装備更新④
「もう限界です。レク。一体いつまでこんな日々が続くんですか?」
ボスマラソン3回目を終えたときのことだった。クーデリカが根を上げた。マリアンヌは抗議する力もないのか虚ろな目をしている。ロイも燃え尽きたようにぐったりと椅子に座り込んでいた。ゴールドプレートに昇格したというのに嬉しそうでもない。
「まあまあ、安心しろ。これで今回のボスマラソンは終わりにしよう」
「本当ですか?」
疑わし気にこちらをみているがこころなしか声に張りが出てきている。マリアンヌも目に輝きが戻ってきた。ロイも姿勢を正した。
「明日はモンスターはやめて装備を更新しに行こう」
とまあ。そういうことである。
俺たちは帝都のメインストリートを歩いていた。
「クーデリカとマリアンヌは有名な鍛冶屋とか防具屋とか魔道具屋とか知らないよな?」
「知りません。……マリアンヌは?」
「私も存じ上げません。これまで武具と関わることも少なかったですから」
「俺も武具の出来とか、造り手の技量が読み取れるほど目が肥えてないんだよな。ロイはそういうのはわかる人?」
「ある程度は、家に武具にあふれておりましたので、多少目利きに自信があります」
あー。ロイはいいとこの坊ちゃんって感じだし、家に宝剣やら甲冑やらがあってもおかしくないか。なら、ロイに任せるか。
「ロイ。お前が、自分たち三人の武具を造る店を選んでくれ。俺は使えればいい性質だしな」
俺としても武具に詳しいわけではない。
「はい。わかりました」
ロイが片っ端から武具店を見て回ると、ある防具屋に目をつけた。
「この店の防具は非常に丁寧な作りで良いと思います」
「それじゃあ、ここにしよう」
店の中に入ると、コレントのリエルさんの店に似た雰囲気を感じさせる店だった。いい作りをする職人の店の雰囲気は似るのだろうか。比較対象が少なすぎて分からないな。今後勉強するか。……いや、あと上位の武具は全部ドロップかダンジョンの宝箱からだ。必要ないか。
「客か。何を探している」
ダンディーなおっさんがいた。ザ・職人って感じの人だった。白髭を生やしており、知性に満ちた瞳をしている。
「俺はレクだ。そちらは?」
「俺はフェルだ」
「フェル。この素材でこいつら後ろの三人の防具を拵えてやってくれ」
俺はアイテム欄からドラゴンの素材を出した。
「……坊主。これは」
「ああ。ご察しの通り竜の素材だ」
竜と聞いて、ロイが慌てて聞いてくる。
「竜!?レクがなんで貴族でも持っていないような竜の素材を持っているのですか?」
「俺が最強になる男だからだ。竜を自分で狩った」
「……なんという」
ロイが呆然としている。この会話をしている間もフェルのおっさんは素材を撫でていた。職人は全員やるのか、それ。
「それでマリアンヌ……この黒髪の女性の鎧が最優先次に大楯で、次にロイ……男のやつの防具、最後にクーデリカの分を頼む。クーデリカは魔法使いだから、外套になるが、作れるか?」
「すまないが外套は専門外だ。だが、いい職人を知っている。そいつに依頼しておこう」
「すまないが、常識に疎い。どれくらいの時間と金がかかるものなんだ」
「時間は二週間ほどもらいたい。金は金貨80枚ってところだ」
「それなら余裕だな」
俺はボスマラソンで稼いだ金の一部をドーンと放出した。
「これで頼むわ」
「俺が竜の素材を扱うことになるとはな」
職人として竜は憧れらしい。元の俺にとっての魔法のようなものなのだろうが。
「ちょっと待ってくださいレク。そんな高価なもの受け取れません」
「受け取っておけ。防具や武器に助けられることはある。俺がそうだったしな」
言葉に詰まるクーデリカ。ここまで育てたパーティーメンバーを失うなんて大損だからな。あとは。
「フェル。いい武器と杖を作る職人も教えてくれ」