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アルカ雪原

「いってきます!」

と威勢よく出てきたものの、私はまだこの世界のことを何も知らない。

通貨だって...

「銅貨...か?これ。どのくらいの価値があるんだ?」

小さい巾着に入った小銭をひと握り手のひらに乗せる。硬貨は比較的小さく、ところどころ錆び付いている。手のひらに10枚くらいは乗りそうだ。

だからなんだと言う訳では無いが、少し心許なく感じる。

「…?何か書いてあるな?」

王都から少し離れ、道なりに1時間くらい進むと草原出た。この草原の奥には、雲行きが怪しく、そうそうたる雪山たちがドカンとそびえたつ、雪原があるようだ。草原を道なりに進むと、ついに雪原に入る。一つの木の板で出来た看板があった。知らない文字のはずなのになぜか読める。これも勇者の権能というやつなのだろうか。

「ここから先、精神汚染区域…?なんだこれ…」

そこには赤い文字で書かれた如何にも危険そうな内容が書かれていた。誰かのいたずらか?ほんと、妙な事されると困るなあ。まだこの世界のこと、何も知らないってのに。


「...おーい.....おーーい!そこの肩掛けの旅人!」

振り返ると、後ろから馬車がやってきていた。そこには手を目いっぱいに振る白いターバンを巻いた少年がいた。

後ろには杖を持った白い髪を長く伸ばした少女と、荷台で本を読んでいる茶髪のメガネをかけた少年が乗っていた。すると、馬車は止まり、白いターバンを巻いた少年が私に話しかけてきた。

「んーー...」

ターバンの男は私を上から下まで見てから、少し考え込んだ。

「あ、あの、私になにか...?」

「..ん..いや、なんでもない。それよりおっさん!あんたもこの先のアルカ雪原を通るのか?」

「お、おっ...て......アルカ雪原?」

おっさんという言葉に少し引っ掛かりつつ、私は手に持っていた地図を確認した。

確か、ヴォルバーさんが言っていた話だと、始めにアンゼッタ王国に出向き、冒険者登録をしなくてはならないとのことだった。そのアンゼッタ王国に行くためには、このアルカ雪原を通ると直ぐなのだが...

「.......なあ、おっさん歩きなのか?正気か?」

しっかりと防寒のための服装ではあるが、確かに心もとないか...しかも、歩きじゃあな...

と私が聞こえないくらいの声量でぼそっとつぶやく。

「...よかったら、乗ってきますか?」

と後ろの荷台にいた、メガネの少年が話しかけてきた。隣の女の子は私になぜか怯えているのだが、このままいけば、確かに厳しい。この話には乗るしかない。

「ほ、ほんとですか!よろしくお願いします。」

私は3人の乗る馬車に乗り込んだ。中は思ったよりも広く、荷台の床が暖かい。

「よっしゃ!そうと決まればまずは自己紹介だな!俺の名はボイド・タール!気軽にボイドって呼んでくれ!おっさんの名前は...?」

馬車の御者を務めるターバンを巻いた少年が威勢よく自己紹介した。

私の名前は...確かウォルバーさんにはサトー...?だのなんの呼ばれていたよな。

「......サトー...と申します。今は記憶を取り戻すためにクヴェルト村に...」

「「ク、クヴェルト村!?」」

3人が声を合わせて、驚いたように聞き返してきた。そんなに驚かれると心臓に悪いのだが...

「今だ到達者のいない...どの地図にも載っていない...あの魔術界伝説の集落にですか!?...これは相当ランクの高い冒険者のようですね...クヴェルトについて詳しく語り合いましょう...!!」

メガネの少年は顔を近づけて、興奮気味にそう言った。

「ウォーター、それくらいにして。ご、ごめんなさい...うちのウォーターが。...あ、自己紹介ですよね。私は、ウル・パラ。そ、それでこっちがウォーター・バレッド...」

ウォーターを動物を扱うようになだめると、つっかえながら、私に名前を教えてくれた。

「おっかしいなあ、ウルは初対面の人でもぐいぐい行く方なんだけどな...ウル?お前もしかして...おっさんのこと好きなのか~~?」

なわけねえだろ!!と心の中で叫びつつ、若干の期待を胸にウルのほうを見る。

「ち、違うってば...!!.........でもなんでか知らないけど、心は平気なのに、体が拒絶するのよ......サトーさんを」

「まあ、確かにそれもそうだな」

ウルは少し顔を赤らめると、すぐに否定した。.....ですよね。この感じだと...私、結構歳いってるらしいし...。普通に知らないおっさん乗り込んできたら怖いよね...。

「...と、ところで、皆さんは見たところお仲間のように見受けられますが...どういった目的で?」

私は、これ以上傷つくのを恐れ、とっさに話を変えた。

「ああ、俺たちはな...魔王を討ち取るため...!!今まさにパーティーを組んで、旅に.......」

「はあ...僕たち家出中なんです。”僕たち”とは言っても、このボイドとかいうやつが、家族と揉めて家を出てきてしまっただけで、僕たちはただの付き添いなんです。し・か・も!農家さんの馬車まで盗んで...ほんとっ、村に帰ったら絶対叱られますよこいつ。」

「なっ...!」

ボイドの野望はウォーターによって打ち砕かれた。ウォーターの言葉にボイドが固まる。だが、友達のためとはいえ、家出に付き合うなんて、この三人、とても仲が良さそうだ。なんだか、見ていてほっこりする。

