港町での出会い
俺は北に赴き、川の近くにサイクロプスを発見した。水を飲んでいる様子だったので、大跳躍して後ろ首に翡翠の剣を突き刺すと、そのまま力に任せて剣を振りぬいた。
崩れ倒れるサイクロプス。もうレベルが違いすぎて苦戦することはない。
サイクロプスの眼球をアイテム欄に仕舞い込み、港の都市ナールトに戻る。
早速冒険者ギルドに向かった。厄介ごとに巻き込まれる前にサイクロプスの討伐証明をしてコレントの都市に帰ろう。
冒険者ギルドに入って、先ほどの受付嬢のところに行く。
「あっ冒険者さん。丁度良かった。王冠の依頼を出された方が別の依頼をしたいと仰っておりましたよ。お会いになってください」
うん。お会いになられますか?ではなくお会いになってくださいといったあたりに厄介ごと匂いがする。とりあえず麻袋を出してその中にサイクロプスの眼球を入れてカウンターに置く。
「……はい。会います。でもその前にサイクロプスを討伐してきたので報酬をお願いします」
「ギルドを出られてから、まだ一刻も経っていないというのに、グリフォンを倒される方はやはり違うんですね」
麻袋の中身を知っているのだろう。つまむようにしてギルドの鑑定部に渡す。
「それで、どこでお会いすればよろしいのでしょうか?」
「この都市の領主館にいってください。ここから出て見える、大きなお屋敷が領主館です。あっサイクロプス討伐の確認がとれたようですね。こちらが王冠の奪還の分とサイクロプス討伐の分を合わせた報奨金です」
ずしりとした重さのお金が入った袋を渡される。……受付嬢は厄介ごとを任せることができたぞと安堵した表情をしている。う、うらやましい。
俺は、大分重い気持ちになりながら、領主館へと向かうのであった。領主館は効いていた通り、冒険者ギルド出たら遠くに大きな建物が見えたのですぐに分かった。
仕方がない。行こう。直接会ってお礼を言いたいだけなんだ。そうなんだと自身に言い聞かせて足を動かした。
領主館は港町を見渡せる小高い丘の上にあった。ナールトの領主館は小さいお城といった感じである。整えられた中庭を中心にコの字をしている。
正門に回って門番さんに取次ぎをお願いする。
「冒険者のレクと申します。ご依頼があるとのことで伺いました」
小さな冒険者が来たぞと意外そうな顔をする門番さん。
「お話は承っております。レク様ですね。一応冒険者プレートの確認をさせていただいて構いませんか」
俺は皮鎧に隠れていた。シルバープレートを取り出して、門番さんに見せる。
「確認が取れました。少々お待ちください。おーいヨード!」
門番さんは門の中にある番人小屋に声がけするとなかからそばかすの目立つ少年が走ってきた。
「はい!ロットさん。どうされましたか?」
「冒険者さんが来られた。お客人にご案内するように使用人に取り次いでくれ」
「わかりました」
門番さん―――ロットさんが門を開けてくれる。ヨードさんが中庭を通って中央館へと案内をしてくれる。時間が許されるなら、中庭の散策でもしたいところだが、依頼があるとのことだし、穏やかなことにはならないだろうな。
「少々お待ちを」
ヨードさんがドアベルを鳴らすと、すぐにメイドさんが玄関を開けた。
「冒険者さんが来られました。案内をお願いします」
「かしこまりました、冒険者様、こちらへどうぞ」
一階のすぐ近い部屋に案内される。二つのソファーの間に大きな机のある部屋だ。客間だろう。窓の外には海に出ている船が見える。この時代は海も人類の行動範囲だったんだなあ。ゲームでは海に入ると数秒で死んだものだ。俺も、海には入らないようにしよう。
時計の長針が半周したころに誰かがこの部屋に入ってくる気配がした。
「失礼いたします」
黄金の髪と瞳を持った女の子だった。この世界において黄金の髪と瞳の両方を持つということは、意味がある。―――王族であるということである。
俺は即座にソファーから降りて膝をついた。こういうとき声を掛けられるまで顔をあげてはいけなかったはず。
