竜との対峙
今日は黄玉の月の1日だ。朝起きた俺は、構ってくるちび達にいなしながら朝食を食べて、庭の隅っこにアイスビッシュ砦で回収した石柱を立てる。もしかしたら役に立つかもしれない。それから冒険者ギルドに向かう。
「俺、これからは遠くまで行かなくちゃいけない依頼も受けていくから帰らない日もあるから、心配しないようにな」
みんなにそう言っておいた。実際ダイケルさんもサイクロプス討伐は日を跨いでいた。仕方のないことだ。
シスターテレサとフレアは心配そうにしていたが、納得はしてくれたらしい。
さて、どうしたものか。依頼票の貼られた掲示板を前に考えこむ。理想をいえば、経験値的うまくて、次の武器・防具素材になる奴がいい。
サイクロプス……数がいないと経験値的によくない。グリフォン……経験値的にはよろしいが、武器防具にはならない。魔軍が放った魔道ゴーレム……素材が岩。
そんな風に目を凝らしてみていると、掲示板の隅っこに討伐依頼票ではなく。古びた注意喚起が貼られていた。北西にあるカゼル村からさらに、北西の死の山脈付近に竜が現れたこと。竜は死の山脈の麓に巣を作っているらしく。近づくことへの注意喚起をしている。
俺は『マップ』を開いてピンを刺した。ゲーム知識も併せて考えるにこの廃墟に竜はいるのだろう。
俺の装備はレベル15をイメージして装備を選択している。レベル37になった今、流石に性能が不足している。しかし、竜の素材がゲットできれば、今のレベル帯どころか、100レベル辺りまでは通用する装備が作れるだろう。
俺ならば『システム』のボイスをカットすることで強制的に硬直させられる咆哮を防ぐことができるだろうし、主人公補正があるのなら操る呪文は効かないはずだ。操られそうになったら状態異常ポーションを使って逃げればいい。
考えれば考えるほど名案な気がしてきた。
「イリス姉さん、ちょっと今日は装備変更のため帰ります」
イリス姉さんにそう伝えて、冒険者ギルドを出る。依頼ではないので受付を通す必要はないのだが、一応。
竜と戦うなら回復アイテムが十二分に必要となる。今ある全財産をはたいてマーテル商会でポーションを買い込む。
周囲を見渡してみたが店頭にサリアはいないらしい。
俺はコレントの門から出ると『スキルツリー』を開くと移動速度を上げる風魔法の『疾風』と剣閃を遠くまで飛ばすことができるようになる『飛閃』を習得した。ハヤブサの指輪と疾風の魔法の合わせ技なら今日の昼までには着くことだろう。
俺はひたすらに走った。今の俺は風だ。
太陽が頂点に差し掛かる頃、カゼルの村に着いた。冒険者自体が珍しいらしく、村人から奇異の目で見られている。おずおずとおじいさんが話しかけてくる。
「ボク。立派な武器をもってなさるが、冒険者さんかい?」
「ええ。冒険者です」
駆け出しの冒険者ではないことを証明するために首下にあるシルバープレートに親指を引っかけて強調する。
驚きに目を丸くする老人。駆け出しの冒険者ではなく中級冒険者であったことが意外だったのだろう。
おじいさんがいいづらそうに言う。
「実はこの辺で人食いのサイクロプスが出てな。丁度冒険者ギルドに依頼をしにいくところだったんじゃ。どうか代わりに依頼にいってくれないだろうか。最近モンスターどもの動きがおかしいので、村から都市にいくのも恐ろしいのじゃ」
「それなら私が引き受けます。これでもサイクロプスを倒したことは何度もありますから」
「……それは……しかし……」
老人の目には、問題を解決してくれるのではないかという期待とこんな子どもを死地に追いやってよいのかという葛藤が複雑に入り混じった。
「まあ、まかせてくださいよ」
安心させるために、さも何ともありませんとばかりに行ってみせる。
「……ううん。サイクロプスは人を食べるが鈍重じゃ。お前さんなら装備を捨てて全力で逃げれば、逃げられるじゃろう」
逆に不安にさせてしまったみたいだ。バッドコミュニケーション。
「帰ってきたときの報酬を用意しておいてくださいね。それでサイクロプスはどこですか?」
「ここから西にある森の中じゃ。絶対に無茶をしてはいかんぞ」
「はい」
俺は『マップ』を開くとこの村から西にある森にピン差しをして、村から出た。
また、ひたすら走る。ゲームでも馬とか買えなかったからなあ。
一時間もしないうちに森に着く。おじいさんが言っていたサイクロプスは寝ていた。遠慮なく眼球に翡翠の剣を突き刺した。目蓋と眼球を貫かれる痛みにサイクロプスは暴れる。だから無造作に手足を振り回すのは危ないぞっと。ジャスト回避を利用してサイクロプスに攻撃を加えていく。
サイクロプスがこちらを叩き潰そうと振り下ろす腕に合わせて股下にダッシュ回避していく。大きく跳ねて後ろ首に翡翠の剣を突き刺す。サイクロプスは倒れた。
俺はサイクロプスの首を跳ね飛ばすとそのまま意識してアイテム欄に入れた。アイテム欄にはサイクロプスの首と表示される。本来なら討伐証明に必要な眼球だけが表示されるはずだがこんな使い方があるのか。まだまだ知らないことがたくさんだ。
カゼル村の依頼をこなした俺はこのまま竜の住む廃墟に向かうことにした。こちらがメインの目的である。
昔は多くの人々祈りをささげていたであろう大教会の廃墟にその竜はいた。
崩れた女神像。砕けた長椅子などを下に敷いて。
全身を覆う赤いうろこ、鉄をも引き裂きそうな鋭い爪。何者が相手でも食いちぎれそうな鋭い牙。なにより雄大な姿に感激した。
これが、リアルドラゴン。
さあ、挑ませてもらおう。