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アルカ雪原Ⅲ

アルカ雪原に取り込まれた

初級魔術師ウォーターと、お調子者のボイド、臆病なウル、そして追放された元勇者サトー。

子供三人、役に立てない大人一人。

果たして、この過酷な雪原地帯で生き延びられるか。


ウォーター含めた3人が眠りについてから

およそ5分経過。

ふと外に目をやると、眩しい光の結界で円状に囲まれていた。恐ろしいほどの静寂だ。吹雪が絶え間なく降り続けているにもかかわらずだ。音をも遮断する結界......あり得るのか?この世界の「魔法」というものが一体どのようなもので、世界に「魔法」が使える人がどれくらいの割合いるのか。それを知りたい。まだモンスターの一体にも出会っていない。はたしてヴォルバーが言っていた魔族とやらはほんとに存在するのだろうか?ヴォルバーに聞いた話によると、サトーは、記憶を失う前暴走したという。何やらサトーには力があるのかもしれない。だが、それと同時に低ステータスであることも聞いているサトー。いったいどういうことなんだろうか?不安が募る。サトーは自分自身が誰なのかすら覚えていないのだ。


およそ10分経過。

周りを警戒しつつ、手を強くつねる。


およそ20分経過。

特に異常なし。少し水分補給をする。


およそ30分経過。

足がしびれたので、立つ。なにやら鼻につく臭いを感じる。

「焼ける臭い...?」

近くで森林火災でも発生しているのだろうか。

だが、外は依然として吹雪。絶対火災が発生しないとは言い切れないが。


およそ40分経過。

頭が重さに負けてしまわぬよう必死に目を開ける。


およそ50分経過。

周りから声がした。これで助かると思い、馬車のカーテンを素早く開け、辺りを見回すも、誰もいなかった。気のせいか....?


およそ1時間が経過。

ウォーターが目をこすりながらすっと起きる。

「...交代ですね。ではサトーさんは寝ていてください。」


「寝むそうだな...ここは俺に任せて寝てていいんだぞ?」





「ははっ...そうも言ってられないですよ。守らなきゃいけないですから、この僕が....って...うわあああああああああああああぎやぁああぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!」





ウォーターが、血相を変え、急に大声を出して叫んだ。荷台の隅に慌ててのけぞる。荷台に積んであった荷物らしい木箱が煙を出して崩れる。

「お、おいどうしたんだ。急に大声なんか出して。」

「....あ...あぁ...近寄るな.......化け物...」

「え」

ウォーターは怯えながら魔導書を抱える。どういうことだ?いったい何が起きている....?

「く、来るなぁ............う、撃つぞ!!」

「ちょっと待て、何かの誤解だ。どうしたんだ?」

サトーは冷静にウォーターを制止させようと試みるも、ウォーターは聞く耳を持たず、怯えている。

すると、突然自分の首を絞めあげ始めた。


「お、おい!!何してんだ!!!」


「あ...アがッ....ぁ...は、離せ......」


「ウォーターしっかりしろ!絞めているのはお前だ!!」


ウォーターのメガネは、激しく動くウォーターの反動に耐え切れず床に叩きつけられる。必死に腕を剥がそうとするも、ちっとも剥がれない。凄まじい握力だ。

これは本格的にやばい...!どうすれば...!!しかも、ウォーターがこれだけの声を上げているというのに他2人は全くというほど起きない。


「ボイド!ウル!起きろ!!ウォータが大変なんだ!助けてくれ!!!!」

声が掠れる。まるで大声を初めて出したような感覚だ。

「ん......ウォーター?......ど、どうしたの!?」

ウルはボイドと肩を寄せ合っていることに少し耳を赤くする。

ウルは起きた。それなのに....なぜかボイドが起きない。

ウルが状況を察し、ボイドも起こそうと、肩をゆすると、床に叩きつくように前に倒れた。

「ボイド!!」

ウルが叫んでも反応がない。

うつ伏せで顔が見えない。

ウルは、息をのんだ。

すぐさま駆け寄り、ボイドを仰向けにする。




「............................ボイド?......ねぇ...嘘だよね.......?」




ボイドの顔は青白く変色し、やせ細った表情をしていた。

ボイドが頭に巻いていたターバンはするりと頭から抜け、ウルの目の前に落ちた。


「ボイド...あぁ....あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


今まで聞いたことのない声だった。甲高く響く声はサトーの脳を刺激した。

「くそッッッ!!!!どうなってるんだ!」

サトーは思った。自分はともかく、ボイド、ウル、ウォーターはまだ年端もいかない子供。こんなところで終わっていい命ではない。と。

必死にウォーターの腕を剥がそうとするも全くと言っていいほど動かない。頭に血が上るほどの力を出しているというのにだ。

「ご....ごぼ.......が..................ぁ...た....助け.....」

ウォーターの口が僅かに動き、囁くように「助けて」と聞こえた。ウォーターは白目をむきながらも、必死に声を出して抵抗しているのだ。

「う、うぁぁぁぁああああ!根性だせよ俺ぇぇぇぇ!!!」



―――君いませんか~~~????お~~~い!!!


