王冠の行方
まだ暗いうちに塔の天辺で目が覚めた。
東の陸と海の境目から日が出てくるのは圧巻の光景だった。
ただ問題は、風が寒いということだ。俺は毛布にくるまっていた。
俺が『パーティー』を開いてレベルを確認すると昨日のボス連戦のおかげかレベルが1だけ上昇していた。このレベル帯になると最終ダンジョンに突入するまでレベル上げが見込めないので、上がったことが嬉しい。
さあ。日も出てきたことだし、コレントの都市に帰ろう。これまでアルファベットLのように討伐してきた俺だ。コレントの都市に直行しよう。ボスクラスモンスターの気配があれば、寄り道をしながらになるが。
早速廃塔から降りた俺は、コレントの都市に直行つもりだった。俺が『マップ』を見てみるとあることに気がついた。ここからさらに東に行くと、港町があるのだ。ゲーム時代はとっくに魔軍の支配領域だったので敵がいる廃都市のイメージしかなかったが。この時代なら都市がある。冒険者ギルドがある。つまりはボスの情報があるということだ。行ってみるしかない。
俺は、海を横目に港町へと歩き出した。それにしても、港町か、この世界では海には魔物がいて、モンスターですら立ち入らないからな。どんな感じなんだろう。
俺は楽しみだ。
しばらくすると都市の入り口に着いた。門番さんに誰何されたが、冒険者であることを説明してシルバープレートを見せるとあっさりと都市の中に入れた。大通り歩いていると市場があった。屋台が並んで籠に入れられえた魚や貝、蟹が売られている。買っていこう。
第一目標が変わったときだった。市場を巡りながら、生のものはもちろん、調理された売り物も大量買いして、アイテム欄に入れていく。目についた短剣、槍類も今後使うかもしれないので購入。今の俺はグリフォンから奪った金貨をもっているから、お金の心配はない。市場の端から端まで回った俺は満足したので冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに入ると、そういえば初めて入る冒険者ギルドだな。十五歳くらいの少年に絡まれた。
「おう。子どもが何の用だ。冒険者は命を落とすことも多くある職業だ。ガキにはまだ早え、帰った帰った」
初級冒険者であるカッパーの親切な少年だった。俺は黙って首元のシルバープレートを親指で引っ張って強調した。
「嘘……だろ」
自分よりはるかに年下に見える少年に冒険者ランクで負けて膝から崩れ落ちる少年。その騒動を見ていた周囲も俺が中級冒険者であることに気がついてどよめいた。
「嘘だろあの年で中級冒険者?」「俺はあいつが入ってきたときから、気がついてたがな、―――こいつは違えって」「嘘だろ、絶対」「それにしてもあの年でってなると本当にすごいな」「パーティメンバーの募集とか見てくれないかな」
どこの冒険者ギルドもにぎやかだな。
俺は早速掲示板を隅々まで見る。……ボスモンスターの情報が少ないな。精々がサイクロプスだ。とりあえず、サイクロプスと。……ん?西にある廃塔のグリフォンが持ち去った王冠の奪還の依頼がある。ああ……予感が的中した。とはいえ、義を見てせざるは勇無きなり、か。サイクロプスと王冠の奪還依頼をべりべりとはぎ取ると俺を観察していた周りからどよめきの声が上がる。
俺はギルドの受付嬢のところに向かった。青色の髪をした活発そうなショートヘアの女性だ。
「ボク。サイクロプスの依頼を受けてくれるの?中級冒険者の判断なら大丈夫だと思うけど気をつけてね」
お姉さんもギルド入り口での騒動をみていたらしい。サイクロプスの依頼をすぐに受注してくれる。
「でも、こちらのグリフォンの依頼はやめておいた方がいいかも。グリフォンは中級冒険者でも苦戦する敵だし、なによりすっごい獰猛なモンスターなんだよ。昼行性だからよるひっそりと近寄ることはできないかもしれないけど、グリフォンの宝物に触るなんて、石を抱いて海に潜るようなものだよ」
がおーとした動きをした後、真剣に注意をしてくれる。
「いえ。もう王冠はとりもどしてあるんです。グリフォンの討伐してきたので」
懐から取り出すふりをしてアイテム欄から王冠を取り出す。
「え゛っ」
こんな感じの声前も聞いたな。
俺は王冠をそっとカウンターに置く。こんな持っていることがばれたら大変になるのが分かっているのをアイテム欄の中といっても持っていたくはない。
「それでは依頼の処理をお願いします。俺はサイクロプスの討伐に向かいますので」
「は、はい」
がくがくと頭を震わす受付嬢に後処理を丸投げして俺は冒険者から逃走した。