領主館でアリアと 亀
しばらくして気を取り直した俺は、領主館へと向かった。
もう顔見知りと言っていい門番さんに挨拶をする。
「こんにちわ。マークス様に会いに来ました」
「いらっしゃいませ。コレントの英雄殿。取り次ぎますので少々お待ちください」
そう待たされることもなく執務室に通された。それだけの信頼があるということなんだろう。
「こんにちは。仕事をしながらで失礼。魔軍の襲来があってからというもの休む暇もないほどに仕事ができてしまったので」
「こんにちは。こちらこそ、そんなにお忙しい中、面会をしてくださってありがとうございます」
「いえ、レク様はワタシのギリのムスコになられるオトコ。会うのは当たり前なことでしょう。今日はどうされましたか」
まだ、娘に婚約者ができたことに慣れていないらしい。言葉が所々片言だ。
「勘ですが、次の魔軍は帝国を狙う気がしています。なのでしばらく冒険の拠点を帝国に移そうと思います。今日はその報告を」
「勘……ですか。レク様はコレントの守り神。いないとなると住民が不安がるかもしれませんが、なんとかやってみましょう」
「一応、転移柱をアイスビッシュ砦に移動させてから出るつもりです。アイスビッシュ砦を落とされることがなければ、コレントも安心できるでしょうし、アイスビッシュ砦からコレントまで俺が走れば半日です。すぐに援護できます」
「それはよいことを聞いた思いです」
マークス様はうっすらと笑った。
「では、アリアと会ってから帰るので失礼します」
「アリアをヨロシクネ」
マークス様。また片言になっていますよ。
俺はマークス様の執務室を出ると、二階に上りアリアの部屋に向かった。ノックをする。コンコンコンと音がした。
「はい」
「アリア様、レクです。入ってもよろしいでしょうか」
「レク様?入ってください」
アリア様の部屋に入る。甘いにおいとインクの匂いがした。アリアもなにやら書類仕事をなさっていたらしい。アリアは羽根ペンを置くと身体をこちらに向ける。
「レク様。いらっしゃいませ。今日はわたしに会いに来てくださったのですか」
「もちろんです。アリア様に会うために領主館に参りました」
嘘ではない。
「まあ、嬉しい。せっかくですし紅茶を入れましょう。丁度休憩がしたかったところですね」
そういっていたずらな笑みを浮かべるアリア。
アリアが侍従を呼ぶと紅茶の道具を準備させる。
「レク様。よろしければ湯が沸くまで、何かお話をしてくださいな」
「分かりました」
何の話にしようかな。
「昔々あるところに、浦島太郎という名前の少年が年を取ったお母さんと一緒に暮らしていました。ある日、浜辺で悪ガキどもが一匹のカメをこづきまわしていたのをみて、やめさせて、海へと逃がしてやりました……」
アリアは話の落ちを不思議そうな顔をして聞いていた。
「どうして乙姫様はそのような箱を浦島太郎様に渡されたのでしょうか」
「さあ、何らかの理由で渡さざるを得なかったとかかもよ。なんにせよ約束は守りましょう。超常的なことにはかかわらない方が賢明ってことかもね」
侍従が紅茶の準備をして部屋に入ってくる。
アリアは手ずから紅茶を入れてくれる。おおー、紅茶の茶葉がホッピングしている。俺は興味深く見た。
アリアの入れてくれた紅茶を飲みながら話す。
「今日の話はそれだけではなくってね。勘だけど次に魔軍が狙うのは帝国だと思っているんだ。だからしばらく帝国で活動してみようと思う」
「それは……さびしいです」
「俺もアリアと一緒にいられないのはさびしいけど、まずは魔軍をやっつけないと安心して生活できないからね」
俺はアリアの手を取って、その手の甲にキスをする。
「アリア、俺は必ず帰ってくる。だから待っていてくれ」
「はい。わたしの英雄様できるだけ早く帰ってきてくださいね」
「頑張るよ」
俺は再び紅茶に口をつけた。紅茶は心地よい温度と香りで俺の口内を満たした。




