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仲間殺しの死神魔法使い ~何人死のうが俺はやりたいように殺(や)る~

作者: 原雷火

 冒険者酒場で次の冒険の仲間を探していると、一人の魔法使い風と意気投合した。


「なあ兄ちゃん、こんな奴の噂を知ってるか?」


 三十そこいらのオッサンが無精ヒゲに酒の泡をつけて、真面目な顔をした。

 俺は暇を持て余していたので、その話を適当に相づちでも打ちながら聞くことにした。



 この世界では魔法はイメージから生成される。

 だから、どんだけヤバイものを想像できるかで、魔法使いの価値が決まるといっていい。


 ただ、冒険者の中で魔法使いは正直、たいしたことがなかった。


 弓矢のように矢を放つとか、炎を出すとかできるんだが、結局、狩人の放つ矢の方が強いし、出せる炎も松明と同程度。


 ともかく、この世界の魔法使いときたら、貧困な想像力でしか魔法を繰り出せなかった。


 一般的に使われる魔法といえば、良くて火の矢とか氷の矢だ。なんと雷を矢にした者はいなかった。


 風の刃なんてものも魔法化できないのだ。


 だが、ある男は違った。


 彼は異世界からの転生者だった。しかも、そのことをずっと隠してきていたのだ。


 生前、RPGをプレイしまくっていたこともあり、ありとあらゆる魔法を視覚イメージとして認知している存在だった。


 転生した彼が転生時に神に望んだ力は、どんな魔法も消費魔法力1で使えるというものだった。


 0で使えるようにするのは神の力をもってしても不可能だったというが、彼には十分すぎたという。


 世界を滅ぼす隕石を落とすことも、死者を蘇生させることもできてしまうのだ。


 この世界の魔法使いがイメージできなかった映像が、頭の中に明確に具現化できていた。


 彼は赤子の頃から鍛錬し、魔法力の上限をひたすら増やすことに時間をついやした。


 この世界の両親はともに魔法使いで、彼はこの世界の魔法のルールや、見て学ぶことを覚えた。


 自分しか知らない魔法イメージは誰とも共有することなく、成長すると魔法学校に入学。この時も、魔法の練習などそっちのけで自分の魔法力上限を鍛え続けた。


 学校はギリギリで卒業。同期からは落ちこぼれだのと揶揄された。


 彼をバカにした連中は、冒険者になる時も卒業時の成績が高い順に、各地の有名なクランに加入が決まっていった。


 どこからも声がけされなかった彼は売れ残り、ソロの冒険者になった。



 ゴブリンの洞窟で、彼は初めて転生前の知識を使い、死を与える魔法――デスを使った。


 この世界の魔法使いは死を映像化できず、魔法におとしこめないのだ。


 彼が放ったデスは、相手にドクロの幻影が浮かび、そのまま魂を砕いてしまうというイメージのものだ。


 ゴブリンたちは次々に死の呪いを受けて、巣穴は共同墓地に変わった。


 誰にも見られることなく、青年となった彼はたった一人で、ゴブリンの洞窟を踏破し、彼らのボスであるゴブリンキングの王冠を持ち帰った。


 一年目のルーキーの快挙。彼はその地方の冒険者ギルドで有名になり、仲間として向かい入れたいというパーティーから声がかかった。


 彼は新たな仲間となって、オークの森の討伐任務についた。


 緑の迷宮を進む間、わざと「普通」の魔法しか使わない。当初の活躍を期待していたパーティーの面々は、いぶかしがった。


 が、それでも並みの魔法使い程度の実力を示し、彼はオークの森の最奥へとたどり着いた。


 ついにオークのボスを打ち倒したところで、彼は本性を現した。


 宝を独り占めするのが当初からの計画だったのだ。


 仲間たちにデスを使い、即死させるとオークの財宝を手にして、彼は一人だけ生き残ったフリをして町に戻った。


 仲間は弾よけでしかない。皆殺しにしなければ、自分の使ったデスの魔法イメージが漏洩してしまう。


 彼は徹底した。自分が楽して稼げれば異世界人が何人死のうと構わないし、そもそも、自分を利用しようとして近づいてきた連中なのだ。


 お互い様。それが彼の考えだった。



 十年の月日が流れ、同じような手法をとりながら彼は冒険者として最高ランクであるプラチナ級に昇格した。


 それまでに、彼を誘った冒険者パーティーをいくつ使い潰したか憶えていない。


