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式典

 俺は騙されたのだ。だが、全ては遅かった。すべてを投げ出して逃げたかった。

 ユリア姫様を乗せた馬車が王都の門をくぐった後、俺はお役御免ということで立ち去ろうとした。すると、ユリア姫様が馬車の窓を開けて言うのである。


「今回の式典はアイスビッシュ砦攻略の勲功を立てたものを称える式典です。レク様も参加しなければなりませんよ。あと、ローレン将軍なら先に王都入りしていますよ」


 逃げたかった。ゲームの画面ならいざ知らず、多くの人々に囲まれる自分を考えると怖い。人混みが嫌いなのである。人が多すぎるとテンションが下がるのである。


 これならもっと多くの依頼を受けて逃げ回っておればよかったのか。恐らく俺が依頼に出た後すぐにコレントの都市にも、招待状がきていたのだろう。


 式典の参加人物を同行させて、ついでに護衛にする。ユリア姫様の意外なしたたかさを見た思いだ。


そのまま一緒に王城に行く。状況のせいで初めてのお城に感激する暇がなかった。


 ユリア姫様はユリウス王子に挨拶に行くといい、俺は貴賓室へと案内された。

 今となっては懐かし……くはないな。アイスビッシュ砦攻略は一週間ほど前のことだ。煙草の匂いがした。ローレン将軍だ。


「お久しぶりです。ローレン将軍」

「久しぶりというほどでもないだろう。レク殿」


 まあね。戦場では切れ味を感じさせたローレン将軍もここでは何故かしなびた印象を感じさせた。


「随分とお疲れのようですね。ローレン将軍」

「アイスビッシュ砦の防衛線の目途たったかと思ったら、王都に呼ばれて砦での話を散々させられてこのざまだ。これからのお前ほどではないさ」

「私は……諦めていませんよ。ええ」

「さっさと諦めてしまった方が利口だと思うがね」


 絶対嫌だ。あのマフィアのボスみたいなローレン将軍が青菜に塩のようになるほどの地獄を俺は耐えられない。最終的には本気で走って逃げよう。


「それで式典はいつの予定なのですか?」

「今日、これからだ」

「はい?」


 俺は侍女たちに装備をはぎ取られ、陛下の前に出ても恥ずかしくない格好になるまでひたすら着替えさせられた。……もうすでに疲れた。


 ローレン将軍と貴賓室を出て歩く。城内を歩く兵士、メイド、役人、貴族がじっと目を凝らすようにこちらを見ている。

 何見てんのじゃおんどりゃあ。心の中だけでけんかを売った。


 憂鬱な気持ちになりながらも、ローレン将軍について歩いていると、目的地についたらしい。今まで見た中で一番豪奢な扉があるところだ。そして俺にとってはあっゲームでボス戦があったところだというイメージだった。


「お前なら問題ないと思うが、出来うる最大限の敬意を払え」


 ローレンさんがそういうと豪奢な扉を押し開いた。目の前に赤い絨毯が敷かれた床があり、一段と高いところに玉座、そしてそこに座る王の姿があった。


 両側には、警備であろう兵士たちと楽器隊、金髪と金の瞳を持つ者たち王族達だ。ユリア姫様の姿もある。さらに身分が高そうな貴族たちが並んでいる。


「アイスビッシュ砦の指揮を執ったローレン・レントと、砦の攻略において最大の活躍をした冒険者レクの御成り!」


 楽器隊が荘厳な音楽を鳴らす。俺はローレンさんについていくので精いっぱいだった。ローレン将軍が玉座から5メートルほど離れたところで膝をついたのでその横に膝をついた。ローレン将軍が頭を下げる。真似して頭を下げる。苦手だったダンスの授業を思い出す。周りを見て真似してたなあ。現実逃避。


「突然の呼び出しに苦労しただろう。面を上げるといい」

「「ははっ」」


 そういわれたので面を上げると陛下の顔が見える。四十歳くらいだろうか。王族の証である金髪、金瞳。高貴な顔立ちをしている。ユリア姫様のお父様とあってやはり美男児だ。


「ローレンよ、アイスビッシュ砦攻略という無理をよくこなしてくれた。あそこはこの大陸にとって最も重要な拠点だからな。本当によくやってくれた」

「ありがたきお言葉」


 王がこちらを見られる。


「冒険者のレクよ。改めてみると小さいの。今年でいくつになった」

「9歳になりました」

「本当に若い。このようなことがあるのか」


 挨拶が済むと、陛下はアイスビッシュ砦でのことをお聞きになりたがった。

 ローレン将軍がアイスビッシュ砦攻略について詳細に話していく。


「単身でアイスビッシュ砦乗り込み城門を開き、さらには異形の騎士とサイクロプスを打ち倒し、最後にはあの狂魔女クライディアを倒すとはな。素晴らしい冒険者のようだな」


 そう聞くとすごい冒険者のように思えるが、あのときはひたすら目の前の敵を切っているだけだった気がする。


「アイスビッシュ砦の攻略の指揮を執ったローレン将軍には、軍団功績章を。単独での作戦を成功させ、数多くの魔物屠り、魔将を倒した冒険者レクには、銀翼賞と双竜賞を授与する。またこの功績を持って我が国は冒険者レクを超級冒険者に推薦することとする」


 再び楽器隊が荘厳な曲を演奏する。脇から身分の高そうな貴族が出てきて、胸に勲章をつけてくれた。しばらく場に余韻が残る。


「それに冒険者のレクには礼を言いたかったのだ。竜の血の献上、王冠の奪取我が国はおぬしに幾度となく助けられておる」


「よって我は冒険者レクに栄誉と実益で応えねばならぬ。金貨四千枚と王の直轄地のひとつであるカウネルを譲渡する。今日から冒険者レクはレク・カウネル男爵だ」

「ははっ」

「レク・カウネルよ。何か願いがあればいってみよ」

「ははっ御覧の通り、子どもの身、領地を運営できるだけの人材を派遣していただきたく存じます」

「わかった。ダーテルよ。その人材を見積もって派遣してやれ」

「ははっ」


 ただ流されていただけだが、領地とお金と爵位を手に入れたらしい。

 ただ、横でローレン将軍が笑っているのが印象的だった。

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