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竜の血液

 冒険者ギルドは冒険を終えた人々で混んでいた。

 イリス姉さん、忙しそうに仕事をしていたが、目があったら、笑顔をくれたので、こちらはぶんぶんと手を振っておいた。笑顔が大きくなった。やった。


 掲示板をみる。新しい武器の試し切りは13日にしかできないけれど、レベリングはまだまだできる。万全を期して魔軍の襲撃に備えなければならない。

 うーん。やはり、グリフォン、キマイラあたりが狙い目か。明日の朝改めて見て、どうすれば短い時間で回れるのか考えて討伐に出かけるとしよう。


 ん?掲示板の中心に金色の依頼票が貼られている。こんな色の依頼票は見たことがない。なになに。


『あなたの勇気と能力をすべて発揮せよ。王国は竜退治の英雄を求めている。竜の血液を納めしものには莫大な栄誉と財産を与えん』


 そういえばとルーン戦記の設定資料集を思い出す。そういえば、王の長子が病死したことで、国内が混乱しより一層魔軍の進軍を許してしまったとか書かれていたがする。


 竜の血といえば、万能薬として有名だ。もしかしたら、王家は長子の病気を治すために竜の血を欲しているのかもしれない。

 なら、これもルーン戦記の敗戦の歴史をぶち壊してやるのに必要なことか。

 竜の血はどんな怪我も直してしまう力があるので自分たちの分を確保しておきたかったのだが、少々減っても問題はない。

 それにこれも運命というやつだろう。この世界に来てからというもの運命というものを信じはじめている。


 俺は金色の依頼書を剥がした。周りから「ドラゴンスレイヤーのレクさんがついに立ち上がったぞ」「ああ。ドラゴンスレイヤーのレクさんなら間違いねえな」「王国の栄光とレクさんの栄光に乾杯」などという声が聞こえてくる。依頼の達成報告を終えているからって飲み始めるのが早すぎませんかね。


 俺は依頼書をイリス姉さんに渡す。


「レクくん。レクくんはすごく強いけど。この依頼は流石に……」


 無理だといいたいのだろう。でも、イリス姉さん、もう達成しています。


「はい、これが竜の血液です。納品をお願いします」

「え゛っ」


 イリス姉さんから聞いたことのない声が聞こえた。それにしてもアイテム欄から血液を出すと瓶詰になっているのはなんなんだ。ありがたいけども。

 イリス姉さんは震える手でギルドの鑑定部に竜の血液を渡すと、固い声で尋ねてきた。


「レクくん。どうして竜の血液を持っているの」

「それはですね。竜に勝ったからです」


 ひゅっと息を吸い込む音がしたと思うと、イリス姉さん椅子に倒れこむ。そのまま横に倒れないように、受付に膝で乗ってイリス姉さんを支えた。


「レクくん」

「はい」


 イリス姉さんはぼーっとした瞳でこちらを見つめてくる。そうしておもむろに両手を俺の身体に回した。身体がやわらかい。いい匂いがする。


「レクくん、ドラゴンは軍隊でも勝てるか分からない強大なモンスターなの。本当に無事でよかった」

「はい、ご心配おかけします」


 えっ、イリス姉さん抱きしめては万力のようになってきていませんか。気持ちいいというより痛い。


「それで、レクくんは何度心配かけるの」

「いたい、いたいです。イリス姉さん」


 しばらくすると、笑って離してくれた。俺も受付から降りる。


「この依頼書、有望な冒険者には受注させろって圧力が各ギルドにかけられていて、もしかしたら、いつかどこかのパーティーがむりやり受注させられていたかもしれない。けど、レクくんのおかげで解決しちゃった。ありがとう」

「いえ、偶然の結果ですから、それよりもイリス姉さん、周りが」


 周囲を見渡すと面白そうにこちらを見ている冒険者がいっぱいだ。中にはイリス姉さんに恋心を抱いていたのかハンカチを嚙んでいる男性もいる。


「イリスはいつ嫁に行くのかと思っていたけど、ショタコンだったか」「おりゃあ、レクへの目が尋常じゃないことに気がついてたぜ」「俺のイリスさんがあんな小僧に」「あんな小僧っていってもマジなドラゴンスレイヤーだぜ、あきらめろよ」「いや、イリスお姉さまは誰にも渡したくないわ」


 てんやわんやだ。


「それじゃあ、イリス姉さん、今日も遅いですから俺も帰ります」

「ちょっとレクくん。一緒に収拾をつけてくれないの」

「酒も入ってますし、時間しか解決できないですよ」


 俺は冒険者ギルドから逃走した。俺はイリス姉さんに抱きしめられたことで顔が真っ赤になっていたことに気づかれたくなかったのだ。

 ゆっくりと孤児院への帰り道を歩きながら、顔の火照りを冷ますのだった。

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