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アルカ雪原Ⅱ

「お、おい...これどうなってんだよ!」

ボイドが声を荒らげる。

無理もない。この暗闇の中、猛吹雪を浴びたら声を荒らげたくもなる。

「さっきまで.....こんな暗かったでしたっけ?」

ウォーターが冷や汗をかきながらそう言う。

馬車の中には吹雪が筒抜け状態でこのままでは凍えてしまう。

「ボイド!ひとまず中に入って!」

ウルがそうボイドに呼びかける。ボイドはその声を聞くと、すぐさま荷台に入り込み、布で荷台を塞いだ。

「あの...これってどういう状況でしょうか?」

サトーが口を挟むと、ボイドが下を俯く。

「...敬語。もういいって。」

「...え、ああ、わかった。」

ウォーターが咳払いをする。

「まず、状況を整理しましょうか。...僕たちがこのアルカ雪原に入ったのは昼過ぎ頃。アルカ雪原の中に入って、しばらくしてすぐ辺りが真っ暗になった。オマケに吹雪まで...」

ウォーターはそこまで言うと口を噤んでしまった。この状況に混乱しているのだ。

「じゃ、じゃあさっ、もと来た道を辿っていけば...」

「この吹雪の中をですか?第一、夜のアルカ雪原はあまりにも危険すぎる...何が起こるかわからないんですよ?」

ウルが提案した内容はすぐにウォーターに却下されてさしまった。ウルは杖を小さく持つと、縮こまってしまった。

「なぁ...俺らって食料なんか持ってきてたっけ...」

ボイドがそういうと、ウォーターは持っていたカバンの中から固くなったパンと水を出した。ウルも同様のものしか持ち合わせていなかった。それもそのはずだ、二人とも、ここまで遠出するとは思っていなかったからだ。それに加え、事前知識はウォーターも含め小手先程度。何も持たずに登山をするようなものだ。危険極まりない。かくいうサトーもこの世界のことはほぼ、というより全く知らないのだ。

「......どうしましょう。このままでは...」

「もうやだ!おうちに帰りたいよぉ...」

ウォーター冷や汗をかくようにそうつぶやいた。それと同時にウルも泣き出してしまった。両手で拭うように静かに泣いている。

「なあ、おっさんは......何か持ってないのか?」

「俺も、非常食が少しばかりなら。だけど、...このアルカ雪原に関して、俺はちっとも役に立てない。」

「っんなの知ってるよ。」

「...」

サトーは記憶がない以前に、勇者失格級の低いスコアを出している。役に立てないのは当然だ。

「......にしてもおかしいですね...夜になったというのに、まるでモンスターの気配を感じない。」

「そんなん決まってんだろ。あいつらも夜だから寝てんだよ。」

「あのですねぇ...」

ボイドの返事にウォーターはため息をつく。それと同時に、何やら黒い分厚めの辞書のような本をバッグから取ると、おもむろに立ち上がった。

「迷える光のマナよ...大地に授かりし我らに、夜の帳を裂く聖なる導きを......」

―――『夜を照らす光夜を照らす光(クレア・ノクティス)

ウォーターが呪文を唱えると、馬車の辺りが途端に明るくなり、周囲が光に包まれた。雪すらも反射させる光はまるで朝かと思うほどに明るかった。

「結界を張りました。これで2日くらいは敵が寄ってこないはずです。」


「え...お前こんなこともできたのかよ...」



――――いや知らなかったのかよっ!!



と、ボイドの発言に突っ込みたくなる気持ちを抑え、少しウルに目をやると、ウォーターの結界に安心したのか少し顔を上げ、表情が柔らかくなった。

「ほんとにウォーターがいてくれてよかった...」

ウルは赤くなった目を潤ませながら小さくつぶやいた。

だが、ウォーターの表情は全く明るくなかった。よくよくみると顔が青ざめているようにも見える。平然を装っているため、ほかの二人は気づいてないが、明らかに様子がおかしい。魔法を放ってからわき腹をずっと抱えているのも気がかりだ。

「ウォーター、大丈....」

サトーが「大丈夫」まで言いかけたところでウォーターに肩を掴まれ制止させられた。ウォーターは二人に少し目をやると、サトーの顔をみて首を横に振った。

「ふぁあ......なんか眠くなってきたわ。もう夜っぽいし、寝ようぜ...」

「はあぁ...危機感ないですね、ボイド。...確かに一理あります。そろそろ休息を取りましょうか。」

ボイドの一声により、全員で仮眠をとることになった。

「じゃあ、俺見張りやってるよ、みんなは寝てて。」

サトーは精一杯の作り笑顔をする。

「ですが...サトーさんも疲れているでしょう?結界は張っているのですから、いったん休息を取りませんか?」

「いや、いいんだ。馬車に乗せてもらってる身だし、この中で一番年上だしね...俺」

サトーはこの中で最年長。というかおじさんなのだ。おじさんのくせに、ここまで全く役に立てていないのだ。まだ子供のウォーターにすべて任せっきり。どうにかしてみんなの力になりたい。その一心だ。

「ではそこまで言うなら...僕と1時間ごとに交代しましょう。ほかの二人は疲弊しきっていますし。」

目をやると、ボイドとウルが肩を寄せて寝ていた。ウルもさっきので泣き疲れたようだった。

「では、気を抜かずに頑張っていきましょう。」

「ああ」




―――――そして、災厄の夜が始まった。

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