寝てんじゃね??


おーい!生きてますかーーー!!わざわざ見舞いに来てやったんだぞーーー!


やめてあげなって、ふふっ


おい豚!!出て来いよ!!


玄関のドアを蹴る音。


なぁぁあんもできねぇくせに調子乗りやがってよーーーー!!


んだよあの走りはよぉ!!家畜の走ってるとこなんてみたくねぇっての!!


――――――――――な、なんだこれ...記憶が流れ込んでくる。



サトーはその場で頭を抱え込み、強制的にうずくまる。荷台に積まれていた備品の鏡が倒れこみ、目の前で破片となって散らばった。ふと、自分の姿が映る。


あれ、俺こんな太ってたっけ......

髭も、寝ぐせも....



「ふふ、驚いたかな??」


反射で振り向くと、

そこには―――――





不敵な笑みを浮かべたウル・パラがそこにいた。



「ふふ....ふははッ.........!!!!!!!!あはぁ.....!!ふははははははは....!ようやく気付いた??()()()()!!鏡見たことなかったんですか???きもいんだよ!!」


今まで清楚だったウルからはあり得ないような大口で、ありえない言葉を吐いた。

ウルは立つと、亡き者になったボイドを払いのけ、まるで汚物を扱うかのように蹴り上げた。


「ウル.........................なのか?」


ウル・パラは辛気臭そうにしながら、見下すような眼をサトーに向ける。


「それよりさぁ.........このままだとこいつ死んじゃうけど、大丈夫?」


ウル・パラは泡を吐いて、命が途絶えそうなウォーターを指さす。

ウォーターは痙攣しており、いつ死んでもおかしくない。


―――――ッ!!


サトーは今の状況を一度取っ払うと、ウォーターに駆け寄り、ウォーターの腕に絡みつく腕を解こうと.......


―――――がはぁッぁああ!!


傍に駆け寄ったサトーの腹部を大きく蹴り上げる。


「ふははッ!!残念ーーーーー!!」


拍手をしながら笑う。


うずくまるサトーの首をがっしり掴むと、ゆっくり自身の頭上まで持ち上げる。

「良い奴振るのもうやめたら??邪気たれたれの分際でよぉ!!!」

そう耳元で囁くと同時に、サトーの首を、手首を少し捻るように投げると、その行動と全く釣り合わない怪力で勢いよく外に投げ出されていく。


馬車を突き抜け、


ウォーターの結界を越え、


吹雪の中を過ぎ、


近くの木に叩きつけられる。


「............?.........ぁ.......ぁぁぁぁあくぁああああああがぁああぁあぁぁぁぁあああああ!!!!!!」


一瞬の出来事過ぎたのか、サトーは自分が叩きつけられたことに気づくのに3秒もかかった。

サトーは口から大量の血を吐く。

起き上がろうにも、叩きつけられた背中の肉がぐちゃっと液体のりのように張り付いており、離れるにも離れられない。


瞬きを一回した瞬間、目の前にウルの姿が現れた。

「ウ、ウル.........がはぁ.....ぁ」

ウル・パラは首を傾げると、髪を吹雪に靡かせた。


「ウル.........?あー.........そんな名前だったっけ。」


―――――は?



「「ウルなんて存在しないよ」」



今なんて......?

ウルが存在しない?あり得ない。ウルは......ウル・パラはここにいる。



「はぁ...................新しく生まれた大物勇者がどんなもんか期待してたのにさあ。貧弱も貧弱、だよね。勇者辞めたら??......君みたいなのははっきり言って邪魔なんだよね。俺が動くのだってタダじゃないんだし。こんなやつ勇者でも何でもないよ。()()()()は何考えてんだろうね。さあ、これで仕事も終わったことだし帰るか。」

長々と喋るソレは、全く話の通じないことを意味していた。

「お、お前は.....誰ッ.........だ!!」

「...ふふ、いいよ、教えてやろうか..........」

少しソレは不気味にニヤつかせると、目の前で段々と水泡が破裂していくように姿を変形させていった。それはみるみるおぞましい魔物の姿へと変貌していった。顔には3つの点のような目と口だけがついており、一層不気味な雰囲気を漂わせる。


