それぞれの戦い
クーデリカ視点
モンスターの襲撃は突然だった。レクは見たこともない凄まじい紅玉の剣を携えて戦いに行くという。私も頑張らなくては。
その日一日は、地獄のようだった。
大怪我をした人が次々と救護所に運ばれてくる。中には目を抉られたり、腹を貫かれたり、四肢を失った人たちもいた。わたくしは、卒倒しそうになったが、ぐっと足に力を入れてひたすら、治癒の光を詠唱し続けた。範囲を回復する魔法だけあって、救護所にいる人々を次々と癒すことができた。その効果は絶大で、失った部位も治癒できるらしい。怪我した本人も移送してきた人たちも涙をながしながら喜んでくれている。
こんなわたくしにもできることがあるのだ。わたくしは救護所にいる人々を癒し続けた。
◇
ロイ視点
それはまさしく戦神の如き戦いぶりだった。
レクが紅玉の剣を振るえばそれだけで、モンスター達は両断された。混乱し反撃してくるモンスターに対して冷静に回避すると複数体のモンスターの首が吹き飛んだ。
「ロイ。やはり中央が一番厚い。敵を縦断するぞ。ついてこい」
わたしはただただ必死になってついていく。
サイクロプスが暴虐的な棍棒を振るう。レクの姿が掻き消えてサイクロプスの首が舞う。オーガが獰猛にレク殿を襲おうとした。それよりも早く、レクはオーガを両断した。キマイラが俊敏さを持ってレクを引き裂こうとする。やはりレクが首を跳ねた。他のモンスターは雲霞の如く払いのけられる。
戦いになっていない。ただの蹂躙だ。一刻もしないうちにモンスター達の中央を駆け抜けた。レクはちらりと両翼を見渡した。
「魔将はいないみたいだな。左翼軍の方の被害がでかそうだ。いくぞ、ロイ」
「はい」
最強だなんて、大袈裟だと思っていた。しかし、最強という言葉ですらこの人の前では小さく見えた。
今度は一時間もせずに左翼のモンスターを蹂躙して、左翼軍と合流する。左翼軍の領軍と冒険者たちは怪物を見るような目でレクを見た。レクは言い放つ。
「ロイ。お前はここで残敵を掃討しろ。俺はちょっと走って右翼を潰してくる。ついてくるなよ。はぐれることになるから」
レクは何やら魔法を発動すると、風の速さで右翼へと向かっていく。ひとりで軍団と同等以上の力を持つ存在。そんなものがいるとは思っていなかった。
そんな存在が僕を強くしてくれるという。夢のためにも必ずついていこうと誓った。
◇
クーデリカ視点
次々と癒していくうちに、何故か聖女と呼ばれるようになっていった。いえいえ、これはただの治癒魔法を使っているだけですから。そんな名前で呼ばれるのはあまりにも恐れ多い。
だというのに、大怪我から復帰した人たちは涙を流してわたくしのことを聖女と呼ぶ。やめてください。教会と何かあってはいけない。本当にやめてほしい。
あるときから急激に怪我人が少なくなっていった。その人たちが言うには、戦神が戦場に現れたという。
紅玉の輝く剣を持って、次々と敵を屠りつづけているらしい。レクのことだ。レクが活躍していると聞いて一層奮起した。
一度モンスターの集団が救護所まで攻めてきたが、マリアンヌが引き付けているうちに、治った兵士さんや冒険者さんがモンスターを倒してくれた。
夕刻ごろにレクがロイを連れて救護所にやってきた。怪我でもしたのかと慌てたが、レクは手を振って違うと答えた。
「俺は最強だから、怪我とかしないし、ポーションを持っているから大丈夫だ」
かわいくない答えだ。なんでもモンスターの討滅を確認できたから迎えに来たらしい。そういえば、少し前から怪我人が運ばれてこなくなっていた。
救護所を出る。周りからは畏怖と敬意が入り混じった眼差しでみられる。
「見ろ、聖女様だ。なんと神々しい」「戦神もいるぞ、敵をほとんど一人で食いちぎったらしい。なんとも恐ろしい」「聖女の騎士様もいるぞ」「あー、俺もちょっとくらい怪我をして運ばれておけばよかった」「聖女様は可憐な方だったぞ」
顔から火が吹き出そうなくらい恥ずかしい。レクも同じなのかと思えば、なにやら考え込んでいるようで、周りの反応には頓着していない。やはりレクはふてぶてしい。
長かった一日がやっと終わった。
すっごい疲れたけど、ウィズタート家を既に追放された身だけれど、この都市を守れてよかった。
わたくしはなんとかして炎鹿亭に帰ると、マリアンヌに身体を拭いてもらってから、倒れこむように寝ることとなった。




