逃亡
俺たちは黙って炎鹿亭に移動した。あのままあそこでレクって呼ばれたらやばい熱気だったからだ。
水を一飲みしてから、クーデリカがいった。
「レク。あの詩はやはりレクの……」
「ああ。大体は俺のことを謳っていたな。なんか所々違う気もしたが」
おずおずとしかし目を輝かせてロイはいう。
「狂魔女クライディアを討ち果たしたということは本当なのですか?」
「ああ」
「なら、レクのプレートはやはり……」
「ミスリルプレートだよ」
俺は首元からプレートを出して見せた。ヒーローを見る目で見てくるロイ。……やめてくれないかな、その視線。
続いてマリアンヌが聞いてきた。
「その……ユリア姫と婚約を褒賞に頼んだというのは本当なのですか?」
「ユリアと婚約しているのは事実だ。けど、褒賞として婚約したわけではないな」
クーデリカがさっきから下を向いている。どうしたものか。俺の自意識過剰なのか。攻め時か。いや、流石に今ではないだろう。
「あと他にも四人の女の人と婚約している」
「「「四人!?」」」
驚きで声がシンクロする四人。俺だって九歳児が5人と婚約していたら驚くだろう。
「まあ、それだけのことだ。気にすんな」
「いやいや王族との結婚なんて一大事ですよ。レクは孤児だというならいくらミスリルプレートととはいえ認められるわけがない。……もしかして爵位を貰っているのでは?」
「一応男爵になっているよ」
「レクも貴族だったんですね」
「なんちゃってだけどな」
いらんことに気がつきやがって。ロイの奴。
「では、王国の貴族であるレクがなぜ帝国の都市にいるのですか?」
「魔将がいるような気がしていたからだ」
「この国に魔将が……」
「ああ。先日のモンスターどもの襲撃。あれはおかしい。本来モンスターは連携なんてとれるはずはない。なのに陣形らしきものを組んでいた。これは魔将の兆候だと考えている」
「そんな!一大事じゃないですか」
「一大事だよ。だからボスマラソンをしたり、装備を更新したりして備えているんだ」
「そうだったんですか。てっきり追い込んで楽しんでいるのかと」
「おいこら」
ボスマラソンは強くなるために必要なことだ。別にそういった意図のもとでやってはいない。
「ともかくだ。いつ何が起こるか分からない状況だ。各人よく鍛えて。よく備えるように。あとは自由時間だ。ゆっくりするように」
話は以上だ。俺は昼寝でもするために個室に戻った。逃げたともいう。
今夜9月8日0時から9月9日0時まで1時間ごとに更新します!
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