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装備更新依頼

 朝、廃教会に差し込む朝日に目を覚ました。

 長椅子の上で寝たので、身体がバキバキだ。なんとなしにラジオ体操をしつつ、今日の予定を確認する。

 

 まずはカゼル村のおじいさんに報告をしに行かなくてはいけない。その後は鍛冶屋と防具屋に寄って、時間があったら冒険者ギルドに顔を出して次の討伐対象を探してみよう。


 さっそく疾風を発動して、カゼル村へと向かった。


 村の中心ではおじいさんが泣いていた。


「儂のせいなんじゃ。あんな若者を引き留めなかった儂が…」


 何やら死んだことにされていたので、驚かせないようそっと声を掛ける。


「―――おじいさん」

「ひえええ!」

「生きてます。生きてます」


 おじいさんは泣くのをやめてこちらを向いた。


「そうか、それでは何とか逃げることができたのか……よかったのう」

「いえ、おじいさん。人食いのサイクロプスなら倒してきましたよ」

「なにっ、それは本当かの?しかし村人たちが信じるかどうか」

「証拠にサイクロプスの首を刈って持ってきました」

「……おおう。本物じゃったか。すまぬが村の者に見せるため、出してはくれぬか」


 俺は麻袋を逆さにすると同時にアイテム欄からサイクロプスの首を落とした。


「おおう。なんというおそろしい顔じゃ。少ないがこれが、村から依頼しようとみんなから集めてきたお金じゃ。持って行ってくれ」


 カゼル村はとてつもない寒村だ。冬を前にこの出費、耐えられるのだろうか。

 俺は差し出された袋から、銅貨を一枚取り出すといった。


「報酬は確かに頂きました。残りのお金は村のためにお役立てください」

「……お、おう。お金は村のみんなに返しておくとします」


 いまいち心を打たなかったらしい。仕方がない。


「それでは私はコレントの都市に帰りますので、それでは」

「冒険者様、ありがとうございます」


 手を振りあって、別れを告げる。実際報酬はもらっている。サイクロプスという経験値の場所を教えてくれたことだ。それで充分である。


 今度は休み休み走っていると、昼過ぎにコレントの都市に帰ってこられた。コレントよ帰ってきたぞ。

 ドラゴン討伐にテンションが高くなっていた俺は、鍛冶屋のガンダのおっさんのところに駆け込んだ。


「おっさん。今時間あるか」

「うおっ!レク坊か。時間ならあるぞ、どうした」

「緊急で仕事を頼みたいんだ。できれば、12日までに剣を打ってほしいんだ」

「剣を打ってほしいってレク坊は、十日前に剣を買ったばかりじゃねえか。いくらなんでも新しい剣は早すぎるぞ」

「これを見てくれれば、ガンダさんも分かってくれるさ」


俺はカウンターに竜の牙を置いた。

ガンダのおっさんは息を止めたように牙を見つめている。震える手で牙を撫でる。


「レク坊。これはまさか」

「ああ。自分で竜を倒したんだ」

「……竜を、倒した」


 聞いた言葉が信じられないように、復唱する。ガンダのおっさん、手は牙を撫で続けている。……手触りがいいのかな。


「レク坊。期限は12日までだったな」

「ああ。短くて申し訳ないけどそれまでに新しい剣が欲しいんだ」

「俺はこの仕事をやりてえ。竜の牙を扱えるなんて鍛冶師の誉れだ。こちらから頼むレク坊、この仕事俺に任せてくれ」

「あ、ガンダのおっさん。俺今無一文なんだ。現物で悪いけど報酬はこれでなんとかならないかなあ」


 今度はカウンターに竜の爪を置く。

 ふたたび、凍りつくガンダのおっさん。


「そうだよな、竜を倒したんだものな。十分すぎるぐれえだ。任せてくれ」

「はい。刀身はこの翡翠の剣程度の長さでお願いします」


 鍛冶屋での交渉が終わった。やったぜ。


 そのテンションのまま、隣のリエル防具店へと駆け込んだ。

「リエルさん?いますか」

「はーい。誰って、レクくんか」

「リエルさんに防具を作ってもらいたくて来ました」

「防具ってほんの十日ほど前にその皮鎧を買っていったじゃない」

「リエルさん。これを見てくれ。どう思う」


 俺はカウンターに竜の皮とうろこを置いた。

 リエルさんも息を止めたように竜の皮を見つめている。手が竜の皮を撫でる。


「こんな皮を一度だけ王都でみたことある。これは……竜の皮ね」

「ああ。竜を倒したんだ」

「……竜を、倒した……」


 信じられない言葉を聞いたかのような表情をする。手はいとおし気に竜の皮を撫で続けている。その素材に触れ続けるのは職人の性なんだろうか。


「リエルさんにはこの皮で皮鎧と、竜のうろこを使った胸当てを作ってほしいんだ。期限は12日までで」

「12日まで……レクくんこの仕事私にやらせてちょうだい。しっかりと仕上げてみせるわ。最高にかっこいい竜の防具を作って見せるから」

「あー、防具の外見は今みたいな感じであんまり目立たない皮鎧がいいな」

「……そうなの」


 リエルさんのテンションがガタ落ちだ。なんとかせねば。


「でも、今の俺一文無しだから現金の代わりに竜の皮とうろこで支払おうと思っているから、リエルさんの理想の防具はそっちで作ったら」

「い、いいの?」


 支払いに竜の皮とうろこを使ってもまだ、竜素材は十二分に残る。現実補正なのか、ゲームでは一討伐につき2,3しかうろこや皮が落ちなかったからドラゴンを狩るマラソンが必須だったが、丸々一匹分の竜の巨体に見合った素材が手に入っている。大人一人分の素材なら問題ないだろう。


「いいよ」

「やった」


 小さく飛び跳ねる。リエルさんそんなにうれしいのだろうか?


「防具職人として、竜の素材を扱えるのは本当の一握りだけ、こんなチャンスをくれてありがとうレクくん」

「いえ、俺も今の皮鎧作ってくれた。リエルさんに竜素材で改めて防具をつくってほしいとおもっていたんだ」

「……ありがとう、レクくん」


 涙ぐんだようにいうリエルさん。けど俺は、未知の素材を使った剣や防具をたった10日で作れっていっている側なので結構鬼だと思うのだけれど。感動してくれているのならまあ、いいか。


 俺は、リエル防具店を出た。日は西に沈み始めたばかりだ。まだ時間があるな。

 冒険者ギルドにも寄っておこう。

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