試し切り
次の日、俺は装備の確認のために冒険者ギルドに向かっていた。一度も使っていない武器で決戦の日を迎えるわけにはいかない。
俺が冒険者ギルドの入り口をくぐると、朝張り出される依頼を目当てに多くの冒険者がいた。イリス姉さんを含めた受付の前に行列ができている。
イリス姉さんこちらに気がつくと「レクくん」と呟いて、慌てたように口をつぐんだ。その指には渡した指輪が光っている。
周囲からギリギリギリと歯を食いしばる音がした。食いしばりは歯によくないから気をつけてな。俺は優越感に浸っていた。屑である。
今日は碌な依頼がない。妥協して近場に出たサイクロプスとホブゴブリン達の討伐依頼を受注することにした。
イリス姉さんの列に並ぶ。マップを開いてモンスターの出現個所にピンを刺しているとすぐに順番が来た。
「レクくんの依頼を受理しました。レクくんがんばってね」
なんだか澄まされた態度をとっていたので、依頼票を受け取ろうとするイリス姉さんの腕の甲を指で撫でた。
「ひゃん。もうレクくんこんないたずらしちゃだめよ」
「はーい」
周囲からまたギリギリギリとした音がする。中には血涙を流している男女がいた。やりすぎただろうか。まあ、いいか。
俺はさっさと帰ること帰ることができるように、早速依頼に取り掛かった。
北方へと向かっていく。
魔軍と遭遇することはなかった。あの日魔軍はどこから来たのだろうか。
常識で考えればアイスビッシュ砦を通過してきているのだろうから、もしかしたら明日の襲撃自体起こらないかもしれない。
結局のところ、おれはあの日の被害者でありながら、あの日のことを全然わかっていないのだ。
そんなことをつらつら考えていると、ホブゴブリンとゴブリンの集団がいた。これが依頼の集団らしい。
レベル差を考えて、こちらから切りかかる。試しにホブゴブリンの身体を袈裟切りにした。一瞬だけ何かに当たる感触がした。紅玉の剣は薄い紙を引き裂くかのようにホブゴブリン切った。遅れてホブゴブリンの身体が斜めに落ちる。
レベルと装備がそろえばこんなことになるのか。
仲間のホブゴブリンが一撃でやられたことに動揺している隙に他のホブゴブリンを適当に切り捨てた。リーダーをやられたゴブリン達は怯えている。当然、逃がすつもりはない。
すごい装備だった。紅玉の剣は翡翠の剣をはるかに超えた攻撃力をもっているし、持っている感じ魔導体としても使える。俺はショートスタッフをアイテム欄に仕舞い込み、ファイアボールを唱える。発動した。やはり杖としても使えるのか。
防具も強力だ。試しにゴブリンの一撃を何もせずに受けてみたら全く衝撃がなかった。ダメージを与えることができないというやつだ。お返しに竜の小盾でシールドバッシュをするとゴブリンは砕けて飛んでいった。スプラッタである。
つづいて、ボスへの戦闘力を図るためにサイクロプスを探した。
奴は生意気にも依頼票に書かれた生息域から少し移動していた。
サイクロプスはこちらに気づいている。だが鈍重すぎる。
俺は探すことになった苛立ちを込めて奴の足に紅玉の剣を振るった。
サイクロプスの足が砕けた。バッキバキである。俺は倒れこんだサイクロプスの首に近づくとそのまま首を跳ねた。
性能はこちらの想像を超えてはるかにいいらしい。
装備の試しは十分だろう。万が一魔軍の襲撃の日程がずれていてはいけない。
まだ日は頂点にも登ってはいなかったが、コレントの都市に戻ることにした。
さあ、本番は明日だ。全力で挑もう。