ハヤブサの指輪
ピクシー、ピクシー、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ピクシー、ピクシー、ピクシー、ゴブリン、ピクシー、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリンとほぼ無心になって狩りを続ける。こういうのも鎧袖一触といえるのだろうか。ステータスだけでいえばそれほど余裕はないのだけれども。
ゴブリンに注意さえしておけば、このレベル帯でも問題ない。一度ゴブリンの罠―――木の枝二本にひもで結びベルをつけたものにかかったことを除けば問題はなかった。大体『ルーンレコード』におけるゴブリンの扱いは異様である。城を占拠してみたり、サイクロプスを使役してみたりするし、罠も使ってくるし、攻撃パターンが多彩だ。何よりも人種の言語を使ってくる少数の敵の内の一体だ。……制作陣にゴブリンが好きな人がいたのかもしれない。
なお、罠にかかった後は周辺のゴブリンに囲まれたぐらいで、いつも通りに一体一体丁寧に対応して切り抜けることができたが、ゴブリンの抱き着く攻撃を避けられず、その間に被弾もした。集めていた薬草を使うことで回復したが、この世界の初被弾はゴブリンだった。……ゴブリンめ、許すまじ。
妖気の森のこの深さで狩りを続けていて気がついたことがある。それは、敵の密度の違いである。スライムやホーンラビットがいたところはなんだかんだで人類の生息圏内だったということだろう。出現率が低かった。
しかし、この深さまで冒険していると次々に敵が現れる。最初10レベルだった俺にとってはレベリングにふさわしいエリアともいえる。これなら、それほど日数をかけずにこのエリアを突破することができるかもしれない。
つらつらとそんなことを考えているうちに、ゴブリンの集団に接敵した。まだ、こちらには気づいていない様子。奴らの数を数えているうちに一匹だけ成人男性ほどの大きさしたホブゴブリンいた。王冠のつもりなのか棘のついた鉄の輪を頭に被っている。
珍しい。妖気の森では初めて見た―――レアポップだ。逃す手はない。俺は集団の反対側の茂みに石を投擲した。茂みを揺らす音に反応したホブゴブリンは部下たちにゴブリンの言葉で様子を見てくるように命じた。
こちら側への注意が逸れたので、音を立てずにホブゴブリンに近づきその喉笛を掻っ切る。そのまま体当たりをして距離を取る。混乱をしたように武器を振り回すホブゴブリンがこちらに迫ってくる。これを狙っていた。適当に振り回される武器にパリィを決めて、クリティカル攻撃を入れる。ホブゴブリンが倒れこむ。
ちらと見ると、ホブゴブリンの耳というアイテムウィンドウが表示されている。死亡を確認。
他のゴブリンたちは、ボスが倒されたことで怯え、戦意を喪失していたが、こちらはモンスターを逃すつもりもない。一体一体確実に倒していった。
アイテムの収納中にいいものを見つけた。ホブゴブリンが身に着けていた、指輪だ。ハヤブサの指輪という名前で移動速度が10%上昇する効果があった。ゲーム時代でも引いたことがないほどの大当たりだ。これがあったら、ボスマラソンが捗っただろうに。ルンルン気分で身につけようとして、はた、と気がついた。これはさっきまでホブゴブリンが身に着けていたものなのだ。
なんだか、テンションが下がった俺は帰って洗ってから身に着けることにした。
日が欠けてきたので今日のところは帰ることにした。スキルポイントを確認する。だいぶ貯めってきていたので、攻撃力を大きく上昇させる『猛攻』を習得する。
これで次はパーティーを組まずに戦う場合、攻撃力がとても大きく上昇する『孤高』が習得できる。装備の更新と『孤高』の習得が出来たら、最深部まで冒険してみるとしよう。
ステータスを確認すると14レベルに上がっていた。やはり、集団相手だと経験値の効率がいい。上々の結果だった。
ギルドで今日の成果を清算して、帰りしに肉屋へと寄る。
「よう、レクの坊主。どうした?珍しいじゃねえか」
髭面の熊のようなおっさんが出迎えてくれる。
「うん。買い物に来たんだ。ホーンラビットの肉を六つ頂戴」
「都市の噂になってたぞ。レクの坊主が瞬く間にシルバーの冒険者になったってな」
「まあね」
胸を張って、これ見よがしにシルバーの冒険者プレートを強調してみる。苦笑するヨードのおっさんは、さっと肉を包んでくれる。
「ハインツのちび達が家の兄ちゃんはすごいんだ!って自慢してたぞ。……あんまり無茶すんじゃねえぞ」
「俺は無茶をあんまりしない冒険者だから大丈夫さ」
銅貨を数えて渡した、俺は肉を受け取った。
「俺らからすりゃ、無茶をしない冒険者なんてついぞ見たことがないがな。どいつもこいつも恐ろしい化け物どもに立ち向かってやがる」
「だからといってモンスターたちを野放しにするわけにはいかないからな、だから冒険者が必要なのさ。ヨードのおっさん、また来るね」
「おう」
今日の晩御飯を手に入れた俺は、孤児院に帰ることにした。
孤児院に帰って一番にしたことは、ハヤブサの指輪を井戸水で洗うことだったのはしばらく忘れられそうにない。