準備
ポーション類を購入するため、マーテル商会に向かう。入り口ドアをくぐると、こちらに気がついたサリアが笑顔で手を振ってくれる。周囲にいた男どもの顔が緩んだ。うへへ、あの子。私の婚約者なんですよ。俺は優越感に浸った。
「いらっしゃい。レク。今日は何を買いに来たの」
「ポーション類の補充に来たんだ」
「ふーん、私に会いに来てくれたんじゃないんだ」
「買い物に来たんだけど、サリアに会えて嬉しいよ」
「ばーか」
俺は買えるだけのポーションを購入し、アイテム欄に詰めていく。
「そんなにポーションを買ってどうするの?」
「大きな戦いがありそうな気がしてね。その準備」
「超級冒険者の勘ともなると当てになりそうで怖いわね」
「俺も外れることを祈ってるよ」
ポーション類がアイテム欄の上の方に来るように『アイテム』を開いて、ストレージの整理をする。
これで良しっと。
「じゃあ、俺は行くから」
「ん。またね」
「またな」
さて、後は領主館か。
俺はメインストリートを進んでいき最奥にある領主館へと訪問した。
「すいません。冒険者のレクです。マークス様はいらっしゃいますか?」
「レク様。お久しぶりです。お取次ぎをいたしますので少々お待ちください」
再びアイテム欄を開いて、投擲する武器がアイテム欄の上の方に来るように整理する。
「お待たせしました。マークス様が執務室でお待ちです」
「ありがとうございます」
俺は一階にある執務室に通される。
マークス様は執務室に座られてお待ちになっていた。
「やあ!レク殿。ミスリルプレートへの昇進おめでとう。魔将を討ち果たしたときいたときからそうなると分かっていたが、いざ超級冒険者を目の前で見ると胸が躍るようだ」
自分のことではないのにすっごい喜んでくれている。あとテンションが何故か高い。
「それに、王女様ともご婚約されたようで、コレントの都市とから君のような英雄が出てきて、私も鼻が高いよ」
「ありがとうございます」
そして、わっはっはと笑われるマークス様。俺も合わせてわっはっはと笑う。
マークス様は顔を引き締められた。
「さて、レク殿。今日はどのようなご用件で当館に来られたのですか?」
「ええ。明後日の魔軍の襲撃のことで結局領軍がもどられたかも、伺っておりませんでしたから確認にと思いまして、失礼ながらお時間を頂きに参りました」
マークス殿は納得されたようにして、椅子に座られた。
「レク殿のお陰でアイスビッシュ砦を攻略できたことで、我が領軍も都市に戻ってくることができました。また、うちの指揮官に魔軍の襲撃ある前提で準備をさせておる次第です」
「つまりは準備はばっちりと?」
「ええ。私たちにできることはやりました。後は攻めてくる魔軍次第だと思います」
マークス様はテーブルの上で指を組んで答えた。指を組むその姿はまるで祈るようにも見えた。
「相手に強いのがいても私が受け持ちます。そのため、強くなりましたから。領民の避難はどうなっておりますか?」
「何らかの事情で避難しなければいけなくなったら、鐘を鳴らすので教会に避難するように一週間ほど前から布告を出しております」
ギルドか街の掲示板を見たら、そういった情報も入っていたのか、迂闊だったな。
「マークス様。私は遊撃としてもっとも激しい戦場を渡り歩くつもりです」
「そういうと思っておりました。指揮官にはそれ込みで依頼を立てさせております」
「戦闘時の冒険者の扱いはどうなっておりますか?」
「即緊急依頼を出せるようにしております。領軍との連携は難しいでしょうから、城壁の一部分を冒険者に任せる形になると思います」
「わかりました。お忙しい中、お時間をありがとうございました」
「いえ、英雄殿のために割く時間です。むしろすり合わせができて有意義でした」
領主様からの全面協力を得られている。あの日の出来事は絶対に繰り返させない。それが、きっと俺とレクが混ざり合った意味だろうから。俺は拳を握りこんで決意を新たにした。