商会でサリアと
続いて俺はマーテル商会へと向かった。マーテル商会は休みなく開いている。
俺は入り口ドアをくぐると棚を整理している。サリアを見つけた。あちらもこちらに気がつく。
「どうしたの?レク?買い物」
「いや、サリアに会いに来たんだ」
サリアはまんざらでもなさそうな顔をした。
「でも私仕事中なんだ」
「ちょっと伝えておきたいことがあって」
「なあに?」
首を傾げながら問いかけてくる。ああ、婚約者がかわいい。
「勘だけど次は帝国の方に魔軍の襲来があるんじゃないかと感じてね。しばらく帝国に冒険に向かおうって思っているんだ」
「なんだ。そんなこと。わたしも来月から行商についていくから、コレントの都市にはしばらく帰らないわ同じじゃない」
サリアはカラッと笑う。こういってもらえるとありがたいなあ。うん、俺の婚約者は素敵だ。
「そういってもらえると助かるよ」
サリアはポーションの入った箱をよいしょっと持ち上げる。すかさず支える。
「べつに大丈夫だけど、ありがとう」
店の奥の倉庫にポーションの入った箱を持ってはいる。倉庫の一角に箱を置いた。
「ありがとう、はい」
サリアは両手を開いてそんなことをいってくる。抱きしめろということだろうか。
俺はサリアを抱きしめるとサリアも俺の腰を抱いた。
「ん……私のために無事のおまじないをしてくれてありがとう」
しばらく、そっと抱きしめあう。これを見越してポーションの箱を持ち上げたのだろうか。小悪魔かよ。
数分がそうやって過ぎだろうか、サリアが俺の腰をポンっと叩く。
「今度はわたしから無事のおまじないをしてあげる」
俺は両手を広げてサリアを待ち受けた。さあ、ばっちこい。
しかし、結果は違った。サリアはさっと俺の頬に手をあてると、口づけた。
「うおおう、びっくりした。サリア、ありがとう」
「そうよ。わたしの初めてなんだから感謝しなさい」
「うん」
サリアの少し恥ずかしそうにしていたが、すぐにそのそぶりをみせなくなった。
「さて、わたしはまだ仕事があるから。レクはレクのやるべきことをやりなさい。私も私のやるべきことをするわ」
そうして、サリアは商会の仕事に戻っていった。俺はぽーっとしながら、マーテル商会を出た。サリアとは幼馴染でたくさんのことを知っていると思っていたが、婚約者になってから新しい面をたくさん見せてくれる。幸せなことだ。
俺はこの幸運をかみしめた。