俺はじっと頭を下げ続けた。
「面を上げてください」
俺は顔を上げた。お姫様だ。絵本のお姫様がそこにいた。ふわふわとした金髪に黄金の宝石のような瞳、白皙の肌。全身からふわふわとした可愛らしさというオーラが発されている。何だったら後ろに花が咲いて見える。
俺は見とれるよりも、恐怖した。
強大な権力者だ。特にこの時代においては。ゲームの時では人類滅亡の危機に瀕していたので、王族とともに戦う場面もあったが、まだ人類が繫栄している言える今は無礼討ちが本当にあり得る。
「レク様、そのように怖がらないでください。私はユリア。貴方にお礼を申し上げにそしてお願いに参ったのですから」
「……どうして私の名前をご存じなのでしょうか」
「翡翠の剣のレク様といえば、いまや王都で知らぬものはおりませぬ。なんといってもアイスビッシュ砦において比類なき活躍と魔将を討ち果たした英雄殿ですもの。第6王女の私よりも権力を持っているといっても過言ではありませんわ。ですから、そのように緊張なさらないで」
「では、遠慮なく座らせていただきます」
俺は止めていた息を吸い込んで、ソファーにそっと座った。この時代、だれもが人類の敗北を予見している時代だ。魔将を打ち倒せるほどの冒険者の価値は非常に高い。過度な遠慮は向こうも困るだろう。
あまり調子に乗らないようにしよう。
「まずはレク様、我々王族が奪われてしまっていた。王冠を奪還してくださってありがとうございます。何故か、王都の近くにグリフォンが現れて王冠を奪っていったのです。あれは次期王となるものの象徴、失われれば少々まずいことになっていかもしれませんわ」
何故かの部分を強調していった。多分本人か周りの人も予想がついているのだろう。
「グリフォンはゴブリンを好物として、追いますからね。焼いたゴブリンを縄に着け、馬で引き回せばある程度誘導することもできます。王都の近くにこの近くの廃塔のグリフォンが出たとなると、その線も疑うべきでしょう」
ユリア王女は目を輝かせて頷く。
「まあ、お話が早くて素晴らしいですわ。ユリウスお兄様のお命が奪われなかったのは良かったことですが。この王冠近くある式典までにユリウスお兄様にお渡ししないと、少々困ったことになるのです」
「幸運にも、今日王冠が戻ってきたのですから、あとは護衛を連れて王都に帰るだけとはならなかったのはなぜでしょうか?」
俺の必要性は、王冠を取り戻した時点でないだろう。廃塔は道が狭いから軍を動かしづらい。とはいえ不可能ではないはずだが、なんで冒険者にも依頼したのだろうか。
ユリア王女は分かってもらえたのが嬉しいのか、うんうんとうなずいている。
「それは、私の命を狙っているものがいるからです。自由に動けるのが私だけだったのでこの都市ナールトにグリフォン退治に兵を連れて参ったのですが、道中怪しげな者たちや賊どもに襲われまして半数のものが怪我をしてしまったのです。怪我した者たちはこの都市で療養させておいて、私は先に王都に帰る必要があります。レク様、どうか私をお助け願えませんか」
「……ちなみに怪しげな者たちとはどういった者たちでしょうか」
「こう、額に紋様の入った同じローブをかぶった者たちです」
平の字を反対にしたような紋様を指でテーブルに描く。間違いない邪教徒だ。邪教とは意味の分からない集団である。魔王を信仰していて、様々なところで命を差し出してモンスターを召喚する。最後には教主も魔王を召喚してぷちっとされる。
本当になんなんだ。あの集団は。
後の懸念点は、コレントの都市に魔軍の襲撃がある日までの日数だが、まだ余裕がある。飛行石もあるし、大丈夫だろう。
「わかりました。この冒険者レクにお任せください」
「ありがとうございます」
お姫様は立ち上がって、ドアへ近づく。俺に手を差し伸べる。
「さあ、参りましょう」
「どちらにでしょうか」
「王都にですわ」
お姫様のフットワークは軽い。そんなことを学んだ。