「い、家出じゃねえ!俺は、ほんとに冒険者になるんだ!なあ、お前らもそうだろ?...だからこそ、早く冒険者登録をしに....!」

ボイドはいきなり声を荒げ、荷台に向かって叫んだ。

「どういうこと?馬鹿言わないで!私は嫌!まだ村にいたい!」

ウルはボイドの言葉に被せるように声を荒げた。一瞬の間、沈黙ができる。

「ボイド、ウル、一回落ち着いてください。......僕だって、まだ冒険を始める気はありません。僕たちはまだ15歳...このサトーさんを合わせても...とてもこのアルカ雪原を攻略できるとは思えない。魔法だって...僕たちはまだ初級魔法しか使えないんですよ?ボイド....やっぱり引き返しましょう...出発してからまだ3時間。今からでも遅くはありません。」

ウォーターは、ボイドをなだめるように肩に手を置き、真剣な表情で、ボイドを見つめた。

「.........」

ボイドは一瞬黙り込み、ウォーターから顔をそむける。ボイドの眼がかすかに潤む。

「そうだな。ウォーター、お前の言うとおりだ。ウル、ごめん、心配かけて。引き返そう。」

ウォータとウルは、安心したように微笑んだ。

「そういうことだ。おっさんほんとごめんな。俺らはこれから引き返すよ。悪いな」

「いえいえ、私も引き返そうと思います。私もまったく魔法を使えないので......ウォーターさんの情報がなければ、確実にポックリ逝ってましたよ。」

私の発言の後になぜか少し沈黙ができる。三人は私のことを真顔で見つめ、目を丸くしていた。

「サトーさん、あなた、青龍級冒険者じゃないんですか...?ずっとそうだとばかり......」

「そんなに魔力で満ちているのに...?」

「クヴェルト村に行くって言ってたり...強いのを隠してたり...おっさん、いろいろ事情はあるのだろうが、隠さなくていいぞ。」

???

全く話の流れが掴めないのだが、これはいったいどういうことだ?私が強い?魔力がある?ステータスが低くて追放されたこの私が?

「ほ、ほんとに戦えないんです。魔力なんて、ミリですし、魔法なんてもってのほかです。なので、これから色々始めようと思いまして、アンゼッタ王国にと...お金だって...こんなお金しか...」

私は、巾着に入った銅貨を手の上に乗せた。

「え、ええええーーーー!!!」

ウォーターが目を見開き、驚いたようにその銅貨を見る。

「あ、あの、ウォーターさん、どうかしましたか?」

「サトーさん、こ、これをどこで...?」

「旅に出る前に国の兵士から支給品としてもらったものです。」

「ど、どういうことです?どうして兵士から?」

「...お恥ずかしながら、私、召喚者で....勇者だったんですけど、国に追放されちゃいまして...」

三人は息をのみ、ウォーターは固まったまま動かなくなった。

「なあ、おっさん....じゃない、勇者様。まさか、あの......」

「ええ、そのまさかですよ、ボイド。」

ボイドは今までの呼び方を改め、勇者様と敬称をつけて呼んでくれた。

「で、でもそれは四百年前の出来事じゃ...」

ウルは、震える声で、ウォーターに話しかける。ウォーターは、持っていた古びた本を荷台に広げると、何やら読みだした。

「『四百年前、勇者として招かれたニホンジンの彼は、あまりにも低いステータスで、国王のお怒りを買い、その場で処刑されることとなった。だが、そこで彼の真なる闇の力が解放し、召喚したもの、その場にいた国王やその関係者もろとも、闇の力で葬った。この一軒が原因となり、各国で一級召喚魔法の使用が極めて危険と判断され、禁止になり、勇者が誘われることはなくなった。その勇者の名は‘サトー‘であった。』と。四百年も前の文献ですので、正しいかどうかは分かりませんが。」

ウォーターは私に目を合わせたものの、そこからぴたりと動きが止まる。

「で、ですが、そうだとしたら、私はなぜ今ここに??」

ウォーターは本を勢いよく閉じる。

「今現在、各国でちらほらと、何百年も前に失踪したとされていた人たちが発見されています。それに、勇者サトーは、この文献によると、そのあと、消息不明になってるんですよ」

ウォーターは一つ間を開けると、思い出したかのように、急に誤魔化すように笑った。

「ははは!ま、まあ...そんなわけないですよねー。そんな国はもう存在してないですし、ほら、この本著者が書いてないんですよー...この話はいったん置いておいて、ですね...僕たちもサトーさんも引き返すとのことなので、今来た道を.........」

「お、おい、今来た道って、どっちだ!!」

馬車を操縦していたボイドが荷台に向かって叫んだ。

「ね、ねえ、嘘......でしょ?」

ウルが後ろを振り返る。後ろには深淵が続いており、吹雪が激しく馬車に吹き付けられていた。



ああ、私たちは遭難したんだ。








―――――アルカ雪原・・・アルカ山脈とリーベル山脈に挟まれた所に位置している。魔力が濃いアルカ雪原は精神汚染耐性がないものが通ろうとすると、幻覚や幻聴が見える。緩やかな雪原で、吹雪が一切吹かないが、精神汚染にかかっていしまうと、周りの景色すべてが暗くなり、激しい吹雪に襲われていると勘違いする。精神汚染では、五感のすべてが支配されてしまうので、脳が錯覚して、最悪の場合、凍傷で命を落とす。そのため、ウサギや鹿、熊などの動物は一切いない。その代わり、その魔力量に耐えれるLv3級の魔物がうようよいる。アルカ雪原を抜けて、アンゼッタ王国にたどり着けたものはごく少数であり、並の冒険者100人が入れば、3人しか生き残れないといわれている。何百年も前、勇者が存在していたころ、勇者一行がこの雪原を難なく抜けていったという伝承がある。そのころと比べ、魔術や魔法は進化しているものの、たやすく通れるものではない。

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