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心配する周囲

 イリスは悩んでいた。

 兄弟のいないイリスにとって、レクはもし弟がいたらこんななんだろうなと考えさせられるかわいい存在だ。

 いままで、スライムを一匹か二匹を毎日必死に倒していたレクが、この2日間連続で五十を超えるスライムを倒して帰ってくるのである。

 突然の成長、中級冒険者の如き活躍に困惑があった。


 ギルド入り口のカウベルが鳴る。目を向けるとダイケルさんのパーティーが帰ってきたようだ。パーティメンバーは疲れているらしく、併設された酒場にいき、座り込んでいる。

 パーティリーダーのダイケルさんは依頼の報告のため、受付に来る。


 どしんと麻袋に入れられた何かが置かれた。

 そういえばダイケルさんはサイクロプスの討伐に向かったはずだ。ならこの中身はサイクロプスの眼球だろう。イリスはそっとギルドの鑑定部に麻袋を渡した。


「ダイケルさん。依頼達成おめでとうございます」

「おう、イリスの嬢ちゃん。ありがとうな」

「この都市の近くにサイクロプスが出るのも珍しいですが、大丈夫でしたか」

「戦い自体は問題なかった。俺のパーティーはすげえからな。けど、近くの村で聞き込みをしたが、最近ここいらでは見ないモンスターが出てきて大変だっていってたことが気にかかるな。俺たちが戦ったサイクロプスもやせ細ってた」

「つまり、モンスターの勢力図に変化があったということでしょうか」

「かもしれねえな。しばらくは、こういう普段は見ないような依頼が続くかもしれない。コレントの方じゃ何かなかったか」

「ありました。レクくんが戦士の寵愛を受けたらしく、この二日続けて五十を超えるスライム討伐に成功してるんです」

「そいつはすげえ!……しかしあのちびっこ冒険者がなあ」


 イリスはひらめいた。こうして心配し続けるよりも冒険者の先輩にレクくんのことを見てもらったらいいのである。初めてレクくんが冒険に出かけたときもそっと、見守ることを冒険者に依頼したものである。


「ダイケルさん、レクくんが無茶した冒険をしていないか心配なんです。明日、レクくんの依頼に同行してもらえないでしょうか?レクくんには明日承諾をもらいますから」

「明日かあ。今夜はこれからパーティーメンバーとの打ち上げなんだがな。分かった他ならぬちびっこ冒険者のためだ。しばらくは冒険も休みだしな。明日の同行は任せておきな」

「ありがとうございます」


 ダイケルはメンバーに合流すると、豪快に酒をあおり、肉を喰らった。……明日大丈夫ですよね?



「それで、今日はダイケルさんと一緒に冒険をすればいいんですか?」

「おう。とはいえ俺は見ているだけだ。ちびっこ冒険者がどれくらいできるようになったか見させてもらおうと思ってな」

「イリス姉さんは心配性だなあ。分かりました。ダイケルさんも冒険でお疲れでしょうが、今日一日よろしくお願いします」

「おう」


 苦笑するレク坊。……こいつこんな笑い方するような奴だったか。イリスの嬢ちゃんたっての願いとあって受け入れることを決めたようだ。


「それじゃあ、行きますか」

「行くか」


 都市の門を出て、妖気の森へと向かう。横目にレク坊の様子を見るとなんの不安もなさそうな顔をしている。これがスライムに苦戦してた奴の表情か?以前までのレク坊に対してなら油断をするなといってやるところだが、イリスの嬢ちゃんからスライムを百匹以上既に討伐しているらしい。なら、この余裕も当然だろうな。


 しばらく都市の西方へ歩いていると紫色の森が見えてきた。相変わらず気味の悪い森だ。レク坊は躊躇うことなく足を踏み入れた。


 早速、スライムが現れた。さあ、どうするレク坊。


 レク坊は、スライムと相対して小盾を構えた。受けの体制だ。スライムの突進がきた。レク坊は突っ込んできたスライムをあっさりと小盾で弾き飛ばすと、転がるスライムに短剣でとどめを刺した。


 それからは同じ光景が続いた。スライムが現れると小盾で弾き飛ばし、短剣でとどめを刺す。

 ……俺はいったい何を見ているのだろう。以前までのレク坊の戦い方は泥臭い戦いだった。必死にスライムの突進を避けて、必死に短剣を振るっていた。それがこの成長、スライムなんぞ敵ではないとばかりに刈り取っていく。


 俺が呆然としていると、致命的なミスを犯してしまった。


「坊主、危ない!」


 レク坊の不意を突いて後ろからホーンラビットの突進があったのだ。俺にはどうしようもできず、そのまま貫かれるレク坊を幻視した。

 しかし、レク坊は見えているように、ホーンラビットの一撃を躱すと、そのまま銀閃で首筋を切り捨てた。

 唖然として見ている俺をよそに、レク坊は「おっホーンラビットだラッキー」などと呟いている。


 冒険者としての底が見えない。レク坊は終始余裕で一撃も受けていない。逆に相手に対して常に致命の一撃を加えている。少なくともイリスの嬢ちゃんの心配は無用なものだろうと思った。


 レク坊は冒険を終えると上機嫌でコレントの都市へと帰っていく。昨日までは面倒を見てやらないといけない冒険者だったんだがなあ。

 レク坊はメインストリートと通り、冒険者ギルドに入ると早速報酬をもらって孤児院へと帰っていった。


 イリスの嬢ちゃんが心配そうな顔をして尋ねる。


「それで、ダイケルさん。レクくんはどうでした。無理はしてなさそうでしたか」

「無理どころか、終始余裕で戦っていたよ。俺達でも同じ成果は挙げられても、あんなに華麗に戦うことはできないだろうな」

「華麗ですか?レクくんが」


 ピンとしていないようすのイリスの嬢ちゃん。そりゃあそうだ、俺だって聞いただけじゃ、あのレク坊があんな風に戦えるようになるなんて信じられないだろう。


「ああ、スライムとホーンラビットの一撃を躱し、弾いては一撃で倒していた。嬢ちゃんしているような心配はいらないようだ」

「……あのレクくんが」

「……ああ、あのレクが、だ」


 呆然とした様子で報告を聞くイリスの嬢ちゃん。俺も想像していなかった結果にいまだ実感がない。


「レクの奴は大きな使命を帯びているのかもしれねえな」

「……使命、ですか?」

「ああ、昔の御伽噺にもあるだろう。人類が滅亡の危機に際したとき、女神が現れた。女神は冒険を重ね人類の生息域を取りもどしたことを」

「レクくんが男神だと?」

「そこまでは言えねえさ。けど、あれは俺の知っている戦士の寵愛じゃない。もっと別のものだ」

「……そうですか。そういえばレク坊とは、呼ばないんですか」

「もう坊とは言えねえな。死んでもレクさんとは呼んでやらんがな」


 互いに苦笑する。


 なあ、レク頼むから死んじまうようなことはないようにしてくれよな。

 あまりのレクの成長に、試練という言葉が脳裏から離れなかった。

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