔父の不徳の致すところでもありましたから」


 辺境を見捨てたのはアウグストの方針だったらしい。

 納税されている以上、どのように辺境だろうがそれはパリウスの領地だ。

 そこでの無法な行いは当然罰せられるべきだし、管理すべきだ。

 すでに手遅れとはいえ、ラクティはすぐに弔いの儀式のための神官の派遣を約束してくれた。


「ここにずっといて、帰る手段を探すのも一つの手だとは思う。ただ、出自が定かではない俺が、いつまでも領主の屋敷に住んでいては、不必要な噂が立たないとも限らない。ラクティ自身、今それは避けたいだろう?」


 領主に就任したとはいえ、まだ領地を掌握したとはいいがたい。

 領主代行だったアウグストと懇意にしてた者もまだ多いだろう。

 まだ十四歳の少女であるラクティと懇意にしてる、出自も明らかではない男がいたら、不要な噂を立てられる可能性も高い。


「まあ、まだ数日はここで厄介になる。それに、しばらくはパリウスを離れるつもりもない。離れる時は、ちゃんと挨拶に来るし、時々は来るようにもする。ラクティ自身、忙しいだろう?」


 その言葉に、ラクティは何か言いたげにはしていたが、結局言葉は続かなかった。

 実際、就任したての領主として、やるべきことはあまりにも多いのだ。


「……はい。でも、出て行くときはちゃんと言って下さい。あと、屋敷にいる間は、食事は一緒ですよ」


 もちろんその申し出を断る理由は、コウにはなかった。


これで一章終わりとなります。

次は解説資料で、読まなくても特に支障はありません。

イラストは さいとう みさき 様がAIを利用して描いてくださいました。


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