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ただいま、コレントの都市

 日も暮れ始めている。


 まずはマーテル商会からだ。急ぎ足で向かう。

 帳簿をつけているサリアの姿があった。


「レク。無事だったのね。お帰り」


 サリアはすました顔をしていう。

 

「サリア。『レクっ!無事だったのね!心配していたのよ』っていってくれないの」

「心配してたわ。でもちゃんと帰ってくるって約束してたからね」

「あはは。信頼してくれてありがとう」

「どういたしまして」

「それじゃあ、もう遅いし孤児院に帰るわ」

「うん。また来なさいよね」


 続いて、冒険者ギルドに向かう。

 イリス姉さんの受付に列ができていたので並ぶ。待っている間に『パーティー』の画面を開く。レベルが37にまで上昇している。もともとアイスビッシュ砦は中盤のエリアだったし、サイクロプスや狂魔女クライディアのボスを倒すことができた。これらが大きなレベルアップにつながったのだろう。やはり、今後するべきはボスマラソンか。

 順番が来ると、怒ったような顔をしたイリス姉さんがいた。


「レクくんてば、合図をしても無視するんだもの……お姉さんショックだったわ」

「あー。ごめんなさい。考え事をしていました。それより、イリス姉さんちゃんと帰ってきましたよ。ただいま」

「うん。ちゃんと無事に帰ってきてくれてありがとう。おかえりなさい」

「ちょっと怪我をしそうな場面はあったけど、ポーション類はしっかりと用意してたし、風の護りのおかげでほとんど怪我もなかったよ。無茶はしなかったよ」

「それならよかったわ」

「短いけど、後ろに並んでいる人がいるし、帰るね」

「うん。心配していたから今日報告に来てくれてありがとうね」


 俺は冒険者ギルドをでた。

 横目に冒険者ギルドの酒場で「どうやらレクさんがまた大きなことをやったらしいな」「グランドスネーク以上の大きなことってなんだよ」「ドラゴンとかじゃねえの」「じゃあドラゴンスレイヤーレクさんか」「ドラゴンスレイヤー誕生に乾杯」などといって酒をあおっているのを見た。俺が倒したのは人皮竜であって竜じゃないから。それにもうなんでも飲む理由にしてんじゃねえか。


 孤児院への帰途へ着く。外はもう日が落ちて暗い。俺は『システム』から明度をそっと上げた。明るくなった。俺はストレージから串肉を取り出してかぶりつく。

 今日はいろいろな人と会って疲れた。アイスビッシュ砦から領主館、マーテル商会に冒険者ギルド。いろいろ行ってるな。

 孤児院の玄関はもう閉められていた。ドアノッカーで扉を叩く。

 しばらくすると声がする。


「どちら様でしょうか」


 シスターテレサの声だ。夜の訪問客ということで警戒していることが伝わってくる。


「レクです。シスターテレサ。帰ってきました」


 ガチャガチャと扉の鍵を開く音がすると、シスターテレサが扉をすごい勢いで開いた。


「レク!無事だったのですね!」

「はい。シスターテレサのお祈りのおかげもあって大きなけがもなく無事に仕事を終えました」

「良かった。女神さまに感謝しないとね。レク、お腹は空いていませんか?」

「帰りながら屋台のものを食べて帰ってきたから大丈夫だよシスターテレサ」

「もうそろそろ寝る時間だったのに起こしてごめんね」

「いえ、丁度お祈りをしていたところだったの。そうしたらレクが帰ってきてびっくりしたわ。さあ、中に入りなさい。レクも疲れたでしょう。早く寝なさい」

「はーい。シスターテレサ」


 促されて孤児院に入る。……シスターテレサは毎晩祈っていてくれたのか。心配かけているなあ。

 濡らしたタオルで身体を拭いて、俺はベッドに寝転んだ。


「レク。おかえり」

「ただいま。フレア」

「無事に帰ってきてくれてありがとう」

「危ない場面なんてほとんどなかったさ。大丈夫だったよ」

「ほとんどってことは、ちょっとはあったんじゃない」

「そのとき用の保険もあったし、大丈夫さ……」

「どうしたのレク?」

「いや、眠くて。あと、なんかただいまっていえる場所があるのはいいもんだなって今日一日で思った」

「レクったら当たり前のことをいうのね」

「当たり前かあ。フレアは賢いな」

「レク。今日も一緒に寝ていい?」

「今日はダメ。帰ってきたのが遅かったから、濡れタオルで身体拭くことしかできてない。なんか心なしか、からだが埃っぽい感じがするからダメ」

「レクったら、ばっちい」

「ああ。ばっちいから今日はダメだ」


 くすくすと笑う、フレア。見えるのはベッドの底だけだが、なんだかとても幸せそうに笑っている。


「レク。おやすみなさい。頑張ったね」

「おう。おやすみ」


 ぼんやりと窓から月を眺める。今日で蛋白の月が終わる。明日から運命の月となる黄玉の月の始まりだ。

 なんだか今日の月はまぶしく感じるな。そんなことを思って目をつぶった。

 二分後に『システム』を開いて明度を落とす己の姿があった。

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