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邪教徒との対話

 都市ナールトの領主館で二人の男が向かい合っていた。

 ひとりは領主ルビビ・ナールト。もうひとりの男は額に特徴的な紋様が刻まれた男だ。


「いったいどうするというのだ!お前が雇った選りすぐり賊どもは何一つできずにやられてしまったではないか」

「落ち着かれてはいかがですか、ルビビ・ナールト」

「落ち着いてなどはいらねぬ。あの忌々しい王子がこのまま王位に立ってみよ。我々栄光ある貴族がどのような思いをするのか。考えるだけでもおぞましいわい」


 ルビビは肩を怒らせてそういう。本来であれば、長子ユリウスは病死するはずだった。だから第二王子に、金を送り腐らせ。王に着いた暁には甘い汁をすすれる予定だったのだ。だというのに、どこからか奇跡のように万能薬の竜の血が手に入り、病気が快癒した。長子ユリウスが王となった暁には魔軍との対決などという妄想を掲げて我々貴族から絞り上げることだろう。


「随分と落ち着いている様子だが、どうするつもりだ」

「森賊がかなわなかったのは予定外ですが、所詮は人は人。大いなる力にはかないませぬ」


 禍々しく笑う男。彼からすればこのような世界のこのような小さな都市に固執するこのルビビも滑稽に映る。


「ええ。すべては神の御心のままにことが進むのです」

「どうだかな。お前たちも第二王子と繋がっている。だというのに、ユリウスの病気が快癒して、王位継承に最も近くなったこと、グリフォンに襲わせるつもりが王冠を奪っただけになったこと、その王位継承権を示す王冠が今まさに王都にむかっていることすべてが神の御心とやらに背いているように見えるがな」


 彼は吹き出しそうになった。人の世がなんだというのだ。神のお力を知らぬものだからこんなことをいえるのだ。神が目覚められれば、王都などすぐに廃墟と化すだろう。だれが、どのような力を持とうがどうでもいいことだ。


「大いなる流れは何も変わってはおりませぬ、問題はないでしょう」

「はん。王都に着くまでにそれを証明してくれればよいがな」

「良いでしょう。お姫様に追いつけるだけの早馬を用意してください。神の奇跡の一端をお見せすることができるでしょう」


 ◇


 森賊を退治してからしばらくは安穏とした時間が流れた。

 俺は『マップ』を見た。このペースなら夕刻ごろには王都に着きそうな感じだ。


 後ろから早馬がやってくる。こちらには王家の紋章が入った馬車があるのにも、ペースを落とす気配がない。明らかに尋常ならざらない状況だ。俺は最後尾へと移動した。


 馬上の人物が見えてきた。……ああ。邪教徒だ。

 邪教徒は上から目線で言い放ってきた。


「大いなる流れも分からぬ愚か者達め、ここで躯を晒すがいい」


 あれ、こいつの顔に見覚えがあるな。もっと老けていたはずだが、邪教徒の教主ではないだろうか。……少し話してみるか。


「護衛長、何の用か誰何してくる。こちらで待機していてくれ」

「冒険者様、一体何を、彼は邪教徒です。話し合いなど通じません」

「まだ、なにもしてないよ。話すだけだ」

「いえいえいえ、死ねって言っていますよ」

「大丈夫、大丈夫」


 俺は適当なことを言って邪教徒の教主に近づいた。護衛長は困惑している。

 邪教徒の教主(仮)も困惑している。


「なんだ?大いなる流れを悟って自ら命を絶ちに来たのか」

「すまん。聞きたいんだがその大いなる流れってなんだ。魔王が復活してあんたが魔王に殺されて、その後魔王も討ち果たされる流れのことか?」

「そのような虚言。嘘を見抜く我が眼に通じ……嘘ではない……」

「いや、魔王を復活させるのがあんたらの教団の目的なのは知っている。そのために各国で蠢動していることも。でもあんたらのこの世の利益ってなんなんだ。この世の終わり?魔王は俺か誰か(主人公)が討つからこの世はつづいちゃうよ」

「私は……魔王さ、復活させて、ともにこの世の終わりを……」

「見れないよ。魔王さん君をぷちっと潰しちゃうから」


 プルプルと震える邪教徒の教主(仮)。嘘を見抜く眼を持っているそうだから、俺の言っていることを混乱しているのだろう。


「……しかし、大いなる流れが長子ユリウスを王にさせるなと……」

「うーん。そのための手段は?」

「……エルダーリッチを召喚できる力を魔王さまからいただいております」

「分かった。こうしよう。君はエルダーリッチを召喚する。そのエルダーリッチは俺と戦って、俺が勝ったら教団の活動をやめよう。だって、どうせ働くなら、魔王のために働くんじゃなくて、自分のために働きな。人の嘘が見抜けるんだっけ?すごい能力じゃん。自分のために使いなよ」


 首を傾げながら離れていく邪教徒の教主(仮)。俺は護衛長に話しかけた。


「話してみたら、案外話が通じたみたいです」

「ええっ」

「今からエルダーリッチを召喚して、俺と戦って、俺が勝ったら邪教徒をやめるそうです」

「ええええええっ!え、エルダーリッチなんて人が勝てる存在ではありません。今すぐ逃げるべきです」

「本来なら、この馬車を狙ってエルダーリッチを召喚していたところを一騎打ちに持って行けたんだよかったと考えましょう」

「そう……ですね。勝利を祈っています」

「はい。お任せください。大魔法が飛んできます。十分に離れてくださいね」


 護衛隊に被害は出ない。将来の邪教徒の教主(仮)を説得できる。俺はレベリングができる。一石三鳥である。


 朗々と邪教徒の教主(仮)の詠唱がされる。雲が逆巻く。強い風吹く。血で描いたような不気味な魔方陣が空に描かれえた。

 王冠をかぶった黒いローブを羽織った骸骨が君臨する。この場の絶対者として。

 本来であれば、そう振舞えただろう。あれは一介の兵士では戦いにすらならぬ強者。

 でも、俺がいる。俺はそっと『スキルツリー』を開くと『聖属性付与』の魔法を覚えた。

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