「.........俺は魔王軍アルカ雪原統括・魔法部隊総隊ヨヴスト。死に際に俺に会えて良かったねぇ.....勇者サトー。バイバイさよなら痛みながら死んでね。ふふっ!うは...」


辺りの木々を越えるくらいの高身長で細身の体をしたヨヴストは、瞬きする間にまるで幻だったかのようにその場から消え去ってしまった。


「...............」

吹雪が吹き荒れ、サトーの顔に雪が積もっていく。

「........................」

次第に魔物が群れて集まってくる。

「..............................」

馬車の中にも魔物が群がっており、ここからでも、中でくちゃくちゃと音を立てて、何やら肉片を食べる音が聞こえる。

「..........................................うああ...」

巨大な鎧を着て、錆び付いた大剣を片手に持つモンスターが目の前に立ちはだかる。

「.............ぁ....................あぁ............クソッ......」


そのモンスターが腕を振りあげ、勢いよく大剣を振りかざす。


目標である「記憶」を少し取り戻したが、それも結局大したモノじゃなかった。つまり、俺が記憶を取り戻したところでロクなことにならないという事だ。どこか心の隅で自分を高く見積もっていた。きっと前世では飛んだ大物だったに違いないと、...そう勝手に思い込んでいた。


だが、違った。


俺にはなんの能力もなかった。前世でも同じだ。特に大したやつでもなかったし、ここでも前世でも、大したやつじゃなかった。


でも、悔しい。


ここで終わるのが.......俺のむさ苦しい生涯が.....何も成し遂げられない俺自身が.....ゴミみたいな自分史が刻まれることが。


悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!!!!!!!


―――――力が欲しい!!!!


サトーは木にへばり付いた背中の筋肉をブチブチと剥がす。

「くっ...........うぁぁぁあ!!!」

あまりの激痛に唇を噛み、血を流す。


「「ウルオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”!!!!!!」」


野太い音を口から出しながら大剣を振りかざすモンスター。




―――その瞬間。

サトーの眼が、漆黒色に光る。



「.......ウ.......ウ"クァ.............???????」

大剣を振りかざしたところには誰もいない。


頭上を見上げるモンスター。既にサトーはモンスターの頭上に座り込んでいた。


『――――――――堕落の抱擁エンブレイス・バイス


モンスターはみるみるうちに変色していき、その場に倒れた。木々たちは揺れ、吹雪が舞い上がる。


「..............」

サトーは何も口にせず、黒く充血した漆黒色に焼けるその眼を周りを囲みこむモンスターたちに向ける。


――――――――!!!


モンスターたちはその眼光の圧に耐えられず、一歩、また一歩と後退していく。

サトーが目を極限まで開くと、構えの姿勢に入る。

サトーは自らの胸を掴むと、魔方陣を胸に刻み、一回、二回と心臓を一定間隔に攻撃する。すると、サトーの足にだんだんと血が集まっていき、血管が浮かび上がっていく。筋肉が膨張し、目が赤く充血し、口から血を流す。次第にサトーは汗を流し始め、湯気を立てる。すると、だんだんとサトーについていた脂肪が蒸発するかのように、無くなっていく。


サトーの体は、別人のように細くなり、筋肉のついた、強靭な体へと変化した。


サトーは一呼吸置くと、足に呪文をかける。

「"Kazéa passus karza – velgar mira zalder........"(壊れた歩みよ、痛みを超え、闇の名の下に爆ぜろ).....」

それは、人間族が使用する詠唱とは()()()()()

『――――――――断罪の閃脚(ゼ=フェルグヴェルガ)


―――一瞬で。

サトーは吹雪ひとつ立てず、周りを囲い込むモンスター総勢100匹のモンスターに触れる。


「――――――――堕落の抱擁エンブレイス・バイス!」


そう唱えると、触れた敵全員が青く変色していき、悶えるように倒れていった。




「...........ッっク......っはぁ......っあぁ.........」


サトーはその場で呼吸を整える。


が、視界がだんだんとぼやけていき、サトーもその場に倒れこむ。


吹雪の中、サトーの漆黒色の眼はそこで光を無くした。


真っ暗で、激しい吹雪の吹き付けるアルカ雪原。

倒れこむサトー、光力を無くしたウォーターの結界。

馬車の外に投げ出され、雪に埋もれつつあるウォーターとボイドの死体。

最悪の状況に眉を寄せ、涙を一滴こぼすと





サトーは眠りについた。

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