エルダーリッチ戦
戦いはともに魔法の詠唱で始まった。敵の魔方陣の色は水色。氷柱砕だろう。俺が選んだ魔法は移動速度を上げる疾風だった。
魔法の規模がこちらの方が小さいため、こちらの魔法が先に発動する。
残った時間で飛閃を放つ。ダメージはごく少量だろう。エルダーリッチはこちらをあざけるようにかたかたと口を鳴らした。
足元に魔方陣が展開される。ハヤブサの指輪と疾風の魔法のおかげで余裕を持って地面から飛び出ては砕ける氷柱を回避することができた。
エルダーリッチの眼下には漆黒の闇があるだけだったが、疎ましいと思っているように見えた。再び魔法の詠唱が入る。こちらは選んだのは聖属性付与、あちらが選んだのは雷撃か。
今度もこちらの詠唱のほうが早いので残った時間で聖属性の乗った飛閃を放つ。苦悶の声を上げる。雷撃が発動する。俺は地面をよく見て。地面に電気が奔ったところから飛び退いた。
三度、魔法を唱えだすが、付き合ってやる義理はない。油断しているエルダーリッチ相手に大跳躍からの上段切りをかます。エルダーリッチは上空にいることが耐えられなくなったかのようにふらふらと地面に堕ちた。
ローブを引っ張りエルダーリッチ引き倒す。アイテム欄をいじりながら聖属性付与を唱える。そうして二十を越える槍を両手に抱え込んで聖属性を付けて叩きつけた。痛みに絶叫する声がした。
俺の『スキルツリー』に持っている武器に属性の付与という説明文があったからできるかなとおもったが、複数の武器への付与は可能らしい。
これなら大分敵体力を削れたはずだ。聖属性の残る翡翠の剣で追撃をしようとするとその姿が掻き消えた。
本来であれば不可避の一撃であっただろう。エルダーリッチは漆黒の闇を宿す手で俺の背中に触れようとしていた。そこは俺の心臓のある場所。即死魔法の死手だ。
ダッシュ回避した俺は今回偶然ジャスト回避が発動した。そのその隙を逃すはずもなくその頭蓋目掛けて連撃を叩きこむ。
再びエルダーリッチは魔法を唱える今度は暴嵐か。
ひたすら、聖属性を乗せた飛閃を放つ。魔法は全力回避。
この繰り返しが続けられる。
日も沈んだ頃。逆転の一手として死手を選んだエルダーリッチを緩やかになった時の中でその頭蓋を叩き割った。
闇に溶けるように消えるエルダーリッチ。
呆然とする邪教徒の教主(仮)と護衛隊。
俺は『パーティー』からレベルアップをしているのに喜んでいる。ついに60の大台に乗った。
俺は護衛隊に近づいていく。護衛隊に俺が近づくことでびくっとしたような気がするが、勘違いだろう。
「終わりました。今日は遅いですがどうしましょう」
「え、ええ。本日はここで野営いたしましょう。姫様にも許可を取ってきます」
「分かりました」
ふーっ。流石に長時間の戦いは疲れるな。エナジードリンクを飲みたい気分だった。
◇
「姫様、本日ももう遅いですし、こちらでの野営の許可をお願いします」
「許可します。……それでヴィンス。あの戦いを私も馬車の中から見ておりました。あなたは我が国の英雄殿をどうみますか」
「どうも……神話の英雄としか。普段話している分には穏やかな雰囲気すら感じさせるのですが戦いとなると雰囲気一変、敵を打ち倒す機械のようです。無駄なく的確。遠くから見ておりましたが、エルダーリッチはわが軍を以ってしても相手にはならないでしょう。それをおひとりで討伐なさるとは……言葉もありませぬ」
「そうですか。ありがとうございます。ヴィンス、エルダーリッチが使う魔法は見たことがあるものがありましたか?」
「いくつかは。わが宮廷魔導士たちにも雷撃、暴嵐や氷柱砕を使うものがおりますので」
「そのどれもレク様は的確に避けていらしたわ。どこかで見たことあるかのよう」
「あの英雄殿なら、どこかでエルダーリッチと戦ったことがあるといっても驚きません。戦いになる前にエルダーリッチと戦うことになったと淡々と仰っておりましたから」
「そういえば、あの邪教徒はどうしたの」
「エルダーリッチが倒れた後、英雄殿が逃がしました。」
「レク様は、あの邪教徒となにを話していたの」
「分かりません。ただ話し合いの結果、エルダーリッチをこちら全体に差し向けるのではなく、一騎打ちで戦うことを承諾させたことは間違いないようです。逃がした理由を尋ねると、今は逃がした方が邪教徒に大きなダメージを与えられるからとのことです」
「あのエルダーリッチがこちらも狙っていたら、私たちの命はなかったでしょうね。逃がした方がいいですか……それにしてもレク様のことを知らなすぎます。もっとレク様について知るべきでしょうね」
「ええ。彼が何を好んで、何を嫌うのかは知っておいた方がよいと存じます」
「ありがとうヴィンス。野営の準備をお願いします」
これからの時代、ユリウスお兄様がいうように魔軍との戦いはきっと来ることだろう。そのとき戦いの中心はレク様となることだろう。
なんとかしてレク様のことをもっと知らなくちゃ。ユリアはそう思った。