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コレントのお嬢様 桃

 メイドさんに先導されて2階の部屋に向かった。

 上がって右端にある部屋だ。


「お嬢様。お話しされておりました。冒険者様をお連れしました」

「入ってください」


 小さな鈴の鳴るような声が聞こえた。メイドさんがドアを開いて招いてくれる。

 薄いベールのような天蓋のついたベッドにその子は座っていた。緩やかでふんわりとした亜麻色の髪。窓から差し込む光に髪が天使の輪がある。小柄で華奢な体つき。ただ、目だけが印象を裏切ってきらきらと輝いている…まごうことなきお嬢様だ。俺は大いに挙動不審になった。手足が一緒に動いている。


「こほっ。おはようございます」

「お、おはようございます」


 返事すらどもる。駄目だ。レクの部分に引っ張られすぎている。レクと同い年くらいだぞ。ふう、オレハレイセイになった。


「この度はお招きしてくださりありがとうございます。冒険者のレクと申します」

「私は父、マーカス・コレントの娘のアリア・コレントと申します」


 俺は片膝をついてお礼申し上げる。


「まあ。強大なグランドスネークの討伐なさったというからもっと猛々しいお方なのかと思っておりましたが、私と同じくらいなのですね」

「ええ。今年で9歳になります」

「ふふ。私もこほっ今年9歳だわ」

「同い年ですね」

「レク様。私の命を救ってくれてありがとう」


 まだ治療が開始していないのか時折せき込んでいる。


「レク様はどうして冒険者になられたの?よろしければ教えてくださらない?」

「ええ。私は孤児院の出でして、手っ取り早く自分でお金を稼げるようになるために冒険者になりました。それに、冒険者になれば自分で食べるものを狩ることもできますから」

「まあ。必要に駆られてのことだったのですね」

「ええまあ。しかし、スライム相手に負けるぐらい弱かったので、どこかの職人に弟子入りするべきかと悩んでいたところ運よく女神さまから戦士の寵愛を受けて、今に至ります」

「……グランドスネークはスライムに比べてはるかに強大なモンスターであると聞きます。そこに至るまでにたくさんの冒険をなさったのでしょう。こほっ。よろしければ、聞かせてくださいな」

「戦士の寵愛を受けてから毎日モンスターを狩り続けて、さらに戦士の寵愛を受けて、またモンスターを狩り続けての繰り返しがあっただけですよ」

「もう。レク様のいけず。ベッドから動けず、暇を持て余してしまうのですわ。なにかお話をしてくださらない」


 なるほど、病気になってからベッドに軟禁状態なので暇で暇で仕方ないのか。


「それでしたら、なにかのお話でよければ話しましょう」

「ええ!是非お願いいたします」


 何の話をするべきか。教養のあるお嬢様だ。レクが知っているお話くらいは知っていると仮定するべきだろう。ならば。


「昔々のことです。おじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは森に薪拾いに、おばあさんは川に選択をしに行きました。すると、川の上からどんぶらこどんぶらこと桃が……」

「ちょっと待ってください。どんぶらこどんぶらことはどういう意味なのでしょう」

「川の上をものがゆっくり流れていく様を音にしたものとお考え下さい……続けますよ。桃が流れてきました。おばあさんはこれは大きな桃だと、喜んで拾って帰りました…」


  それからしばらくして話は終わる。


「ふふふ。不思議で面白いお話ですね。桃から勇者が生まれて、動物の犬と猿と鳥を仲間に強大なモンスターを倒すなんて。ねえ、もっとお話を聞かせてくださらない」

「ええ。次のお話は……」


傍に控えていたメイドがずずいと入ってくる。


「お嬢様。そろそろお休みのお時間ですよ」

「ええー。メイリス今日ぐらいは……」

「駄目です」


 そんなやり取りを横目に俺は席を立つ。


「お嬢様。他の話はまたお会いすることがあればいたしますよ」

「約束ですよ」

「ええ。約束です」


 部屋から出ると、ロビーへとメイドのメイリスさんが案内をしてくれる。ふと、メイリスさんが頭を下げた。


「レク様、お嬢様のお命を救ってくださってありがとうございました」

「いいえ。私は冒険者の仕事をこなしたまでです。それにお礼はご領主様からもお嬢様からもいただきましたよ」

「私からのお礼も受け取ってください。それにあんなに楽しそうにしているお嬢様を見るのは本当に久しぶりで私も嬉しくなりました」

「それはよかった」


 ふと、メイリスさんの表情が真剣なものになる。俺も合わせて真剣な表情をする。


「アイスビッシュ砦の攻略に挑むと伺いました。レク様のご無事をお祈りしております」

「ああ。大丈夫ですよ。無茶をするつもりはありませんから。無事に帰ってきます」

「アイスビッシュ砦といえば難攻不落の魔軍の拠点、その攻略に無茶をしないなんていえるのはレク様だけかもしれませんね」

「そんなことはありませんよ。いつか私より強い人もでてきますから」


 主人公のことである。


「そんなことは想像もつきませんが……。お帰りになる際に馬車はご利用されますか」

「いえ、歩いて帰ろうと思っています」

「かしこまりました。またのお越しをお待ちしております」


 館の門から出る。さっきまで領主館に入っていたんだなあと思うと、感慨深い。

 ふと、2階の右端に動くものがあったので目をやると、アリアが手を振っていた。……お嬢様。ベッドでちゃんと寝てないと治るものも治りませんよ。

 手を振り返すと、ベッドで寝ているようにジェスチャーで伝える。

 アリアは膨れたような顔になって窓から顔を離した。


 今日は領主さまに協力のお願いができたし、次の攻略目標もできた。それに可愛らしい女の子と友達になることができた。グッドだ。

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