ローレン将軍とルーツ副官
ローレン将軍は戦後処理に追われていた。
「おう、そっちの資材はあっちの倉庫室いれておいてくれ、それと随時中庭で火を焚いてあれらを燃やしていけ」
アイスビッシュ砦の中はパッチワークの化け物やその部品として扱われた人々はモンスター達、他にも城内にいたサイクロプスやゴブリン達の死体が今も残されている。人間が住める環境にないのである。
今後はこのアイスビッシュ砦で人類の防衛拠点の要となる。早々に軍が配備できるようにしなければならない。
「戦功の見分がとりあえず終わりました」
副官のルーツが報告にやってきた。
「アレの報告は最後でいい。他に優れたやつはいたか」
「はい、アレ以外にもあの異形の騎士やゴブリン達を討伐した者たちが計上されております」
「戦功はきちんと借りてきた各領主軍に伝えねばならんでな、きちんと記録しておいてくれ」
「はい」
「それじゃあ、アレの功績を聞こうか」
「はい。数えられているものに限りますが、異形の騎士三十体以上、ゴブリンを五十体以上、サイクロプスを五体、ドラゴンを一体、そして歴史書にも残っている魔将、狂魔女クライディアが一体ですね。ほかにも誰が倒したのかが分からなかったものが多くありますがいかがしましょうか」
「わかっているのだろう。どうせあれの功績だ。それも数に入れておけ」
深いため息が出る。長い間の懸念が解決したのだ。今だけはこのけだるさに身を任せたい。
「それにしてもアイスビッシュ砦の攻略、存外スムーズにいきましたね」
「そうだな。攻めている間にゴブリンに見つかり、サイクロプスどもが城壁で防衛に徹するのが厄介なのであって内側からなら存外脆かったな」
「ははは。違うとわかって仰っているでしょう」
「ああ。御伽噺には聞いていたが俺は英雄というものを初めて見た。兵士たちが三人がかりでも苦戦する異形の兵士を一蹴し、サイクロプスを瞬殺。歴史書に出てくる魔将を打ち倒すことに至ってはここ十数年ではなかったことだ」
煙草に火をつける。不快な血と脂が燃える匂いが少しましになったように感じる。
「将軍だって、人類の最前線を書き換えました。軍団功績賞に値する偉業ですよ。周囲の人間はこれから将軍のことを名将と呼ぶことでしょう」
「やめてくれ。名将なんて柄ではない。それにアレは作戦で英雄的行動をしたものに与えられる銀翼賞に魔将を打ち倒したものに与えられる双竜賞だ。私なんて大した活躍でもないさ」
「しかし、英雄が活躍するのは魔軍やモンスター討伐までです。これからこのアイスビッシュ砦を守っていくのはローレン将軍ですよ」
「将軍か。ルーツ。ここだけの話、私は将軍ではなく英雄になりたかったよ」
どこまでも高く昇っていく煙草の煙を見ながらルーツもぽつりとこぼす。
「自分もです。年々魔軍に侵略される人類圏に英雄になって取り戻したいと、だれもが思ったことでしょう」
「ルーツ。ここ数年の魔軍の動きが活発になっている。英雄殿がどんな戦場にも間に合えるように、我々がしっかりと防備を固めなくてはな」
「ええ」
大人たちは自分の役割を全うするべく精を出すのであった。