 必ず最後は一人、生き残って宝を持ち帰ることから、仲間を殺しているという噂も立った。


 だが、どれだけ高難易度な依頼でも、彼はこなして財宝を持ち帰るのである。


 冒険者らしく、適宜、町から町へと移動して特定の拠点は持たなかった。


 ついた二つ名は死神。


 それでも――


 彼と一緒に帰ってこられなかった連中が雑魚なのだ。


 自分たちなら大丈夫。と、彼を誘う冒険者は後を絶たなかった。



 死神の噂を聞きつけて、遠方から渡ってきたプラチナ級の冒険者の少女が彼を誘ってきた。


 ドラゴン退治だという。少女は二人でドラゴンに挑みたいと言ってきた。


 暇を持て余していた死神は承諾。二人は火山へと向かい、巨大なドラゴンと壮絶な戦いを繰り広げた。


 ドラゴンを倒し、一度では持ち帰れないほどの財宝の山を見つけたところで――


「あなた、わたしを殺すんでしょ?」


 少女が死神に斬りかかった。


 彼女は――


 十年前、最初に死神が使い潰した冒険者パーティーのリーダーだった男。その、妹だった。


 ずっと彼を追いかけ、調査し、不自然パーティーの行方不明を洗って、それでも正体をつかめない。


 ただ、死神が仲間を殺しているという確信はあった。どうやっているのかまでは、もう自分で確かめるしかなかった。


 少女は不意打ちはしなかった。


 死神は笑う。


「バカだな。四の五の言わず、ドラゴンと戦っている最中に後ろから刺せばよかったのに」

「それじゃあ、あなたがどうやって兄さんを殺したかわからないじゃない」

「なら、教えてやろう」


 身構える少女に向けて、死神はデスを放った。少女をドクロの幻影が包み、その命を噛み砕く。


 少女は死んだ。いともあっさりと。


 同時に――


「見たぞ! それがオマエの魔法か! くらえッ!!」


 ずっと気配を消して隠れながらついてきていた、魔法使いの男がいた。


 少女に大金を積まれて雇われた男だった。


 ついに死神の魔法を見た者が現れたのである。


 そして、死神よりも早く――


 男は見て覚えたばかりのデスを死神に放った。



 ヒゲの泡を手でぬぐって、男は言う。


「どうだい? 恐ろしい死神だろ?」

「あんたがそうなのかい?」

「いや、俺はミリアの元仲間さ。結局、ドラゴンは倒されたけど、戻ってきたのは死神だけだったんだってよ」

「じゃあ、死神が仲間を殺してるってのも、本当か嘘かわからんのか」


 魔法使い風は陶器のジョッキをあおった。


「そういうこった。もし噂が本当だったとわかったら、ミリアは死神を殺すって息巻いてたな。俺じゃない別の魔法使いをわざわざ雇ってまでしてさ」

「死神ってのはどんなやつなんだ?」

「それが顔を覚えてる奴がいないんだと。よほど印象に残らないんだろう。名前よりも二つ名が有名になりすぎて、ギルド職員ですら本名知らないってもっぱらの噂さ」


 当たり前だ。と、話を聞きながら思う。


 顔も名前も錯乱の魔法で相手の記憶を混乱させているんだから。


 しかしあの剣士、ミリアが本名だったか。


 自分を殺させて、それを尾行させた別の魔法使いに見せる。で、俺の手口を覚えさせて、その力で俺を殺そうとしていたんだ。


 残念だが、こいつらには死者を生き返らせる魔法という概念が存在しない。


 ならば即死した場合に、自動蘇生する魔法なんてものも、想像がつかないのだ。


 俺は常に、一度死んでもその場で復活する魔法を自身にかけている。保険のためだったが、そいつが役に立つ日が来た以上は――


「なあヒゲの。あんたこれからどうするんだ?」

「プラチナ級の冒険者を目指すつもりだ。なんでも死神っていうのは、ゴールド級じゃ話もしてくれんらしいからな。この年齢で上を目指すなんざ自分でもオドロキだけどよ。ミリアに何があったのか、死神から直接訊きたいんだよ」

「なら、俺と組まないか? これでもプラチナ級なんだ。あんたの話、おもしろかったからな。手伝うよ」


 ヒゲのオッサンは「ま、マジか!? いや、いいのか?」と、最初は驚いたけど、いつのまにか俺の手を両手でぐっと握っていた。


 さて――


 こういう奴が今後現れないように、オッサンの仲間や家族構成を聞き出して、きちんと始末しないとな。


 次の冒険も楽しくなりそうだ。

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