広場でイリスと
俺はコレントの都市に飛行石で転移していた。せっかく十個も手に入ったし、王国では飛行石の生産をしている。いずれは、戦場に転移柱を設置して、転移する部隊とか作りそうな勢いだ。ゲームでは滅んでしまっている王国だが、可能性は多くきらめいているように思える。少なくともその一つがここにある。
俺は異世界スマホをポケットに入れた。震えて伝達を知らせてくれるアイテムなので身につけておかなければならない。……戦闘のどさくさで壊れたりしないよね。
それにしても、今日は黄玉の月の16日、紫の日だ。
いままで、この世界は28日で虹に対応した曜日になっている。月曜日が赤、火曜日が橙、水曜日が黄、……日曜日は紫だ。今日はお休みの日となっている。
フレアは孤児院にいるのだろうか。中をのぞく。いた。
フレアはシスターテレサを手伝って、孤児院の掃除をしていた。
「フレア、帰ってきたよ」
「うん、レク。おかえりなさい」
帝国行きのこと、どう話すべきか。
「フレア、良かったら一緒に出掛けない」
「ダメ、今日中に片付けておきたい家事が多いから。また、夜に話しましょう」
「はい。わかりました」
フレアにデートのお誘いを断られた俺はしゅんとなった。
仕方がないので、冒険者ギルドに向かう。イリス姉さんはいるのかなあ。
俺は堂々たる態度で冒険者ギルドに向かう。その姿は女にデートに振られた男の姿ではない。
俺がギルドに入ったら辺りがざわついた。
「巨魔将のタイラントを倒した」「あらゆるモンスターを一撃で粉々にしたってよ」「私たちの都市の英雄だ」「でも、あの人の戦果を見たか、人間にできることなのか?」「レクだから仕方ねえだろ」「うん、仕方がない」「でも、我らがイリスさんを射止めたのはゆるせん」「ええ、それは許せないわ」うるせえ。
幸いなことにイリス姉さんはいた。受付に人が少ないためか、なにやら書類仕事をしている。イリス姉さん、俺がギルドに来た日はいつもいるのだけれど、ちゃんとお休みが取れているのだろうか。俺の中で、冒険者ギルドブラック説が浮上した。
「イリス姉さん!」
俺は奥にいるイリス姉さんに呼び掛けた。
「あら、レクくん。どうしたの」
「きれいな婚約者に会いに来るのは当然ですよ」
「もう、レクくんたら」
よし、まんざらでもなさそうだぞう。
「イリス姉さん、ちょっと時間を貰えませんか?」
「もうちょっとで休憩だから、そのときでよければ」
「はい、是非に」
俺は冒険者ギルドに併設された酒場に入るとカウンターに座ると果実水を頼んだ。
マスターがにやりとしていった。
「帰りな。ここは酒を飲む店だ。ガキの来るとこじゃねえ。帰ってママのおっぱいでも吸ってな」
「孤児院出身なんだから吸うおっぱいがねえ。はやく果実水を出せ。暴れんぞ」
マスターは本当に申し訳なさそうな顔をして、果実水を出してくれた。
「本当に済まねえ。いってみたかったんだ。これはおれのおごりだ。許してくれ」
「おう」
そのセリフはまたいずれ子どもの冒険者が来たときにでもいってくれ。ちなみにこの国の飲酒は12歳からとなっている。帝国は10歳から構わない。どちらにしても俺には関係のない話だ。
しばらく、果実水をちびちびしていると、イリス姉さんがきた。
ここら辺では人目がつくな。
「ちょっと歩きませんか?」
「うん」
イリス姉さんと近くの広場で階段に座る。
「イリス姉さん、俺が冒険者ギルドに来たときはいつもいるんですけど、お休みはとれてますか」
「うん。とってるよ。今日は魔軍の襲撃のモンスター討伐の清算や報告書作りのために来ているだけよ」
「よかった」
「なあに、そんな心配をしていたの?」
「心配しますよ」
俺はアイテム欄からサンドイッチを取り出してイリス姉さんと一緒に食べた。
「イリス姉さん。俺、帝国に行こうと思ってる。次に魔軍の襲来があるのは帝国なんじゃないかって気がするんだ」
「そっか。レクくんとますます会えなくて、さびしくなるなあ」
「ごめん」
しばらく無言でサンドイッチをモグモグする。
食べ終わると、ふたりでぼーっと群像を見つめる。
「イリス姉さん。ちょっと立って」
「うん?分かった」
俺は階段を一段、足りない。二段登る。
そうしてイリス姉さんの肩をつかむと、そのままキスをした。
「イリス姉さんが、待たせちゃうけど、帰ってくるから待ってて」
「わ、分かりました」
イリス姉さんは顔を真っ赤にした。
「それじゃあ、私、仕事に、戻るから」
「うん。またね」
「またね」
顔を真っ赤にして、職場に帰ったイリスは同僚のリールに散々茶化されるのであった。